第60話『オフィシャルサイト』
ポナの季節・60
『オフィシャルサイト』
「みなみ、ちょっと話があるんだ」
そろそろお風呂に入ろうと思っていたら、帰って来たばかりの父に声をかけられた。
「今すぐ?」
「あ、みなみの風呂は長いからな。よかったら風呂の前に聞いて欲しいんだが」
風呂の長いのは余計なお世話だが、父がここまで急いた物言いをするのも初めてなのでソファーに戻った。
「すまんな。実はSEN4・8のホームページというかオフィシャルサイトなんだが……」
「あ、みんな試験中だったから、まだ……」
「そうか、余計なお世話かもしれんが、フアィブスターの連中が作っちまったのがあるんだ、ちょっと見てくれるか?」
みなみの父は、そう言うとノートパソコンを取り電源を入れた。
「まだネットでは流れていない、みなみたちがよかったら、使ってくれないか」
父が、立ち上がったパソコンのボタンを手際よくたたくと、まるでアイドルのそれのようにきれいなオフィシャルサイトが現れた。
「うわー、まるでアイドルだ!」
先日のあらかわ遊園でのライブを上手く編集してあり、クリックするとライブのダイジェスト動画が現れたり、一人一人のプロフのコーナーなどが出てきたりした。
「この、持ち歌ベストテンをクリックすると……SENの持ち歌が出てくる。エンターキーでそれぞれの曲が聞ける」
「ベストテンって、あたしたちの持ち歌10曲しかないんだよ」
「これから増やせばいいさ。プロフのところは、名前を除いて空白になってる。みんながいいなら、ここに書きいれればいい。どうだい?」
「うん、いいよ。これならみんな喜ぶと思う。さっそく送ってみるよ!」
「じゃ、このUSBに同じものが入ってる。みんなに送信してあげなさい」
「うん、なんだかワクワクしちゃう!」
みなみは完全にお風呂のことは忘れ、自分のパソコンでみんなに送信した。
――メールだよ! メールだよ!――
風呂からあがったばかりのポナはパソコンが叫んでいるのに気付いて、メールホルダーを開くとみなみから。添付ファイルを開くと、見事なオフィシャルサイトが出てきた。
「かっこいい!」
ポナは、さっそくプロフにいろいろ書き込み、ララランチの紹介までやった。
みんなに送信してから、みなみはお風呂に入った。
頭を洗っているときに気づいた。最後に「これからのスケジュール」とあって、以下は空白だった。あらかわ遊園以後のことは未定なのだから、それでいいと言えばいいのだが、それなら未定とあるはずだ。
「お父さん、あのスケジュ-ルのとこなんだけど」
濡れた髪をタオルで拭きながら父に聞いた。
「ああ、あそこな……そこが相談なんだけどな……」
父が、スケジュールをクリックすると、なんと五回のライブ予定が入っていた。
「あ、これサンプルね」
「よかったら、リアルにして欲しいんだが」
「だって、これ五回とも東北だよ?」
「顎足もステージトレーラーも用意する。慰問ライブだ、ひと肌脱いでくれないか?」
「やだ、これ脱いだら、あたし裸だよ」
「茶化すな、実はな……」
父の話は、会社の事業拡大とのタイアップだった。むろん会社は表面には出ない。マイクロバスやステージトレーラーに小さく社名が書いてあるだけだ。デコレーションは言うまでもなくSEN4・8だ。でもピュアなみなみは、どこか、してやられたような不純さを感じた。
「ひと肌脱いでくれって」
学校が終わると、世田女に足を延ばして、他のメンバーと相談した。
「いいじゃん、ひと肌でもトップレスでもなってやるわよ」
意外にみんな気にはしていないようだ。
「でも、いいの? これ、完全に会社のレールに乗っかってるんだよ」
「スポンサーだと思えばいいじゃん」
「うーん、レパートリー増やさなきゃね」
幽霊の安祐美まで乗り気である。
「でも、こんなことで慰問ライブ……ちょっち抵抗感」
「みなみ、半分でも慰問の気持ちがあればいいと思うよ。世の中100%の善意なんて言ってたらなんにもできないよ」
そう言って、ポナの中で「例外はある」という声がした。乳児院に入れられるところだったポナを引き取った両親は完全な善意だ。
内なる声に驚きと戸惑い。そして得体のしれない予感がするポナだった。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒
谷口真奈美 ポナの実の母
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