第67話『PV5000から』


ポナの季節・67

『PV5000から』       




 天気図の台風12号を見て、奈菜は自分のことのように思えた。


 ハワイの沖で小さなハリケーンとして生まれ、日付変更線を超えて台風12号になり、弱って熱帯低気圧になったかと思うと再び台風に昇格。今朝の天気予報では955hPaで立派な強い台風になっていた。


 世田女には入ったけども、授業にも付いていけず友だちもできずで、連休のころには家出して横浜のガールズバーで働いた。運よくポナのお姉さんに補導されて、ズルズル転落せずに済んだ。

 働いていたガールズバーは、奈菜が補導された三日後に摘発されている。そのまま居たら、ただの補導ではすまず学校を辞めさせられるところだった。


「あ、PVが5000を超えた……」


 鳥肌がたち、思わず椅子の上で正座してしまった。

 自分の体の火照りをお尻と太ももとふくらはぎで感じた。いまあがったばかりの風呂の余熱ではない。

 なんの主体性もなくSEN48のメンバーになったが、いつの間にかキーボードの奈菜で通るようになり、安祐美やポナほどではないけどもファンが付いてきた。アマチュアだけど、ちょっとしたアイドルだ。


「更新しなくちゃ……」


 そう思ったが、5000という数字の重さでなかなか奈菜はキーボードが押せなかった。


「ハハハ、それで、ブログがこうなったわけか」


 ポナと由紀が笑う。


「だって、あたしにしたら大進歩なんだよ!」

「そうだね、あたしに抱き付いておパンツのサイズが適ってないって発見したんだものね」

「あ、そんなつもりじゃ……わ!」

 由紀の反撃に思わずチガウチガウをする奈菜は勢いで歩道からはみ出してしまった。



 パウーーーン!



 前から来たプリウスがクラクションを鳴らして通り過ぎる。思わず三人揃って頭を下げてしまう。あまりきれいに揃ったので、プリウスが角を曲がると同時に三人爆笑してしまった。

「福島のホテルで、玉子かけごはんに醤油かけすぎたことなんか忘れてたわよ。奈菜、こういう細かいとこに目を付けて書くのっていいんじゃない?」

「そ、そかな(^_^;)」

「「そうだよ!」」


 学校に着くと、由紀は生徒会に、ポナと奈菜は演劇同好会の稽古場に向かった。



「あんたたち、さっきの呼吸の合い方よかったわよ」

 稽古場に着くと吉岡先生がいきなり誉めてくれた。

「思わず写メっちゃった!」

 主役の鈴木友子がスマホの画面を見せた。

「この稽古場から、通りが丸見えなんだ!」

 スマホには、三人娘がきれいに揃って頭を下げているのが動画で撮られていた。

 稽古の合間に奈菜は、その十秒ほどの動画をもらって、その日のブログに使った。


――はみ出す青春――


 このタイトル動画が、意外な展開をポナたちにもたらすとは、だれも気づいてはいなかった。



ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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