第61話『ちょっとクリックしてみた』


ポナの季節・61

『ちょっとクリックしてみた』谷口真奈美        





 一週遅れの収支計算が、やっと一息。


 ちょっとためらったあと、SEN4.8と打ち込んでクリックしてみた。


 昨日まではユーチューブとニコ動だけだったが、いきなりトップに『SEN4.8オフィシャルサイト』が出てきた。

 女子高生だったころに、あいつに会うときのように胸がときめいた。


 まるでアイドル……!


 そう感じると、指は自然にマウスをスクロールし、寺沢新子でピタリと止まった。クリックすると、歌・おしゃべり・プロフィールに分かれている。おしゃべりをクリック……。


「みなさーん、こんにちは! SEN4.8です! 一昨日までは、こんなステージで初公演が行えるなんて思ってもみませんでした……って似たようなことは、昨日安祐美が言ってましたけど。ほんと二日続きなんて夢みたいです。アイタ! なにすんのよ由紀!?」

「ポナのお尻はプニプニでつねり甲斐がありまーす!」

「あ、あはは、夢じゃないってことですよね(#^.^#)」

「メンバー紹介!」

「あ、うん、じゃ、いまあたしのお尻つねったのが、ベースの橋本由紀でーす!」

 四人の紹介はとばして新子にする。

「一応ドラムなんですけど、今日は安祐美と替わってボーカルやりますポナこと寺沢新子でーす!」


 ここの部分を三回もリピートしてしまった。


 ほんの赤ちゃんのときに分かれたので、いまの新子は別人のようだ。


 でも、知らず知らず面影を探ってしまう。お尻のとこでは、病院で、ほんの一週間だけど、オムツを替えてやった時の感触が手に蘇る。照れ笑いして目の間にしわが入る。思った以上に似ていることに戸惑いながら愛おしさがこみ上げてくる。


 スケジュールをクリック。


 明後日のライブが目に飛び込んできた、なんと福島県のS市だ。東京のデビューライブが終わったので、ステージトレーラーを繰り出しての慰問ライブ。時間を確認。朝八時ごろの新幹線に乗れば間に合いそう。

 画面を切り替えて、東北新幹線を直ぐにネット予約しようとした。


 そこで、スマホがメール着信のシグナル。


――明後日、十時八重洲口で待ってる――

――ごめんなさい、先約が入っちゃった――


 よりにもよって、あいつから。スッパリとお断りのメールを打つ谷口真奈美だった。




ポナの周辺の人たち


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊

吉岡先生  美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。

佐伯美智  父の演劇部の部長

蟹江大輔  ポナを好きな修学院高校の生徒

谷口真奈美 ポナの実の母

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