10-Aー4 歓迎されぬ帰還
翌朝。
それぞれ旅支度をしたアリアたちは、別れることになった。
アリアたち姉弟は西へ、ソーティアは北へ、デュナミスは南へ。
向かう場所は違ったが、また会えることを信じて疑うことはない。この店で紡いできた絆は、簡単に切れるものじゃない。
「じゃあ……また、このお店で! 誰の用事が最初に終わるかは分からないけど!」
アリアが手を振れば、
「はい……そちらこそ! お元気で!」
「ふふ……健闘を祈るよ」
ソーティアとデュナミスが返す。
こうしてアリアたちは別れた。
新年を迎えた明の冷たい空気の中、アリアたち姉弟は歩く。アリアとヴェルゼ、二人きりの旅なんていつぶりだろう。デュナミスが来てからはいつも彼が一緒だったし、新しくソーティアもやってきた。姉弟水入らずになれる機会なんてなくなった。無論、新しい仲間たちのことが嫌いなわけではないが。
見上げた空からは雪が降っていた。カルダンに会えることはとても嬉しいけれど、追放された故郷だ、どうしても気が重くなる。アリアたちは無言で歩いた。
そうやって、数時間が過ぎた。雪の向こうに、ぼんやりと何かが見えてくる。それは、町を取り囲む巨大な木柵だった。エルナスの町の象徴ともいえる、排他的な雰囲気を漂わせる木柵。
「着いたな……」
ヴェルゼが呟く。
目を細めれば、町の入り口付近に人影があるのが分かる。十中八九、アルテアだ。カルダンはいるだろうか。人影が完全に確認できる距離まで近づき、近くにあった木の後ろに隠れる。アリアの横で、ヴェルゼが胸元から下げた笛に口をつけた。
音は、流れない。カルダンにしか聞こえない。しばらくのやり取りがあったようだが、やがてそれも終わったらしい。笛を仕舞ったヴェルゼに問う。
「……話、ついたの?」
ああ、とヴェルゼは頷いた。
「気を逸らしてくれるってさ。何か起こっている隙に一気に中に入るぞ。目的地はカルダンの家だ。走る準備をしておけよ、姉貴?」
「分かったわ」
答えた、直後。
懐かしい大声が、した。
「うっわ! やっべぇ! アルテアさーん! アルテアさーん!」
「その大きな声はカルダンか。どうした?」
「狼! おっきぃの! おれさ、戦えないから何とかしてー!」
「まったく……」
大声に反応し、アルテアが持ち場を離れる。今だ、とその隙に、アリアたちは町に入り込んだ。目指すはカルダンの家。物陰に隠れて様子をうかがいながらも、慎重に動く。
二年ぶりに戻ってきた故郷。懐かしさがこみ上げてくるが、今は我慢だ。カルダンの家を目指して進む。アルテアの姿はない。
家の前に着く。扉に手を掛けると、開いていた。音を立てないように慎重に中に身体を滑り込ませ、ようやく一息つく。第一関門クリアである。
「懐かしいわね、ここ……」
感慨深く呟いた。
カルダン・ウィオリュートは笛職人の息子。彼の家には作業場も一緒についている。アリアたちが子供の頃は、何度もこの家に遊びにきたものだった。ある程度は勝手の分かっている家である。
「居間はここよね。しばらく待ちましょうか」
「だな。何事もなければ、じきにあいつは戻ってくるはずだ」
そうしたら、二年ぶりの再会になるのか。
明るくて大らかな幼馴染と、また会える。アリアの胸は高鳴っていた。
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