第3話・執事様の新しい家族と乙女ゲーム


乙女ゲーム世界転生。

そんな三流小説もびっくりなベタ展開がまさか自分の身に起きるとは……。

しかも悲しいかな"悪役令嬢"というポジションで。


私の前世…ミリの時に一番ハマっていた乙女ゲーム"星宝の歌と運命の恋"…通称“歌恋”。

幼い頃に父を失ってしまい女手一つで育てられた伯爵令嬢ーティアラは、五歳のときに公爵家に連れて行かれる。

一体どうしたのか…と不安になるも、その内容は自分の母と公爵様との結婚話。困っているところを何度も助けられ、それでも頑張る健気さが公爵様に見染められたらしい。

「これでお母さんの苦労も報われる!」と喜ぶティアラだが、ここから白豚悪女ーアリシアの虐めが始まる。

フワフワとした可愛い金髪に桃色の瞳…THE・ヒロインというような可憐な容姿に嫉妬し、母親の愛を知っていることに嫉妬し、義兄と実弟、父に庇われていることに嫉妬する……ゲームの中のアリシアはそんな少女だ。

そして彼女は学園の卒業パーティーにて断罪され、娼館落ちか死刑になる。


「はぁぁぁぁ~~っ。どうしたものかねぇ?」


本来なら『フラグ回避~っ!』とか言って奔走するべきなのだろうが、生憎しょう娼館落ちも死刑も嫌じゃない。

…寧ろ可愛い後輩に裏切られて殺された前世の方が酷い。


「んー…でも折角の二度目の人生、楽しく生きたいしなぁ…」


色々殴り書いたノートに突っ伏して呟く。


「いや!ぐちぐち考えても未来は分からないし!自分の好きなように生きよう!たとえ殺されても後悔はないように!!」


…エドワードの言っていた"脳筋姉さん"は残念なことに事実だったらしい。


**


「ティ~ア~ラ~ちゃん!!」


思い立ったら即行動!をモットーにしているアリシアは早速バラ園にいるティアラへ向かって行った。


「わぁあ!?」


おぅ…可愛い……流石はヒロインだ。

心の中で感心しながらオドオドしているティアラに話しかける。


「ティアラちゃん、公爵邸にはもう慣れた?なにか困ったことがあったら言って!何でも手伝ってあげるよ!!」


自身の腕を叩きながら威張るアリシア。しかしどうしたのか、ティアラの表情は晴れない。


「………アリシア様。あの…私……」

「アリィ」

「え?」

「アリィって呼んで!貴方と私は姉妹になるのだから、アリシア様なんて他人行儀な呼び方はやめて欲しいな…」


っていうか、私が妹になるのだから本来なら"ティアラ姉様!"と呼ぶべきなんだろうね…。


「!?!?あ、あの…アリィ……様、?」

「ううん、アリィだよ!"様"は無しでもう一度!!」

「あ、アリィ……」


うわぁぁぁああああああああ!!

可愛いぃぃぃぃぃいいいいいいいい!


「ティアラちゃんっ!!」


アリシアが自分の欲望を抑えるように顔を引き締め、ティアラの名を呼んだ。


「え?あ、はい…?」

「私と結婚してくれくな……」

「いや、なにやっているの馬鹿アリィ」


"い"と言い終わる前に、ティアラの手を包んでいるアリシアの手をエドワードが叩いた。


「!!エディ!見ての通り求婚よ!」

「いや、アリィもティアラ姉さんも女でしょ」

「愛に性別なんて関係ないわ!」


恋愛小説でもよく言っているじゃない!

…まぁ職業柄TLしか詳しくないんだけど。


「「いや、あるでしょ」」

「……え?あ、セオドール兄様!?」


いつの間にかツッコミが二人いたことに驚きながら声がした方を見る。

サラサラとした肩まで茶髪に、紫の瞳を持ったアリシアやティアラよりも二つ上の義兄ーセオドールだ。


「うん。アリィは本当に面白いねぇ~」

「いえ兄様。アリィの変人っぷりは面白いの域をとうに超えています」


いつの間に仲良くなったのか、エディはセオドールと普通に話している。


「ぶはっ!確かに!!公爵令嬢が公爵令嬢に求婚なんて…初めて聞いたよ!」

「いや、前例あっちゃダメでしょ」


まるでコントのようなやり取りを尻目に、アリシアは改めてティアラへと向き合った。


「で!ティアラちゃん!返事は――?」

「あ……あの…これから姉妹としてよろしくお願いします……」


え!?やっ……って。え?"姉妹として"…?


「ああぁぁぁ!?遠回しに振られたぁぁあ!……じ、じゃあ!せめて!せめて会話する時は敬語なしで!!」

「え、ええええ?!そ、そんな……ふ、不敬なのでは…?」

「不敬!?そんな訳ないじゃない!寧ろティアラちゃんが姉なんだし、どんな事がでも受け止めるよ!?」


こんな可愛い子を虐めるとかありえない!!

"歌恋"のティアラちゃんは媚を売るわけでもなく、健気に頑張る子だから結構ファン多かったし!

はっ!ってことは、ティアラちゃんが変な男につかまらないよう私が頑張らないと!?


「……脳筋馬鹿アリィが早々にシスコン化した…」

「あはは、仲が良くて何より~★」

「え…?えぇぇぇぇ………?」


ティアラを守ろうと決意するアリシア、アリシアに呆れるエディ、ヘラヘラと笑うセオ、アリシアに困惑するティアラ。

彼女たちの物語はまだ始まったばかり……。




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転生悪役令嬢は推しのために無双する~男装執事様は〈真実の愛〉をご所望です~ れぇと @711

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