6-6 解放の風は宝石の
「やぁ、囚われのお姫様。起きて。君に幸せを届けに来たよ」
囁くような声に目を覚ますと、そこには見知らぬ青年が立っていた。
闇の中で顔は見えない。男性ということはわかった。彼の周囲では何もないのに、小さな風が吹いていた。
「……誰?」
疲れ切った目で相手を見る。すると相手は悪戯っぽい声でこう言った。
「王子様」
「……は?」
驚き飛び起き、明かりとして簡単な炎魔法を使う。暗闇の中にぼんやりと浮かび上がったのは、緑色。緑色の髪が真っ先に目に入り、続いて見たのは左右で色を変える瞳。右目が青緑、左目が青。宝石のような瞳を持つその青年は、飄々とした雰囲気を身に纏っていた。
「紹介しよう。俺はアンディルーヴ魔導王国第二王子、フェンドリーゼ・アンディルーヴ。まぁたあの駄目兄貴が変なことやったって情報聞いたからさ、飛んで帰ってきたんだよね。案の定だよまったく」
無邪気に笑う彼からは、悪意なんて微塵も感じられない。
同じ王子なのに、彼はあの第一王子とは全然雰囲気が違っていた。
「俺はあんたを助けに来たんだ。まぁあんたは俺からすりゃ赤の他人だけどさ、誰かがあいつのせいで囚われているっていうのが気に食わなくって、ね」
「……ヴェルゼは?」
思わず問うたアリアに、安心しなと彼は言う。
「あっちには俺の部下が向かってる。第二王子の部下だ、引き留められるもんか。しかもこっちには魔法破壊の破術師がいるんだし、部隊の精度からしてもこっちのが上。兄貴の部隊は俺のよりは弱いぜ」
まぁ、そんなわけで、と彼は手を差し出した。
「あんたはさ、こんなところより穏やかな場所で暮らしてる方が似合う気がするんだよな。だからさ……ここを出てみない? 帰ろうぜ、あんたの家に」
「……うんっ!」
アリアは大きく頷いた。
ずっと望んでいた、いつかここから出られる日を。
王宮魔導士なんて望んでいない。ヴェルゼやソーティアたちと引き離されることなんて。
差し出された手を取れば、全身に力が巡ってくるのを感じた。
じゃあ行こう、と彼が言う。彼に手を引かれてアリアは外へ出る。
外へ出てしばらく歩いた先で、懐かしい影を見た。
「――ヴェルゼッ!」
◇
暗闇の中にあっても、見間違いようのない黒い姿。武器も返してもらったのか、背にはいつもの大鎌がある。
アリアは思わず駆け出して、黒い姿に抱き着いていた。
「ああ、ヴェルゼヴェルゼ! 本物だ! 生きてるわ!」
「……姉貴、苦しいんだが」
ヴェルゼがくぐもった声をもらすと、アリアはヴェルゼを解放した。その隣にはソーティアもデュナミスもちゃんといる。引き離された大切な人たちがちゃんといる!
ヴェルゼの側には、茶色いフードを被った顔の見えない人影が、何も言わずに立っている。第二王子の腹心なのだろうか、人影はフェンドリーゼ王子に一礼した。
「改めて、名乗ろうか」
第二王子の悪戯っぽい声。
「俺はアンディルーヴ魔導王国第二王子、フェンドリーゼ・アンディルーヴ。今回は兄貴が悪かったね。謝ったって、奪われた時間は取り戻せないんだけどさ……」
左右で色の違う瞳が、宝石のようにきらりと光る。
「まぁでも、謝らせて欲しいな。本当に、悪かった!」
頭を下げる彼に、慌ててアリアは言った。
「第二王子様のせいじゃないです! またこうやって会えましたし、大丈夫ですよ!」
「ん、そう? あー、あと俺のことはフェンでいい。呼び捨てが嫌ならフェン様でな。長い呼び名は面倒でね」
あっけらかんとした声で彼が笑った。自由な人だなとアリアは思う。
と、そこへ。
「フェンドリーゼッ!」
怒りに震えた声がした。
◇
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