第2話 妖精と草原と星と

 今日はいい天気だ。雲ひとつなく太陽のまぶしい光が大地を照らしている。


 森の中で暮らしていたとはいえ、森の中にも光は届いていたが、それも一部で視線を逸らすとまた闇が広がってしまう。


 ここでは見渡す限りの木々や草花に、太陽の光が優しく降り注いでいる。

 

 こんな光景は今まで見たことがなく、周りの風景を眺めているだけでも故郷を離れた甲斐があるというものだ。

 

 辺りに生い茂る草花の中でも一際大きな花、そんな目を引く花の葉っぱの上に腰を下ろしそんなことを考えていた。


「さて休憩もおーしまい。」

 

 そんなことを言いながら、おもむろに座っていた葉っぱの上で立ち上がり辺りを見回すのだった。


「さて、しゅっぱつしゅっぱーつ。」


 どうやらこれから向かう先を決めたようで、準備運動なのか、背中に付いている可愛らしい羽をパタパタと羽ばたかせ風に乗り飛び立つのだった。


 風に乗り羽を羽ばたかせ、自分の下方、何処までも続く広い草原、初めて目にする生き物や草花、そんな光景を目にしているという実感と幸せ、それを噛み締めながら風にのり進んでいくのであった。


「じゆ~~だ~~~~。」


 というほんのひと時の幸せな時間もつかの間、彼女は今草の根を力任せに分けながら歩いていた。そして目の前に高くそびえる大きな木をよじ登ると。


「ちょっまっ」


「いつまで続くのよこの草原は・・・。」


「さすがに無理じゃね。距離的に。」


 飛びたってそれなりに時間はたっていたが、今までの経験上ではもっと長くもっと遠くへ移動できていたはずだ。それにこんなに疲れることもなかった。


 先程までは魔の森でずいぶんと彷徨っていたが、それもで今以上に飛べたし、疲れもさほどはなかった。


 ではなぜそんなことが出来ていたのか、このポンコツ精霊は魔の森をずいぶん彷徨っていたのだが、そんなことが出来たのは魔の森が放つ魔力のおかげというものが大きかった。


 随時魔の森の魔力が体に流れ込んでいた。そのため多少の疲れはあったものの無事に抜けることが出来ていたのだ。そうでなければ森の養分になっていたか、天敵の餌になっていたことだろう。


 要は充電しながら彷徨っていたことになる。


 だがあの森を除けば他の大地が持つ魔力は微微たるもの。力を使えば使った分だけの補給が必要となるわけだが、ここではその補給がおぼつかない。そんなことはつゆ知らず何も考えずに飛んで出発してしまった。完全に力配分を間違ったのである。。


 いくら飛べるといっても体の大きさは他の種族の中でも特に小さく、かつ飛べば魔力を消費する。そんななか見渡す限りのこの草原を自分の力だけで横断するのは並大抵のことではなかった。


 今まで味わったことのない疲労を感じつつ、立ち止まって愚痴を漏らしながらも、しかししばらくするとまた歩き出すのだった。


「やったろ~じゃないのっ。」


 そんな空元気を出して歩き出すわけだが、やはり体は重く歩くスピードも下がっていき、とうとう足が止まってしまう。


「よしっ。休憩。」


 そういうとおもむろに辺りを見回しなにかを探し始めたようだった。


 暫く歩いていると。


「見つけたっ。」


 どうやら目的の物を見つけたようで、近づいていくとどうやら彼女が探していたのは花だったようだ。


 すると彼女はどこから取り出したのか、植物で出来たストローを花に突き刺すと勢いよく吸い始めたのだった。


「チュ~チュ~チュ~。」


「ペッペペッ。にがっ、これにがっ。」


 どうやらお目当ての花ではなかったらしく、暫くすると他の花の物色をし始め、花にストローを突き刺すと、吸っては吐きを繰り返しているうちにようやく、目的の甘い蜜の花を見つけたようだった。またまたどこから取り出したのか、植物で出来た自分の顔程はある大きさの容器に蜜を移し始めた。


 一つの花から蜜を絞り出すと、今度はまた別の同じ花を探しだしこれを数回、十数回繰り返しようやく謎の容器いっぱいに蜜が満たされたが、せっかくためたそれをを一気に飲んでしまうのだった。なお未練がましいのか、空になってもストローで吸い続けるのだった。


