始まりの部屋 2

第6話小休止と反省会


ふぅ。


やっと、戻ってきたいつもの白い部屋。


戻って来れて、嬉しいような、何だか寂しいような複雑な気分だ。この部屋と同じ、白い、不思議な森。

結局あそこは何だったんだろう?

他の扉は、色があるよね…………?


そんな事を考えながら、私は手に入れた仲間たちを眺めるべく、その場に座った。


いや、ちょっと疲れていたのかも、しれない。

リュックを下ろし、ナズナがいないと寂しいな、と思いつつもゆっくりと足を投げ出した。



「やっぱり素敵……………。」


新しく仲間に入ったクルシファーと銀の靴。

まずはじっくり眺めなくては………と靴を脱ごうとしていたら、「おい、依る。」と気焔がご機嫌斜めだ。


「どうしたの?」

「お主、まずシンラ様にご挨拶じゃろ。」


あ。


私は、シンラの事をすっかり忘れていたのに気が付いた。

というか、扉の中では1度も思い出さなかった事に気付き、その事に、びっくりしたのだ。


え………わたしめっちゃ薄情じゃない??


私の考えが分かったのか、気焔が慰める様に、言う。


「仕方がない、依る。扉の中ではシンラ様の存在は無い事になっている。勿論、吾輩は覚えているが………と言うか、お主の中だけにいないのだ。」


え?私の中にだけ?………いない?


腕を上げ、石を見る。

キラリと光りながら黄色の石は、私がシンラの事を覚えているまま扉の中に行くと、何かと不都合があると言う。何となく、奥歯に物の挟まったような、言い方。


そういえばあの女の子と話している時、何か大事な事忘れてる…と思ったよね?

きっと、シンラの事だったんだ。


「ねぇ、でもそこは忘れちゃいけないとこじゃないの??」

「まぁそうなんだが、そこを省いてこその試練というか………うん、まあ。」


またなんか隠してる……………。


じとっとした目で気焔を睨んでみたけど、やっぱり言う気は無いみたいだ。

ふうっとため息をつく。


「まぁ、いいけど。出来るだけ協力はしてよね。」

「あいわかった。」



そんなこんなで私達は合意し、シンラの側へ向かった。彼は、少し離れた所に座っていたから。


見た目の変化は無いようだ。また表情は無になって、何も無いところを見つめている。とりあえず悪くはなってないようなので、安心してまた少し離れた所に置いていったケータイを見に行った。


時間の経過を確認する為、4の扉に入る前に日ちにと時間を確認して、この白い部屋に置いていったのだ。


時間を確認すると、日付はさすがに変わっていない。時間は、扉に入ってからなんと10分しか経っていなかった。


「え。ウソ。」


朝にも確認する。猫の感覚でも、かなり時間は経っていると感じていたようだ。


白い森では、寝ちゃったりしたし多分朝、学校に行って夕方帰る、くらいの感覚だったんだよね。それが授業中の居眠りくらいだとは………。

まさか10分とは思わなかった。ま、短縮される分には問題ないから、いっか………。




気を取り直して座ると、シンラの様子を見ていた朝もやってきて私の隣に座った。


「さて、休憩しながら反省会ね。」


持って行ったのに出番がなかった、お茶とおやつがリュックにある事を思い出し、いそいそと準備をする私。反省会なんて不穏な響き、甘い物でも食べながら聞きたいのだ。


それは、当然の様に朝のお小言から始まった。


「本当に依るはもう、人の話を聞いてないのよね」

(花の話ね、ププッ)

「全くだ。心配したのに寝こけていたもんだから、開いた口が塞がらなかったぞ。」

(口は無いんだけど、………プッ)

「私もまさかあそこまで色が付くと思わなかったわ。」

(アレも不思議だったよねぇ。綺麗だったなあ~)



