第3話 妖精と寝坊と狼と

 暗い草原の木の上で目を覚ましたそのかわいらしい生き物は、寝具から飛び出すと、ぼさぼさの髪に、よだれの垂れた顔、よれよれのパジャマ、体に付いた草花などはお構いなしに、目をシュパシュパさせながら辺りをすごい勢いで見回し始めた。


 おかしい、なんかおかしいわ。昨日寝た時はたしかに暗かったのになぜか起きても暗かった。なぜだろう。不思議だ疑問だ。まだ夜明け前なんだろうきっと。それにしてはがっつり寝た感じがするのよね~。


少し周りを見回してみるとなにやら叩き潰され無残にも原型をとどめていない植物らしきものがあった。


この植物は魔の森に生えている不思議な植物で、朝になると美しい音色をかなでるので、村のみんなは目覚ましとして利用している 。

 しばらくそれを見つめた後。


 「ね~す~ご~し~た~~~。」


 と叫ぶとすごい急いで身支度を始めるのであった。


今は夜。寝たのも夜。そして無残にも潰されていたそれを見て確信してしまったのだ。


 身支度をある程度終えたものの、枝に座り一向に動き出す気配はない。どうやらなにか考えているようで。


さてどうしよう。あたりは完全に暗いし、ここで朝になるのを待つのものいいんだけど、することなくて暇だしさてどうしよう。


すると。


 「まーいーか。どうにかなるでしょ。」


そういいながら準備をすませ木の枝から飛び立つのであった。


暗いながらも月や星の光にうっすらと大地がてらされ、最低限は見えるようで。


「こんな中で飛ぶのも悪くないでしょ。」


 などと言いつつかすかに見える目標へ向かって飛んでいくのであった。


「さて一。休みしましょ。」


さすがに前回で学んだのか体力を温存するために、今回は木から木へと移動し、その都度休憩をはさんでいるようだ。


村から飛び出してきたものの、さすがにここからは勢いだげでは限界があるわよね。なにかしらの計画は必要だわ。


などと考えているうちにある程度回復したのかまた飛び立っていくのだった。


やっぱりここを私一人の力で乗り越えていくのって限界があると思うのよね。無理じゃないけど。


やっぱりどう考えても私の足の代わりになる何かが必要になってくるわよね。もちろん一人でも無理じゃないけど。


そんな強がりのなか、何度目かの休憩のこため木の枝に止まり腰を下ろした時だった。


 「クークークー。」


休んでいる木の下からそんな動物の寝息が聞こえてきたのだ。


「ちょっ。なんか下にいる。」


どこか興奮したように下を眺め、枝からそっと飛び出し地面に着地すると、ひっそりと歩き出すのだった。


するとそこには大きな体で毛並みの良い、もふもふとした尻尾を持つ狼が気持ちよさそうに寝ているのだった。


起きないようにこっそりと近づいた彼女は、すっかり寝入っているのを確認すると、狼の周囲を歩き出すのだった。


やばい。あのくちから生えた牙やばいって、

噛まれたらまじやばいって。


 などと思いつつも。


でもあの尻尾もやばい。モフモフしすぎてまじやばい。


モフモフした尻尾の誘惑にかられては近くへより、またあの牙を見つめては離れ、近寄っては離れを繰り返す内にあることに気付いた。


 「あれなんか刺さってる?。」


よく見ると木の枝が足に刺さっているようで。


なにを思ったか妖精は近くに落ちている木の枝や小石を草むらに隠れ、狼に向かって投げ始めた。


「どうやら起きる気配はないようね。」


すると体を動かしなにかのシュミレーションなのか、奇妙に体を動かし始めた。


見たところ何かを抜く動きから、抜いた後流れるように近場の草むらに飛び込む。そんな動作を幾度も行っていた。そしてその場でこぶしを握ると。


「これで勝つる。」


何かを確信したのか、謎の言葉を発して狼に近づいていくのだった。


びくびくしながら近づいていき、狼に刺さった枝を両手持ち、必死に引っ張るがなかなか抜けない。


するとその場から離れ、座り込んでしまった。


一度はあきらめたかにみえたが、しばらくするともう一度草むらに入り、近くにあった小枝や小石を投げ出し、目を覚まさないことを再度確認するのだった。


そして近づくと両手で枝を持ち、今度は両足を狼の足にかけちからいっぱい引っ張っていった。


「抜けろやこらー。」


すると今度は抜けたはいいものの、抜いた反動で体は後ろに大きく転がり、草むらに突っ込んでいった。が計画とは違うものの無事隠れることには成功したようで。


さすがに狼も抜いた痛みからか目を覚まし、立ち上がると周囲をうかがいだしたが、どうやら周囲に異常はないと判断したのか、また横になると寝息をはくのだった。


「ふっ。計画通り。」


泥だらけの服を両手で叩き、はたから見ると全然計画通りにことはすすんでいないのだが、当の本人は満足したようだ。


さてどうしよう。抜いたのはいいけど、さっきの様子を見る限り、だいぶ痛みはあるみたいだし。


「そうだっ。あれがあった。」


また暫くして狼が起きないことを確認すると、どこからか蜜の入っている物とは違う容器を取り出し、青いドロドロ状のそれを手に付けると、狼の足の傷口にそうれはもう塗りたくっていった。


これは彼女曰く、村に伝わる秘伝の薬らしく、何の葉か名前は忘れたが、すり潰したものらしい。当の本人が作ったらしいが、そのあたりいい加減である。なんとかしてほしい。


すると休憩していた元の木の枝に上り腰を下ろし、満面の笑みを浮かべ。


「我ながらいい仕事だったわ。」


「欲を言えばもう少しスマートさが欲しかったところね。」


と満足そうにしていたが、急に黙り込み。


「・・・」


「って、違うわよ。」


そういいながら立ち上がり、もう一度狼のもとへ向かうのだった。


違うわよ私。たしかに狼の傷を癒すこともあれだったけど、本当の目的はこれでしょ。


彼女目の前には狼のモフモフとした。それはもうモフモフとした尻尾が地面に横たわっていた。


「これでしょ。これこそが本当の目的。」


彼女は唾をゴクリと飲み込むと。


「えいっ。」


そう言いながら彼女はモフモフしたそれに両手を突っ込みながら幸せそうな顔を浮かべつつ、今度はそれに顔を押し当てるとぐりぐりと顔を左右に振りだした。


「あっ...」


次に何を思ったのか、モフモフのそれをを自分の体に巻きつけていくのだった。


「あっ...。これだめっ。これだめなやつだょ...」


「これ以上はだめ。これ以上は。」


などと暫くは一人で騒いでいたのだが、みるみる動きが止まっていき、暫くすると彼女の動く気配が一切感じられなくなっていった。


一切動かないのだが、近づい耳を澄ませてみると。


「んご~。んご~。」


・・・。


これはあれだな。あれなんだろう。いい仕事のご褒美としておこう。


彼女は満足そうな顔でモフモフにつつまれつつも。


「これ以上はだめだょ~。」


などと言いながら幸せなのだろういい夢を見るのであった。

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