第72話『間違いない、あの人は……』
ポナの季節・72
『間違いない、あの人は……』
SNSは世界を変える。
大げさだけど、ポナはそう感じた。
一昨日、原宿で両親の誕生日と父の還暦祝い。久々に兄妹そろって家に帰ると、売り出し中のポナもただのミソッカス。
兄と姉たちの話を聞きながら、パソコン開いてブログの更新、コメントを読む。
――YouTube見ました、T自動車のCMやるんですね!――
――ライブもかわいいけど、CMのメイキングはクール!――
「CMのメイキング?」
コメントを見て思わず大きな独り言が出る。
「ポナ、CMに出るの!?」
あっという間に兄と姉たちはパソコンを取りあげて「寺沢新子 T自動車」で検索し始めた。
「オ、YouTubeにメイキング……すごい、密着取材されてんじゃないか!」
「わ、ポナ、パジャマじゃん。ボタン外して……シャワ-!」
「ひょっとして裸?」
「ボタン外しただけ、シャワーは流したとこだけ!」
「もったいない、ポナはあたしと同じプロポーションしてんだから、チラッとだけでも見せりゃよかったのに!」
「今日アップして、もうアクセス三千か!」
ことは兄姉たちの騒ぎでは収まらなかった。
――急な話だけど、明日Tプラザで臨時ライブ、よろしく――
M企画の田中ディレクターから電話がかかってきた。
TプラザはT自動車系列の商業展示スペースで、外に二千人収容の多目的野外ステージがある。まあ、暑い盛り、千人もくれば上出来と始めてみたら国会前のデモ隊よりも多い千八百人が集まった。
半分ほどの観客は屋根のある席につけるが、ステージに近い観客は完全に露天なので、ライブは三十分のショートバージョンで行われる。
演劇同好会が気になったので盛り上がる兄姉を尻目に電話してみる。
「すみません吉岡先生、大事なとこ休んで。稽古に支障はないでしょうか?」
――大丈夫、中村さんが代役で入ってくれてるから。心配しないでライブに専念して――
――なんだったら、あたしが本番やろうか――
「本番は絶対譲りません」
――ごめんね、もとはあたしが撮った動画なのにね。そっちは夕方の部とかあるの?――
「えーと…………あ、ども。入りきらないお客さんがいるんで、夕方にもっかいやるって」
――じゃ、夕方いきます。先生、いいですよね――
「うれしい、来てくれるんだ!」
――うん、じゃあね――
そうして当日の午前の部は無事に終わり日中の日盛りを挟んで夕方の部も予想を超える入りになった。
「やっぱSNSの力はすごいね。ずっと東北の慰問ライブしかしてこなかったけど、今日は延べ三千だよ!」
二回のカーテンコールが終わって袖にハケたとき、汗を滴らせながら由紀が言って三人も頷いた。
「君たち、すぐに握手会!」
田中ディレクターに急き立てられて握手会へ。
「みんな、どうもありがとう」
「よかった!」
「がんばって!」
吉岡先生を始め演劇同好会のみんなもやってきてくれた。流れ作業のような握手会、一言声をかけてかけられてだけど、きちんと目を見て気持ちは通じた。
そして、そのあとに手を握った女の人、ポナは全身に電気が走って確信した。
「間違いない、あの人は……」
その人は、すぐに人波みの中に消えてしまったけど、何度もライブの握手会で握り合った手だ。
――明日の慰問ライブ、確かめてみよう――
そう心に決めたポナだった……。
ポナと周辺の人たち
父 寺沢達孝(60歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(50歳) 父の元教え子。五人の子どもを育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員、その後乃木坂の講師、現在行方不明
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
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