第八の依頼 運命を分かつ白双 ――11月

8-1 序 捕らわれのイデュールを

【運命を分かつ白双】


 不思議な不思議な店がある。魔法の王国の片隅に。

 店の扉を開ければ、魔導士の姉弟が客を迎えてくれるだろう。

『願い、叶えます! アリア&ヴェルゼ』

 看板には、そんな文言が書かれている。


  ◇


 カランコロン、ドアベルが鳴る。今日も頼まれ屋アリアでの一日が始まる。

「はーい、ようこそ頼まれ屋アリアへ!」

 アリアは元気よく客を迎えた。

 やってきたのは、白いフードをかぶった人物だった。顔はよく見えない。フードの隙間から、白い髪が零れ落ちているのが見えた。体格は華奢で、男性にも女性にも見える。

「こんにちは」

 フードの人物が声を掛ける。柔らかな声音。声からして男性とわかる。

「僕の名前はフィード。イデュールの民です。フードをかぶっているのはそのためだと理解してほしいですね」

 イデュールの民。その言葉を聞いて、ソーティアが店の奥から出てきた。

 フィードと名乗った青年は、ソーティアを見て驚いたような声を上げる。

「おや、ここにも同族がいたのですね。ああ、でも話は聞いたことがあります。あなたがこのお店の居候、ソーティア・レイ……と。ああでも面識はありません。完全に初対面ですね」

 お願いがあります、と彼はアリアの方を向いた。

「人間たちに、僕の大切な仲間が捕まってしまったんですよ。あなた方には彼を助けてもらいたくてね? もちろんお礼は弾みます。お願いできますかね?」

 成程、とアリアは頷いた。

 しかしこれは難しい問題でもある。

 そのイデュールを助けた結果、こちらが普通の人間たちに目をつけられたら? そうしたらいつも通りに店を営業できなくなる可能性もある。今回の依頼に関しては、営業のリスクがあった。

 だが、困っている人がいれば放っておけないのがアリアだ。

「わかったわ……引き受ける! 頼まれ屋アリア、依頼、承りました!」

「あなたならそう言ってくれると思っていましたよ」

 フィードは、フードの中でふふふと謎めいた笑みを浮かべる。

 賛成はできないな、とそれを見て店の奥からヴェルゼが出てきた。

「今回の依頼にはリスクがある。怪我とかそういったのとは別の、な」

「でしょうねぇ。ああ、ならこれで納得してくれますかね?」

 不信感をあらわにするヴェルゼを見て、フィードは胸元から何かを取り出した。それは笛だった。その笛は、

「エルナスの、笛――!?」

 追放された故郷の特産品。それを何故持っている?

 困惑する一同。フィードはそのまま笛を奏で始める。

 流れたのはエルナスの音楽。エルナスに住んでいた者しか知らないはずの、特別な音楽。

「お前――何者だ?」

「知りたければ、依頼を受けて下さいよ」

 飄々とした態度でフィードが返す。

 ヴェルゼは大きく溜め息をついた。

「……わかったよ。受ける。で? 捕らわれたそいつはどこにいる」

「イノシアの森まで同行願えますか? ああ、出来れば今から。大切な仲間です、すぐにでも助けたいので。僕じゃ戦えないんですよ」

 アリアは複雑な表情を浮かべた。

「……わかったわ。準備する」

 相手がどんな人物なのかはまだわからない。不信感だってもちろんあるが、依頼を進めなければどうせ何も分からない。

「そこに机と椅子があるでしょ。ちょっと待ってて」

 言って、アリアは自分の部屋のある二階へ向かった。その後をヴェルゼとソーティアが付いてくる。

 そんな皆を、フィードが面白がるような目で見ていた。

「……君は何者なんだい?」

 亡霊ゆえに準備する必要のないデュナミスが問うが、「どうでしょうねぇ」とフィードははぐらかすばかり。


  ◇

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