「………………。」

「「ちょっと依る!!!聞いてないでしょ!!!」」

「…!ゴホッ、ゴ、ごめん、聞いてるよ。」


お菓子を喉に詰まらせながら謝っても全く説得力が無い。「ホント大丈夫かしら、この子は………。」と朝に呆れられながら、私も真面目に参加する。


「とりあえず、クルシファーと、姫様の靴が手に入ったんだから滑り出しは上々じゃない?」

「まぁ、そうね。」


腕と足を上げながら、話題を逸らそうと2人にアピールする。

これまでの予想から、1つの扉に1つの石はありそうだが衣装や指輪は全く予想がつかなかったので、1つ目の扉で靴が見つかったのはかなり幸運なのではないだろうか。


しかし、衣装って言ってたから服だけだと思ってたら靴もだったね。これ、先に服見つかってたら多分私、靴探してないよ………。

でもこれだけ豪華な靴なら、服もかなり期待できるんじゃない??

1人でニンマリしていると、また朝に怒られた。


「コラ!また聞いてない!」

「え?なに?」


とりあえず10分しか経ってないので、5の扉に入る事にしたらしい。私が少し疲れただろうという事で、ここで休憩してそのまま向かう予定になった。


良かった、この見た目じゃお母さん卒倒しちゃうかもだしね…。かと言って5の扉から帰ってきても髪が戻るか、分かんないけど…。





「寝袋使わなかったから、置いてっていーい?」


出来るだけ軽い方がいいんだけど、と言うと気焔がまた反対した。


「いや、いざとなったらお金に変えられるよう持って行った方がいい。」

「………………………。」



いざとなったら………?


お金に変える………?



そういえば気焔は「5の扉から出てきた」と言っていた。多分どんな世界か、知っているのだろう。でも今までの対応からして、私に教えてくれないに違いない。

そう思った私はそのままさり気なく続ける。


「そうだよね。食べ物とか買えないと困るし、ずっと野宿は嫌だしね。」

「さよう。丁度良いところに出れば御の字だが、街から遠かったり、危険な所に出ないとも限らん。」

「えー、危険って言われてもやっぱりナイフじゃどうにもならないよね?」

「まぁそこまでの危険な場所に出てしまったら、依るでは………………あっ。」


手が出てるわけじゃないけど、宙に止められたのが分かった。私がニヤニヤしているのを見て「お主、やるな。」と気焔が悔しそうだ。


「それにしたって、危険があるような場所なら少しはヒントくれないと困るよ。さすがに。」


すると、蓮が言う。


「とりあえず、いざとなったら気焔を呼びなさい。今のところはそれしかないわ。」


え。

不安………。


私の不満気な顔を見て気焔が「失敬な。吾輩やる時はやるぞ。」なんて言ってるけど、ホントかな??




結局それ以上の情報は石たちが黙秘したので、諦めて朝とリュックの中身を確認した。

基本的に今持っているものは、全部持っていく。いらないなら、売ればいいしお金が存在するなら絶対に必要になるはずだ。


事前情報ほぼ無しって、コワッ。




出発前にシンラの前に座る。

変わらずキラキラした髪を見て、ホッとした私は一応、靴を手に入れた事を報告する。


「カエル長老がね、靴を持ってたよ。すごく綺麗な靴だね。今は私が借りてるけど、姫様を見つけたら履かせて帰ってくるからね。」

「あとほら、これ見て。クルシファーだよ。ちょっと美味しそうだね?食べ物じゃないって怒られたよ。ホント舐めたら味しそ………」


独り言報告をしたら、シンラが少し微笑んだ気がしたので注意深く顔を見る。


うーん。気のせいかな。


そのままとりとめのない話をしながら、シンラと靴を交互に見ていたらなんだか疲れが取れる気がした。





「さて、そろそろ出発せねば。」


気焔にそう言われて、「だよね…。」と答える。


わかる。行かなきゃいけないのは解るけど、今度はハードルが高い。さっきのセリフめっちゃ気になるし。


「行きましょう。」


朝も立ち上がって、グレーの毛を立ててフルフルする。

それを見て私も覚悟を決め、リュックの中から出したゴムで髪を結ぶ。気合いを入れてポニーテールにした。


「よし。」


またしゃがんで、シンラの顔を覗き込む。

まだ「無」のまま、一点を見つめている彼。


大丈夫。さあ、行こう。


「行ってきます。」


私はそう言って、5の扉へ向かった。




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