異世界整体師

克全

第1話菩薩に異世界に飛ばされた

「やあ、よくきたね、待っていたのだよ」

「そう、そう、私たちはずっと貴男を待っていたのですよ」


 俺は死んだはずなのに、眼の前に二柱の菩薩がいる。

 余りにも定番で笑いそうになるが、異世界転移か転生だろう。


「いやあ、貴男は話が早くて助かりますよ」

「そう、そう、いちいち説明するのが面倒なので、貴男のような人は助かります」


 やはり神仏には、言葉にださなくても全て伝わるのだな。

 だがそれでは、腹の中に納めている悪意や邪心を見抜かれてしまう。


「そんな心配は不用だよ、人間の醜さ汚さなんて先刻調子だよ」

「そう、そう、貴男は人間の中ではとても奇麗で、話していても楽ですよ」

「そうなんだよな、平均的な人間と話すと、醜くて穢くて嫌になるよ」

「そう、そう、さっき会った人間なんて、地獄に落としたくなってしまいました」


 随分と正直に答えてくださるのだな、だったら教えていただけるだけ、事情を説明していただきたいものだ。


「ああ、いいよ、ここでは時間が流れないからね」

「そう、そう、貴男には頑張ってもらいたいから、全てお話ししましょう」


 眼の前におられる二柱の菩薩は、薬王菩薩と薬上菩薩だそうだ。

 両菩薩は時間をかけて全ての事情を教えてくださった。

 お陰でよくあるウェブ小説のように、情報不足で異世界に放り出されずに済んだ。

 でも、俺が選ばれた理由が、体質だと言われた時には笑ってしまった。

 正確には、魂の性質によって、異世界転移が有利な者と不利な者がいるそうだ。


 たまたま俺は、両菩薩が管理を任されておられる異世界に転移するのに有利な性質なので、両菩薩の望み通りに発展しない異世界をテコ入れして欲しいと言われた。

 まあ、今の記憶を持ったまま生き直せるのなら、なんの文句もないのだが、あまりに危険な世界は嫌だった。

 

 だが、平穏無事な世界なら、何もわざわざ地球の魂を異世界に送る必要などない。

 送られる世界は、両菩薩が見るに堪えないくらい荒れている世界だという事だ。

 それに、小説によくあるスキルや能力の事もある。

 菩薩、しかも医薬に関係する菩薩に、戦いの能力やスキルを望むのは難しいと思い、それを確認してみたら、確かに直接的な戦闘能力やスキルはなかった。


 ただ、整体や医薬を使った能力とスキルは豊富で、戦闘支援補助として十分役に立てそうだったし、自分の人生経験とも合致していたので、受けてもいいとは思った。

 だが、一つだけ気になると言うか、望みがあった。

 転生転移した異世界が気に入らなかった時の、俺の魂の殊遇だ。


 気に入らない異世界で輪廻転生させられるのは、正直嫌だった。

 記憶はなくなるとはいっても、愛する家族や友人知人の魂がいない嫌いな異世界で、輪廻転生を繰り返したくはない。

 もし俺が異世界を気に入らなかった場合は、地球に戻してもらう確約が欲しい。

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