第5話『女子高生の感動は24時間①』


ポナの季節・5

『女子高生の感動は24時間①』        



 ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名)



――明日、横須賀に入港。一般公開につき来るべし、友だちも連れて来い――


 という大ニイからのメールで、あたしは支倉奈菜を連れて横須賀に行った。

 海自の最新鋭空母型護衛艦「ほうき」と、大ニイの「ひとなみ」が展示公開されている。

「ほうき」は大きくてカッコよくて人気があるけど、大ニイの「ひとなみ」は2000トンあるかないかの、旧式小型護衛艦で、あまり人気がない。


 大ニイは、この「ひとなみ」で砲雷長というのをやっている。

 砲雷長というのは、船の武器の総括責任者だそうで、いざって時は艦長の横に張りついて一切の射撃管制の指揮をとるというエライ仕事。普通は二佐か三佐の仕事なんだけど、なぜか、一個下の一尉の大ニイがやっている。


「ひとなみ」が退役寸前の二線級のせいか、大ニイが偉いのか、ポナには判断が付かない。


 ただ、大ニイが家族の多い寺沢家で一番頼りになることは確かだ。お父さんは高校教師だけど、定年を間近にして、いまだに管理職はおろか、主任とか長のつく仕事はしたことがない。

「お父さんて、どうなの?」

 たまにお母さんに聞いてみる。お母さんはお父さんが若かったころの教え子で、当たり障りなくいうと「職場結婚」。ポナはこう思う――まだ純真無垢だったお母さんを騙くらかして嫁さんにした悪徳スケベ教師――お母さんに、この質問をすると、いつも、こう答える。

「二人が結婚していなきゃ、あなたたちは存在していないのよ」


 どこか誤魔化されているような気がするが、夫婦としては上手くいっているのだろうと思って、納得はしている。愛し合っていなければ、今時五人も子どもはできたりしないだろう。


 家に関わる重要な決定は、大ニイとお母さんがやってる。他の兄姉も、いざという時は大ニイを頼りにする。


 で、今度の奈菜の件も、どうやら大ニイの差し金というか、指図であるらしかった。


「うわー、いろいろ付いてて強そー!」



 奈菜は、航空母艦型の「ほうき」よりも「ひとなみ」のほうに関心を示した。「ほうき」は最新鋭だけあって、でっかくてすっきりしている。奈菜は小さくてもゴテゴテといろいろ付いているのがカッコよく感じているのだ。

 10人中9人が「ほうき」に行ってしまったので、「ひとなみ」は急きょ予定を変えて、湾内の体験航海と射撃二級訓練を行うことになった。

「参観者の方々は、安全のため艦橋上のデッキにご集合ください」

 体育祭みたいに長閑な女性の艦内放送が流れ、一クラス分ほどの観覧者は「ひとなみ」の全貌が見渡せる艦橋上のデッキに集まった。

――本艦は30ノットまで出せますが、湾内ですので15ノットで進みます。ただいま10ノット――

「速いね!」

 奈菜は錯覚している。「ひとなみ」は小さな船で、湾内では10ノット以下の微速で走っている船が多いので速く感じるのだ。

――15ノットに達しました。総員戦闘配置!――

 艦内のあちこちから完全装備の乗組員たちが駆け足で持ち場に付いていく。一分足らずで総員配置が終わると、ポナでも分からない戦闘指示の放送が流れ、三インチ速射砲や、アスロックのランチャーや短魚雷、CIWS(多連装自動機銃)などが、勇ましく動き出した。

 さすがに、射撃はしなかったが、各ウェポンにはスピーカーが仕掛けられており、実戦さながらの音と動きが見られた。


「あたし、考えがかわっちゃったかも!」


 船から降りて、しばらくして奈菜が興奮気味に言った。

「どういうふうに?」

「みんな命令された通りにやってるんだけど、イキイキしてた……」


 そのとき、大ニイからメールが入った。


――乗艦感謝! 奈菜ちゃん元気か? ポチもがんばれ!――


 船乗りらしく簡潔な文面だ。



「お兄さん、あたしのこと知ってたんだ!」

「男ばっかの船だから、あたしたちみたいな女子高生でも、目の保養になるんでしょ」

「まさか、ポチはポナの打ち間違い?」

「ううん、うちのワンコ。あたしが生まれた時に大ニイが拾ってきたの。どうも大ニイのやることは分からないよ」

「そうかなあ」


 遅れて画像が送られてきた。


「うわー、いつの間に!?」

 画像は、美少女然として海を見つめる奈菜と、大口開けて笑っているポナが同時にフレームに収まっていた。

「うーん……タイトルは『完璧に目標を補足』か」


 大ニイには、かなわないと思うポナだった。






※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師

母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん

長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉

次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員

長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官

次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ

三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )

ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。


高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)

支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子

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