6-8 終 うっすら晴れた灰色の霧

 数時間後、アリアたちはゆっくりとリノールの町に着地した。着地まで丁寧である。この規模の魔法をこんなに長い間維持出来るなんて、とアリアたちは改めてフェンドリーゼのすごさを実感した。

 店の扉を開けて、アリアは大きな声で叫んだ。

「たっだいまー!」

 久しぶりに帰って来た店。帰って来ると、ああここが自分の居場所なんだなと実感する。王宮なんてきらびやかなところ、似合わない。ましてやヴェルゼと引き離された状態でなんて。

 王宮は一度関わってきた。フェンドリーゼは極力向こうが関わってこないようにすると言ってくれたが、どうなるのかは分からない。これ以上この町にいたら危険かもしれない。しかし借金を返し終わってはいない。

「……ひとまずは、借金問題が解決したら今後のことを考えましょうか」

 ずっとずっとリノールにいたいと思っていた。しかし状況によってはこの町を出ることも考慮せねばならないだろう。そして。

「デュナミス」

 ヴェルゼが透明になろうとしていたデュナミスに声を掛けた。

「穏やかなお前があそこまでキレるなんて珍しい。理由を聞かせてもらえないか」

「……思い出した、んだよね」

 デュナミスが顔をしかめつつ答えた。

「ほら、前に言ったろ。僕は貴族の家アルカイオンの息子だけど、本当は養子だったんだって。ある時僕は拾われたんだって、そんな話」

「拾われる前のことを、思い出したのか?」

「うん、少し」

 僕はどこかの王族だったはず、とデュナミスは言う。

「そこはとても良いところだった。でもね、当代の王がすっごく嫌な奴で……何か、酷い目に遭ったような気がする。だから僕は王族が好きじゃない」

「貴族かと思ったら王族かよ? すっごい生まれだな」

「ん……でも記憶が曖昧で。どこ出身かは思い出せないなぁ」

 分かっているのは、王族の彼が昔、王族によって酷い目に遭わされたということ。フォーリン王子のやったことは、その時のデュナミスのトラウマと似たようなことだったのだろうか。だから彼は珍しく、あそこまで怒りをあらわにしたのか。

 権力は暴力と相通ずる。それを忘れてはならない。

 分からないことはまだ多い。頼まれ屋アリアの中でも問題は山積みだ。借金は返さないとならないし、シドラとの因縁も決着がついていないしデュナミスのことも、ソーティアの故郷のこともある。ソーティアはいずれ故郷に戻ってみたいですとも言っていた。

 やることは、やらねばならないことはあまりにも多い。だがひとまずは。

「頼まれ屋アリア、依頼再開しました……なんてな?」

 日常に戻って来られたことを、喜ぶべきだろう。

 それから数日間は、アリアがヴェルゼに対してとても過保護になり、鬱陶しくなったヴェルゼが家出してしばらく戻って来なくなったのは別の話である。


【権力色の暴力 完】

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