1-6 王都に眠る光と影と
翌朝。
カーテンが開けられて明るい朝の光が差し込んだ。朝の光に目が覚めたアリアは大きく伸びをして身を起こす。自分の傷はまだ治り切ってはいないが、昨日よりはましだと判断、隣のヴェルゼの様子を見に行く。
「おはよう、アリア」
デュナミスがそんな彼女に声を掛けると、おはようと元気よくアリアは返した。
「デュナミス、昨日はありがとうね! お陰でぐっすり眠れたわ。ところでデュナミスは眠らないの?」
「死者である僕には睡眠なんて必要ないんだよ。これくらい問題ないさ。アリアは優しいんだねぇ」
「そっか、良かったわ!」
頷き、アリアはヴェルゼのベッドを覗き込む。ヴェルゼの瞼が開き、朝の光のまぶしさに何度も瞬きした。
「おっはよー、ヴェルゼ! 調子どう? 元気?」
「…………姉貴、わかったからそこを退いてくれないと身を起こせないのだが」
「えっ、あっ、ごめんっ!」
アリアは自分が丁度ヴェルゼの身体の上に身を乗り出していたことに気づき、引っ込んだ。
「その様子なら姉貴も元気そうだな。オレも完調とは言えないが大分楽になった。これなら箱を奪った奴らとも戦えるだろう。それに今は二人揃ってるしな」
呆れたように言いつつも身を起こし、デュナミスに気づいて礼を言う。
「昨日は、済まなかった」
「謝る必要なんてどこにあるんだい? 僕らは大親友、だろ?」
そんなヴェルゼの謝罪を、明るく笑ってデュナミスは退けた。
さて、と彼は真剣な表情になる。
「箱を奪った襲撃者は、厳重に封印された箱を開ける方法を探していたみたいだ。幸いにもまだ開けられていないけれど油断は禁物だ。こっちがうかうかしてるうちに、奴らは解除の方法を発見するかもしれない。場所は王都のスラム街の廃墟。ちょっとわかりにくいところに集まっていたから僕が案内する。奴らは箱を開けるまでそこに留まっているつもりなんじゃないかな」
「わかったわ」
「了解した」
デュナミスの言葉に姉弟は頷く。
「じゃあ行くわよ!」
早速、と言わんばかりのアリアに、
「……何も食べずに行くつもりか。腹が減っては戦はできぬというだろう」
呆れたようにヴェルゼが突っ込むのは、もはや恒例行事である。
◇
宿の料理でお腹を満たし、宿の女将に代金を払う。
ふよふよ宙を浮かぶデュナミスについていって王都の道を進む。しかしデュナミスは浮かびながらも、左足を引きずっているようにも見える。それに気が付いたアリアは問うた。
「デュナミス、左足、どうしたの?」
「ん? ……ああ、癖になっちゃっているんだねぇ」
気付き、デュナミスは苦笑いを浮かべた。
「生きていた頃、左足に大怪我を負ってそれ以来引き摺るようになったんだよ。今のこれは……無意識のうちに出ちゃったけど、その頃の名残、かな」
死んじゃった今はもう関係ないんだけどね、と少し悲しそうな顔になった。
デュナミスは足を引き摺りながらも宙を歩く。その様は死んでいるのに生きていた頃の思いに取りつかれたままのようにも見えて、悲しげだった。
やがて。
「ここだよ」
複雑な道をいくつも抜けて、アリアには帰り道が分からなくなった頃、デュナミスがそっとある場所を示した。それは薄汚れた石と金属で作られた廃墟で、建物の周囲にもごみがたくさん捨てられていて悪臭を放ち、人が寄りつくようなところにも見えない。壁の一部にも穴が開き、場所によっては窓硝子が割れて破片が地面に散乱している。
アリアは思わず鼻と口を覆った。
「きらびやかな王都に、こんな場所があるなんて……」
「光の裏には影がある、当然だろ姉貴。こういった影が、忌むべき一面があるからこそ、王都はあんなにも輝いていられるんだ。影無き光など存在しない。摂理だろう?」
ヴェルゼがそういった光景から目を背けることをせず、淡々と言葉を発した。
さて、と彼はデュナミスを見た。
「案内ありがとな。さっさと行かないと手遅れになる。――行くぜ」
彼の言葉に頷いて、二人と一体は廃墟の中へ、侵入する。
◇
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