第21話『いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない』

ポナの季節・21

『いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない』    



 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名





 いくら姉弟同然でも犬の忌引きはない。


 だからポナは、ポチが大好きだったベランダの傍に小机を持っていき、ポチの写真を置いたのにお水をあげると、いつものように学校へ行った。


「御愁傷様……昨日はポチのお葬式だったんだよね」


 学校に着くなり、由紀と奈菜からお悔やみの言葉をかけられた。

「え……なんで知ってるの?」

「お姉さんのブログ見ちゃった」

「ユウリンブログだったけど、経歴がまんま書いてあったから、直ぐに分かった」


 そうなんだ……と思ったとたん、堪えていたものがせきあげて嗚咽になりそうだった。辛うじてハンカチ咥えてポナは涙をこらえた。

「ごめん、学校で泣くわけにいかないもんね」

 由紀は先回りして、ポナが涙まみれになることを止めてくれた。

「さ、一時間目は体育だから、早めに着替えてグラウンド行こう!」

 奈菜と由紀は、ポナの背中を押すようにして更衣室へ向かった。


 ララランチ(ラーメンとランチのセット)をテーブルに置くと、奈菜がたぬきそば一つ置いて隣に座った。由紀は生徒会の打ち合わせで、生徒会室で食べている。

「相変わらず大食いだね」

「お、お昼があたしの主食なの!」

 苦しい言い訳をする。奈菜と由紀のお蔭で、いつものポナに戻れていた。

「由紀が言ってたんだけどさ、お姉さんポナと新子っての使い分けてんのね」

「え、そう?」

 ララランチかっ込みながら、天気予報を確認したような気楽さで応えた。

「うん。ポナってのは、あんたが自分で付けたネームだから尊重してくれてるみたいだけど、ここ一番て時には新子って呼んでる」


 思い返してみると、昨日はずっと「新子」で呼ばれていた。


「ポナってPerson Of No Account で『ミソッカス』って意味なんだよね」

「そだよ。今時五人も姉弟がいてさ、一人歳が離れてんだもん、遊び相手は主にポチだった」


 自分から「ポチ」の名前を出しても動揺しないのに驚いた。由紀と奈菜が、さりげなくいつものポナにしてくれたんだと感謝。


「ポナが思っているほど、家族はミソッカスとは思ってないようね。肝心な時は新子なんだから。あ、これ由紀の受け売り」

 さすがは、一年で副会長に当選するだけあって、由紀の洞察力は大したもんだと思った。

「それと、日本語のミソッカスにしないで英語のPerson Of No Account の頭文字をとったのは、カラリとしててセンスいいって」

「ヘヘ、そっかなあ」


 ポナが頭を掻いたころにはララランチは空っぽになっていた。


「なにこれ?」


 放課後ピロティーの掲示板に生徒会の執行部の面々が、ポスターを貼り出しているのに足が停まった。

「ああ、新執行部発足の記念イベントで、ミス世田谷を決めることにしたの」

 由紀が振り返って笑顔で言った。

「由紀の提案なの。一学期って、試験とか事務処理ばっかで、楽しい行事ってないじゃない。で、賑やかしにやってみようって、昼の執行部会で決めたの」

 生徒会長の井出さんが、由紀と同じような楽しげな顔で付け加えた。

「へー、いいアイデアですね!」

 ポナは、由紀のアイデア満々なところと、人の心を掴むうまさに感心した。


「候補は自薦他薦を問わない。で、第一号が、この人!」


 由紀が貼り出したのは、ポナのプロフ付きの写真であった!



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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