第22話『ミス世田谷女学院コンテスト①』    


ポナの季節・22

『ミス世田谷女学院コンテスト①』    



 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



「ポナ、兄姉多かったわよね?」


 おはようの挨拶もそっちのけで由紀が聞いてきた。

「あ、うん多いよ、いまどき五人兄妹なんてありえないもんね(^_^;)」

「生徒会で考えたんだけどね、ミスコンの候補者のお姉さんとかお母さんとかの写メとか、いっしょに並べてみようかって思ってさ」


 由紀は得意げに腕組んで、組んだ右の親指をさり気に生徒会副会長のバッジに向けた。


「家族の写メ?」

「うん、ミスコンじゃ常識。お姉ちゃんとかお母さんとかは、数年後とか三十年くらいの先の本人の姿を暗示してるわけじゃん。もち個人情報だから強制はしないけどね、本人の写真だけよりもインパクト大きいと思ってさ!」

 どうやら副会長バッジが由紀をハイテンションにして考えさせたアイデアのようだ。


 ちょうどスマホに世田谷女学院を合格した時の家族の集合写真があった。大ニイが休暇の半舷上陸で家にいたので、非番の大ネエも呼んで撮った写メである。その時はポナをサカナに家族で騒ごうというタクラミの序章に過ぎなかった。


「ちょうどいいじゃん、記念写真で、みんな正面向きだから比較がしやすい。じゃ、お母さんとお姉さん二人のいただきね」


 ポナは母と姉二人の顔を拡大して、由紀のスマホに送った。


 その夜、由紀は悩み、かつ楽しんだ。


 世田谷女学院はお行儀も成績もいい。だけど、どこか型にはまった窮屈さがあった。乃木坂はよく似た学校だけど、どこかノビノビしている。

 実は由紀もギリギリまで、世田谷と乃木坂で悩んでいた。お御籤でも引いたらと親には言われたが、神社まで行くのももどかしく、鉛筆を転がして世田谷に決めた。

 入ってみると、設備や制服には文句なかったけど、なんとも型にはまった沈滞ムードが嫌だった。


「じゃ、自分で変えよう!」と、生徒会に立候補し、見事に当選したのだ。


 むろんクラスのみんなも応援してくれた。なかんずくポナと奈菜には世話になった。恩返しの気持ちがちょびっとと、ポナには他の子には無い魅力があると思ったからである。だから奈菜には声を掛けていない。奈菜も、またそんなことを気にするような性格じゃない。あの子の良さは……そこまで考えてパソコンの画面に集中した。

 コンテストのポスターなので、みんな平等な規格に収めなくてはならないが、由紀はポナが一番引き立つ色や構成を考えていた。


「オーシ、これでいくか!」


 淡いピンクを背景に写メを配置し、試しにポナのポスターをプリントアウトしてみた。

「ほう、こんなことを始めたのか」

 仕事から帰って来たばかりの父が、興味深げにプリントアウトしたポスターを見た。

「なるほど、母親の顔を載せるのはアイデアだな」

「でしょ、この子寺沢新子、あだ名はポナって言って、あたしの一押し!」

「女が女に惚れたか。なかなかいい子だな……ん?」


 由紀の父は、職業的な勘でポスターにひっかかった……。



※ ポナの家族構成と主な知り合い



父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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