第2話菩薩の使い
「お待ちしておりました、どうぞこちらでお休みください」
眼の前にいるのは、明らかに普通の人間ではなかった。
何故それが分かるかと言えば、両菩薩から授かった能力で、相手の能力が分かるからだ。
「君は両菩薩の関係者なのかい?」
「はい、私は両菩薩から、この世界を見守り管理するように命じられております。
今回はご主人様を新たな主人とし、命懸けで仕えろと命じられました」
真面目な表情と口調で、とんでもない事を言ってくれる。
命懸けで誰かに仕えてもらえるほど、俺は立派な人間じゃない。
だけど、真剣に仕える気でいてくれる相手に、そんな事を口にできない。
熱い思いを踏み躙られるほど、俺は無神経な人間じゃない。
それに、眼の前にいる子がとても魅力的で、心から側にいて欲しいとも思う。
いい歳になって寿命で死んだくせに、情けなくも邪欲煩悩を克服できていない。
「そうかい、それはありがたいな、それでは名前を教えてくれるかな」
「マリーと申します、これから宜しくお願いしたします」
「マリーとは美しい響きのいい名前だ。
俺は佐藤一朗と言う、これからはイチロウと呼んでくれ」
「承りましたイチロウ様、これからはずっとイチロウ様と呼ばせていただきます
お風呂の準備も食事の準備もできておりますが、どうなされますか?」
光り輝く黄金の毛並みがとても奇麗で、思わず見とれてしまう。
金色の瞳に見つめられたら、金縛りにあってしまいそうな気がする。
声色も気品のなかに艶やかな色香があり、いつまでも聞いていたい思いがする。
侍女服を凛々しく着込んだマリーの後に続くのだが、自然と視線がヒップに釘付けになってしまい、心に激しい動揺が走る。
俺にこんな特殊な趣味があったのだと、生れて初めて気が付いた。
小説やアニメの世界では普通の事のように書いているが、これは異類婚姻譚だ。
俺は人間で、マリーは獣人なので、特殊な性癖がなければ劣情などもよおさない。
マリーは完全人間形態ではなく、半獣形態なのだ。
完全獣形態でないので、まだましともいえるが、俺の常識ではそれでもダメだ。
だが、そんな気持ちの動揺を、マリーに気が付かれるわけにはいかない。
マリーは菩薩に仕える者として、俺にも仕えようとしてくれているのだ。
そんなマリーに劣情を感じているなんて、人として主人として絶対に許されない。
理性を総動員して劣情に打ち勝とうとして、無意識に強く手を握っていた。
有難い事に、眼の前に劣情に勝る欲望を刺激するモノが置かれていた。
何とも言えない美味しそうな香りを放つ、 骨付サーロインステーキ、俗にいうTボーンステーキだ。
熱い鉄板の上に、プチプチを脂をはじく大きな肉が鎮座している。
定命が尽きる前は、頭と心は厚く大きい肉を欲していても、胃腸が受け付けてくれず、食べることができなかった。
両菩薩のお陰で若く健康になった身体なら、全部食べることができる!
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