第79話『ポナの制服を優里が着たら』


ポナの季節・79

『ポナの制服を優里が着たら』       






「……お母さん、高校時代の制服どこかなあ?」


「クローゼットの中……無いの?」

「探した……見当たらないの」

「へんねえ……そうだ、春にみなみちゃんに貸したげて、そこに……こっちかな……おかしいわね、そっちの衣装ケースは?」

「……見当たらない」


 仕方なく優里はポナの夏服を持ち出して地下鉄に乗った。


「エキストラの人は、この大部屋で着替えて五分後スタジオに入ってください。貴重品と着替えはロッカーに。よろしく」

 そう言うとADは足早に駆けて行った。

「ごめんね、急にピンチヒッター頼んで」

 女学院の夏服姿で瑞穂が手を合わせる。

「こっちこそ遅れてごめん、制服見つからなくってさ、これ妹の借りてきちゃった」

 思い切りよくTシャツを脱ぐと、それで汗を拭いて一分で優里は着替えた。

「あら、ピッタリじゃない!」

「うん、妹とサイズいっしょだから。行こうか、みんなスタジオに向かってる」

 優里は着替えたものをトートバッグにザックリ入れてロッカーにぶち込んだ。


 出番は五カット、どれも高校生の合唱部のコンクールシーンで、エキストラは同じ制服ごとに固まった。

 世田女は優里一人だったのでフレームの端の方。最初はディレクターの指示通り動いていたが、少しは目立ちたくなり、ホールで主役が振り返るシーンでは、すぐそばを通ってみた。収録は順調で昼を挟んで二時半には終わった。



「優里、初めてにしてはやるじゃん」

「そう?」

「横と後ろだったけど、カメラがアップで抜いてた。放映されるといいね」

「ハハ、編集でカットよ……わ!」

「どうかした?」


 大部屋を出る時、汗のまま服を突っ込んだので着替えに持ってきたTシャツまで汗臭くなっていた。


「開き直れば、これはこれでいいかも」

 ビルのガラスに映る自分に呟いて、優里は世田女の制服のまま帰ることにした。高校を出てまだ四か月なのですぐにその気になった。

 渋谷で途中下車し、陰を拾いながらウィンドショッピング。すっかり感覚が女子高生に戻ってしまう。

 小間物屋さんでシュシュを買ってしまった。

「こんなもの、制服でなきゃ似合わないのにね……」

 呟きながらポニーテールのゴムをシュシュに替えてみる。

「あら、おいしそう」

 アイスクリームを買った。現役のころよりも少し奔放な高校生になった気がした。

「こういう気分は久々……初めてかな」

 わずかだけど振り返る人がいる。何年かぶりでスキップしてしまった自分に驚く。

「ダメだ(#´ω`*#)調子に乗っちゃう……か~えろ」


「………!」



 渋谷の駅で声をかけられる。振り返ると修学院の制服が思い詰めた顔で立っていた……。

 


※ 主な登場人物


父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

平沢夏   未知数の中学二年生

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