第75話『㊙コーヒー牛乳の作り方』


ポナの季節・75

『㊙コーヒー牛乳の作り方』       







 コーヒー牛乳を作ろうと思ったら、パックのコーヒーが切れていた。


「あ、風呂上りに飲んじゃった」

「もうーーーーーーーーーーー!」

 アッケラカンと言うチイネエにポナは子牛のような声をあげた。お母さんがクスッと笑う。


「代わりにいいこと教えたげる」

 チイネエは、冷蔵庫から牛乳と麦茶のリキッドポーションを出した。

「エー、こんなの飲めるの!?」

「ポナは甘党だからガムシロ入れてかき回す……飲んでみそ」

「エエー……!?」

「いいから、いいから」

 チイネエの勢いに押されてチビリとやる。

「……オ、コーヒー牛乳だ!」

「でしょ」

「なんで、こんな裏技知ってんの?」

「だてに大学いってませーん」

「社会学部って、こんなことも習うの?」

「まあね」

 

 で、夕べのポナは夢を見た。


 コーヒーと麦茶が互いに驚いている。

「まさかこの組み合わせでコーヒー牛乳にされるとは……!」

 なぜかコーヒーはお母さんで、麦茶は真奈美さん。コーヒー牛乳は一人ニコニコしている。

「コーヒー牛乳、コーヒーさんと牛乳さんに感謝しなさい!」

 そう言うと、コーヒー牛乳はつるりと顔を撫でてポナになってしまった。

「なんで!?」と叫んで目が覚めた。


 朝起きるとポナは胸がつかえていた。


――一人で乗り越えたと思ってたけど、きちんと言いなさいってことかな……――



 ポナは洗い物をしているお母さんに声を掛けた。

「コーヒー牛乳としては、麦茶さんに言っておかなきゃいけないと思うの……」

「え?」

「じつは……」



 ポナは生みの母である真奈美のことを不器用に話した。



「ああ、そのことなら真奈美さんからお父さんに連絡があったわ。恐縮してらっしゃった、ポナにはお母さんて呼ばせないそうね」

「……知ってたんだ」

「すこしギクシャクするかもしれないけど、時がたてば落ち着くと思うわ」

「落ちついちゃっていいの?」

「ポナには二人のお母さんがいる、それを前向きにとらえればいいとお母さんは思う」

「そうなの?」

「そう思うわよ、それより朝ごはん食べてしまいなさい。コーヒー牛乳もまとめて作っておいたから」

「お母さんもチイネエに習ったの?」

「ハハ、バラエティーでやってたの優里といっしょに観てたのよ」

「なんだ、ちょっと尊敬したのにな」

 ちょっぴり萎んで、ポナはトーストをオーブントースターに放り込みスクランブルエッグを作る。

「あら、今日は立秋なんだ」テレビを点けたお母さんが言う。

「ええ、まだこんなに暑いのに?」

「ポナ、換気扇回しな」起き抜けのチイネエ。

「ヘイヘイ」

「なによ、そのぞんざいな返事は。ああ朝から暑いなあ」

「これ優里、女の子が胸をはだけるんじゃありません」

「ヘイヘイ」


 ちょっとおかしくなって冷蔵庫を開ける。フワっと冷気が零れてきて秋の予感がするポナだった。


 


ポナと周辺の人々 


父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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