 そして当然のように空になった容器にまた先程の作業を繰り返し、容器に蜜を満たしていくのだった。


 なぜか時間が経つにつれ手足はふらついていき、どう見ても順調ではないのだが、なんとか容器を満たすことには成功したようで、今度は飲まずに体の何処かにその容器を大事そうににしまうのだった。


「よひっ。ヒック。これへいけう。」


「むしろこれがなヒック。これがないとけなヒック。」


 という謎の言葉を発しまた歩き始めるのだった。


 妖精これはとても不思議な生き物で、この種族に関してわかっていることは数少ない。


 そのなかでも世間にしられていることで有名なことといえば、悪戯好きであること。甘いものに目がないことなどがあげられる。


 そして一部の者にしかしられていないが、なぜか妖精が取り出す花の蜜は大変美味であり、飲むととても幸せな気分になれるというものがあるが、まあ簡単に言うととても美味しいお酒ということになる。


 そしてその妖精、自分で作った蜜を飲むととても元気になるが、すぐ酔っぱらってしまうらしい。


 過去には酔っぱらった妖精が他種族にみつかり、捕まってしまうといった例もあったそうだ。


 そんな妖精だが、酔っぱらってもある程度の時間がたつと酔いが醒めてしまうようで、捕まった者の大多数はどうにかして逃げていいるのだが。もちろん悪戯のオマケ付きで。


 そしてこの妖精も例に漏れず、はじめはふらふら歩いていたものの、時間がたつにつれだいぶまともになったように思える。


 そんなこんなで飛んで、歩いて、休憩して、時々飲む、これをを繰り返す内に日も暮れ辺りが少し暗くなってきたころ。


「よし、今日はここまでっ。」


 そう言うと唐突に歩くのをやめ、よほど疲れていたのだろうそのまま地面に倒れこむのだった。


 大地から魔力を吸収しているため食事は不要なのだが、お腹は減るもので先程の花の蜜と何かを混ぜ合わせた棒状の食べ物を懐から取り出し、ボリボリと食べるのだった。


 しばらく時間が流れ、少しは疲れがとれたのだろう。辺りはもう暗くなってはいるものの立ち上がって周囲を歩き出した。


 まずは木々をみているようだ。木の高さや太さを見比べ、今度は木の枝をたたき始めて何かを確認しているようだった。


 次に葉っぱ探し、身の丈ほどの葉っぱをいくつも見比べてそれを先程の木の枝に置き、木から降りて今度は草花を抱えるだけ抱えて先程の木の枝へ持っていく。そいて起用にもさきほどの葉っぱと組み合わせていくと、簡単な寝具の出来上がりだ。


 出来上がったそれをしばらく見つめていたが。


「なんか違う。」


 なにを思ったのか。不満だったのだろう。完成した寝具を木の枝から蹴飛ばして、また新たな材料を探して彷徨いだした。


 この作業を何回か繰り返しようやく満足いく物が完成したようで。


「そう。これよこれ。」


 これには本人も納得したようでおもむろに自分の服を弄ると、またまたどこから取り出したのか、あっというまにパジャマに着替え、出来上がったばかりの寝具に顔だけを出して潜り込んでしまった。


 疲れていたのですぐに眠りにつくものと思われたのだが、そんな様子もなく彼女はずっと空を見上げていたのだった。


 隙間から見えるそれを。


 彼女の目に映っているのは空に浮かぶどこまでも続く暗い闇ではなく、どこまでも広がる無数の星々のきらめく光。


 今いる右も左もわからないこの世界の中で、故郷で眺めていたそれと、ここで見えるそれは相変わらずの同じもので、ほんのちょっぴり勇気を与えてくれて、ほんのっちょっぴりの郷愁を彼女に感じさせるには十分なものだった。


「いけないいけない。明日もあるんだし早く寝なきゃ。」


 そういうと出していた顔を潜り込ませ。最初のうちは寝具の中でごそごそと動いてはいたのだが、しばらくすると動きもおさまり、よく耳を澄ますとスピースピーという寝息が聞こえてくるのであった。

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