第74話『てっきり……だと思っていた』 


ポナの季節・74

『てっきり……だと思っていた』        



 てっきり屋外で撮るのかと思っていた。


「このカンカン照りにロケなんかできないよ、さあ、こっち」

 田中ディレクターに促されて入ったスタジオは壁も床もライトグリーンだった。

「入浴剤入れたお風呂の中みたい」

「あ、この段差って、歩道と車道なんじゃない?」

「ほんと、学校の前のと同じだ」

「どれどれ」

「ちょっと、挨拶!」

 由紀に言われ、五人揃って「よろしくお願いしまーす!」


 今日はCM撮影の最後、歩道でふざけていたポナたちが車道にはみ出し、T自動車の新型車に危うく撥ねられそうになるくだり。



 五人バージョンから始まって、三人、二人、一人のバージョンを撮る。

 車は別撮りで、撮影にはスクリーンに車が迫ってくるところを写し、ポナたちは、それに合わせてリアクションをとる。

 演技は素人なので、三回もやると慣れて新鮮なリアクションができない。

「じゃ、出てくるもの変えるから」

 迫ってくるものはトラックになったり戦車になったり、いきなり進撃の巨人が飛び出したときはリアルにビックリした。

「今度は轢かちゃうとこ撮りまーす」

「え、轢かれるんですか?」

「仕上げは見てのお楽しみ。じゃ、ぶっつけ本番!」

「え、いきなりですか!?」

 もう何が写されても新鮮なリアクションがとれそうになかったが、スタッフはポナたちの予想を超えていた。なんとプテラノドンがスクリーンを破って飛び出し、ポナたちの頭をかすめ後ろに飛びさっていった。

「ジュラシックパークだ……」




 てっきり、女子高生の姿だと思っていた。


「……ここよ、新子ちゃん」

「え……」

 真奈美は品のいいシフォンのワンピを着て銀座の風景の中に溶け込んでいた。

「よかった、来てくれて!」

「今日は意表を突かれることばっかし」

「え?」

「ハハ、いろいろあって。真奈美さんのお店見てみたいです!」

「……どうしても」

「はい、そのために銀座で待ち合わせにしたんです」


「おはようございます」

 店に入ると早出のホステスさんたちが品よく挨拶してくれ、ポナは、ちょっと気後れした。

「きれいな人ばっかり……」

「あたしは?」

「真奈美さんは……化け物です」

「ありがとう、誉め言葉ね」

「あの……」

「うん?」

「やっぱ、お母さんて呼んじゃだめですか?」

「うれしいけど、それじゃ寺沢先生にも奥様にも申し訳ないわ。こうして会ってくれるだけで十分。もう変装しなくてもいいだけで十分」

「あら、もう女子高生姿見られないんですか?」


 女子高生姿という言葉にホステスのお姉さんたちが暖かく笑う。とりあえず一山乗り越えた真奈美とポナだった……。

 


ポナと周辺の人々 


父     寺沢達孝(60歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(50歳)   父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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