第63話『暑い! 熱い!』         


ポナの季節・63『暑い! 熱い!』         






 ンガーーーーーーーーーーー暑い!


 と言っても涼しくなるわけではないが、教室を出ると、ポナは今日何度目かの雄たけびをあげた。

 今日の暑さはひとしおだ。

 と言って、バテているわけではない。このところポナは忙しい。日曜はSEN4・8のライブがある。一昨日の福島での被災地ライブも暑かったが、感動の方が大きく「暑い!」は「熱い!」に変わっている。SENのオフィシャルサイトの更新は幽霊の安祐美が実体化している間にやってくれるが、自分のブログは自分でやる。

 先々週の『あらかわ遊園』でのデビューからアクセスが増え、福島のライブで桁が一つ上がった。更新にも熱が入って熱い。


 冷房の効いた家を出ると「暑い!」の第一声になる。通学中の電車の中は冷房が効いているが、汗が引くころには乗り換えで降りなければならないので暑い。乗り換えると修学院の蟹江大輔という暑苦しい(今のところ、蟹江クンが一方的に熱をあげている)BFが律儀に同じ車両に乗り込んでくる。一応BFなので機関銃のようなお喋りに付き合ってやり、ポナの暑さは冷めることなく学校の教室に入るまで続く。

 教室に入ると、これでも女子高かという感じでみんな、それぞれ暑さをクールダウンしている。リボンを緩めるのは当たり前で、ブラウスのボタンを三つも外し、胸の谷間をタオルハンカチでゴシゴシやっているのもいる。

「あ……」

「どうかした?」

「ブラのホック外れた」

「仕方ないなあ」

 片方の子が、友の背中に手を突っ込んでホックを直してやるが、片方の手は折り畳みの団扇で自分のスカートに風を入れるのに忙しい。

 そんなこんなも朝礼が始まるころにはなんとか女子高の品のレベルには回復する。朝礼でユデダコのようになっているのは、遅刻ギリギリで飛び込んできた二三人。先生の目につかないように机の下でスカートをパカパカやっている。


 今朝は珍しく、ギリギリパカパカ組に演劇同好会の鈴木友子が混じっていた。


――昨日の稽古きつかったもんな……――

 と同情のウィンク。

 吉岡先生の稽古には熱が入ってきた。本番まで一か月を切っている。昨日から稽古用の衣装をまとってやっているのだ。

「衣装は二着用意した。稽古用は破れても構わないから、気を入れてやっていこう!」

『クララ ハイジを待ちながら』という芝居は、ほとんど友子が演じるクララの一人芝居だけど、前半と後半にポナが演じるメイドのシャルロッテとの絡みがある。


 特に後半には、二人の取っ組み合いがある。


 引きこもりのクララの玄関先にハイジがやってきて、クララの家のベルを鳴らす。

「あたし、このナリじゃハイジに会えない!」

 クララは、そう言ってありったけの服をまき散らしたあげく、シャルロッテのメイドの衣装に気をひかれる。

「あたし、メイド・イン・クララになる!」

 と、シャルロッテのメイド服を脱がせようとする。

 

「もっと本気で格闘して。クララは脱がせよう、シャルロッテは脱がされないように懸命にね!」


 で、友子は俄然熱が入り、稽古とはいえ本気モード百パーセント。ポナは衣装を脱がされてキャミとパンツだけにされてしまった。

 女ばかりとは言え、かなり恥ずかしかった。

 

 それにしても暑い!

 暑いはずである。今日の稽古ではハズイことにならないようにパンツの上にヘッチャラパンツを穿いていた。


 そして、いつものように、ララランチで馬力を付けて昨日よりもさらに熱くなりそうな稽古場に向かう、熱血女子高生ポナであった。


 

ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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