第68話『はみ出た青春受け止めます』


ポナの季節・68

『はみ出た青春受け止めます』       




「え、このままでいいんですか?」


 思わず五人の声がそろった。

 目の前の広告代理店M企画のディレクターとスポンサーのT自動車のパブリシティーの担当さんが暖かく頷いた。


 おとつい揃って車道にはみ出し、あやうくプリウスに跳ねられそうになり、ポナ・由紀・奈菜の三人がきれいに頭を下げている動画が広告代理店の目にとまったのだ。

 M企画はT自動車から新発売の軽自動車のCMを依頼されていたが、いいアイデアが浮かばず、担当の田中ディレクターは息抜きにネットサーフィン。そこで奈菜のブログにヒットした。


――青春は時に、はみ出す――


 奈菜が自分の四か月の高校生活を振り返って気軽につけたタイトルと動画がぴったり。車道にはみ出し急停車したプリウスをT自動車の新型車に置き換えれば、そのままでいけると田中は思った。

 田中は、奈菜のブログもSEN48の動画も丹念に見た。で、アマチュアながら急速に伸びているSEN48と新型車のコラボを思いついたのだ。



 田中は徹夜で企画書と絵コンテをつくり、そのままT自動車のパブリシティーにメールで送り、T自動車も基本的に了承。


 そして今日こうしてポナ、由紀、奈菜、みなみ、安祐美の五人との面接になった。



「キャッチコピーはちょっと手を加えて『はみ出た青春受け止めます』でいこうかと……まあ、こういうのは水物なんで、その時その時の閃きで変わっていくこともあるけど、SEN48の今までとこれからを重ね合わせて作っていくコンセプトは変わりません。どうだろ、ここまでは?」

「はい、あたしたちはぜひ……で、いいんだよね?」

 ポナの問いかけに、由紀も奈菜も頷く。

「えと、みなみのお父さんの会社がスポンサーみたくなってますので、そことの関係をクリアーしなくちゃいけませんけど」

「みなみさんとこの件は、もうお父さんの了解とってます。スポーツ用品だから自動車とは被らないのでOK」

 とT自動車の担当さん。

「じゃ、SENのみなさんはOKということで。ぼくたちはラフプランを煮詰めて形のあるものにします。それができたら、保護者の方々の了解を得て本格的に製作に入ります。お盆までには仕上げたいと思うのでよろしく」

「こちらこそ」

「じゃ、そういう方向でいい仕事ができることを願ってます。今日はお暑い中、ありがとう!」

 二人の大人と握手して、五人は長く伸びた影を道連れに、ようやく日が傾いた街を駅に向かった。


「あたしたち、二か月前は普通の高校生だったんだよね……」

「そうだね、SEN48やって、こんなに人生変わるとは思わなかった」

 奈菜と由紀がシンミリと言う。

「それもこれも言いだしべえの安祐美のお蔭だね」

「ううん、みんなの力だよ。いいものになってなきゃみなみのお父さんも協力してくれなかっただろうし、今度の話も無かったと思う」

「あ……」



 ポナが歩道の真ん中で影といっしょに立ち止まった。四人の影がそれに絡まる。



「どうかした、ポナ?」

「保護者の了解って、田中さん言ってたよね。安祐美どうすんの……?」

 実体化しているとはいえ安祐美は幽霊だ、保護者なんて……と四人は思った。

「だてに二十六年も幽霊やってないわよ。ほら……」

 前方からセダンがやってきて、五人の横で停まった。

「やあ、どうも安祐美がお世話になってます」

 運転席で、オジサンが頭を下げた。

「お父さん、ぴったりのタイミング。お母さんは?」

「晩御飯作って待ってるよ。乗りなさい」

「じゃ、みんなお先に!」

 安祐美が後部座席に乗り込むと、セダンはゆっくり発車した。

「安祐美って幽霊だよね……」

 みなみがポツリと言った。


 ポナは家に帰って四月にもらったクラスの名列を見た。名列の半ばには浜崎安祐美としっかりプリントされていた……。




ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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