第62話『初めての被災地ライブ』

ポナの季節・62

『初めての被災地ライブ』       






「どうして、被災地ライブの最初が福島なの?」


 みなみは父に聞いてみた。


 高校生の乏しい知識でも、最大の被災地は宮城県だ。行くなら、まず宮城県だろうと思った。



「宮城は、少し遠い。まずは福島からだと思った、だめか?」

「少しぐらい遠くても、あたしたち行くよ」

「それはありがたい覚悟だけど、こういうこともあるんだ……」



 父は、タブレットを開いて見せてくれた。

 

――震災後に体調を崩して死亡したり、避難生活を苦にして自殺したりした「震災関連死」は増え続け、復興庁によると昨年9月末時点で3194人に上った。このうち福島県は1793人で、同県では直接死の人数を上回っている――

 

 新幹線の車内では、先週に続いてライブが出来ることで浮き立っていたが、福島に着いてマイクロバスに乗り、S市の仮設住宅の町が近くなるにつれ、メンバーの気持ちは重くなっていった。道路などのライフラインは復興していたけど、被災地に建つ家はまばらだった。

「あたしたちが落ち込んで、どうすんのよっ! もう、バスの中から本番だからね!」

 安祐美が明るくみんなのネジを巻きなおす。


 丘の上の仮設の町に入ると、すでにステージトレーラーは着いており準備は万端。


 先週とは打って変わっての晴天はありがたかったけど、もう集まり始めている仮設の人たちは汗を流しながら拍手で迎えてくれた。

「みんな、あたしたちより明るい……」

 メンバーは圧倒されそうになったが、安祐美がマイクロバスの窓を開けて手を振った。ポナ、みなみ、由紀、奈菜が、それに続く。

「みなさーん、こんにちは!」

「こんにちは!」

 仮設の人たちも手を振って迎えてくれた。

「いくよ!」

「オオ!」


 短パンにTシャツ姿でロケバスを降りると、直ぐに舞台に駆けあがり、AKBの『会いたかった』から入った。

 今回は、プリプリの曲の他にもAKBや日向坂の曲を四曲用意してきた。むろんレッスンは、寝ている間に夢の中で済ましている。先週あらかわ遊園でデビューのためにレッスンを重ねてきたほどの疲れは無かった。みんな慣れてきたんだろう。

 五曲歌って踊って、観客もメンバーも滝のような汗を流し、アイスキャンディーブレイクをとった。メンバー五人とスタッフで、トレーラーに積んでいたアイスキャンディーを配った。お返しにキンキンに冷えた麦茶をもらったりして後半に四曲とお喋り、締めのアンコールが入って、自然な流れでモミクチャ握手会。五十分余りのライブはあっという間に終わった。


 先週のあらかわ遊園での初ライブも感動だったけど、今回はひとしおだった。午後にS市のもう一か所の仮設の町を回って帰途に就く。


 ポナは感動の方が大きく、観客の中に真奈美が混じっていたことには気が付かなかった。

 


ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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