5の扉 ラピスグラウンド
第7話人質の少女
気がついたら真っ暗闇だった。
なんだか身体のあちらこちらが痛い気がする。
「ん………。」
「しーっ(小声)」
ん?ここはどこ?私は………依る。うん、わかる。いやいや、ていうか扉開けた後どうなったんだっけ??
多分、さっき「しーっ」って言ったのは朝だと思う。
真っ暗で、静かにしなきゃいけない状況??何が起こってるんだろ?
とりあえず朝の言った通り静かに状況を伺う。真っ暗に、少し目が慣れてきた。
どうやら夜のようだ。灯のない、小屋のような場所っぽい。打ち付けられた窓から、月明かりらしき光が細く差しこんでいる。薄明かりの中、自分の状況を確認する。
何だか肌寒いと思ったら板張りの床に寝ているので、身体が痛い。どうも動けないと思ったら、手が後ろで縛られてるんだ…。
これが後ろ手に縛られるだね………。
そんな呑気な事を考えていると、少し離れた場所の人影に気付いて思わず声が出そうになった。
もう1人いる………。
少し離れた所に、同じように縛られているらしい子供が見える。女の子だ。私より小さい子供。髪を後ろで1つに縛っていて、身体を丸めるように寝転がっている。向こう側を向いているので、顔は見えない。
「………(朝)っ。」
小声で呼んでみた。
私の足の方にある、薪のような木が積んである所の陰から尻尾が見えた。「はーい」みたいな感じで動いている。朝は大丈夫みたいだ。
「(気焔?)」
こちらも小声で腕を動かす。何しろ後ろ側なので、聞こえているか微妙だ。
「吾輩は無事だ。」
「(オイーーーーー!!)」
なんで普通に応えるんだよーーーー!!
もーーーーー!!!
声を出さずに悶えていると、小さい声が聞こえた。
「…だれ?」
………多分、あの子の声だよね?
少し離れた場所とはいえ、そんなに大きな小屋ではない。聞こえたのだろう、少し女の子が動いた。
私は女の子が生きている事に安堵して(いきなり死体とか勘弁、)小声で朝を呼ぶ。「朝、手、外せる?」
それと同時くらいに手首の辺りがくすぐったくなった。
ひ、ひげが……………っ。
サワサワするひげに耐えながら、「さすが猫、近くに来たの全然気付かなかった」と感心する。肉球、万歳。
そうこうしているうちに、手首の縛りが解けた。
そのままの体勢で、身体が動くか静かに確認する。とりあえずあちこち痛いけど、大きな怪我は無さそうだ。朝に、目でお礼を言って女の子の方を目配せする。朝が頷いたので、そーっと近づいてみる事にした。
如何せん、朝や気焔と話すにもこの子に丸聞こえだからだ。まず、恐らく同じように捕まっているこの子を確認する必要がある。
低い姿勢で立ち上がって、そろーりそろーりと近づく。
「(大丈夫?)」
いきなり姿を見せたらびっくりするだろうと思って、小声で声をかける。
女の子はビクッと身体を震わせた後、小さく頷いた。
そーっとその子の前にまわると、人差し指を口に当てたまま姿を見せる。まず、安心してもらう為だ。同じ女の、子供(中2だけど)だという事を見せたら安心するだろう。
しかし常日頃思っていたがこのポーズ、万国共通。異世界でも。
目が合うと、少しびっくりしたような顔をされたが、安心はしてくれたようなので身振りで縄を外すよ、と教える。
さて、ナイフは?と辺りを見渡すとリュックがない。
ない!お金!私のリュック!一文無し!?
とっさに思いついたのがお金なんて、残念な女子だけど縄を切るのは朝でもなんとかなる。
でもお金………涙。どこ行った。許せん。
いざとなったらお金に変える予定の荷物がなくなって、怖いよりも「許せん。」が大きくなった私は朝に目配せして、縄を切ってもらう。
自由になった女の子のケガがないか確認すると、探索を始める事にした。
「ちょっと宙。宙って気付きの石なんでしょ。なんか気付いた事ないの?」
「そういう使い方ではございませんな。」
え?じゃあどういう使い方?
私が考えるポーズをしていると、女の子が訝しそうにこちらを見ている。
「!」
ヤバい。私これ腕輪に話しかけてるヤバい人じゃん。そもそも、石の声が聞こえるのかっていう問題が、あった。
とりあえず説明している状況ではないので、笑ってごまかしておいた。誤魔化せてるかな…。
朝が小屋の中をぐるっと調べてくれたみたいだ。私のところに来て、薪の方に出口があるけど、人がいるかもしれないと言った。
ていうか、これって誘拐?
人がいるなら外に出られない可能性がある。縛られていた事を考えると、誘拐の可能性が高い。
しかも美少女2人。そう、美少女ね、美少女。
自分で3回言ったが、私の事は置いておくとしても、もう1人捕まっていた女の子は確かに美少女だ。暗くてよく見えないが、多分茶色の髪に瞳の色も明るい。くるくるした髪の毛は、癖毛だろうか、程良く波打っていて触りたくなるフワフワに見える。多分、年の頃は小学校入ってるか、入ってないか………。
そんな事を考えていると、外から声が聞こえてきた。
「………だけだ。明日、出発する。」
「分かった。少し寝たら、交代しろよ。」
どうやら見張りの男だろう。何やら話しているが、多分人数は2人だと思う。
「(朝、この2人以外、誰かいそう?)」
朝は首を横にフルフルする。
2人か………………。
2人と言っても交代するので、実質は1人だろう。しかし、近くに仲間がいるかもしれない。「なんで扉開けて早々、誘拐されてんだろ??」と納得いかないが、このまま攫われるわけにはいかない。
冒険はしたいと思ったけど、早々に売られるとか、嫌だからね………。
声が聞こえないように、入り口から遠いところへ移動する。女の子を手招きして、そばに座らせると朝も目の前にちょこんと座った。
「ねぇ、勿論夜のうちに逃げないとヤバいよね。」
「そうね。朝になったら移動するみたいだし、見張りも2人になるわ。もし仲間がいて、合流されるともっと厄介だし。今はあなた達が縛られていて、女の子だから油断してるだけよ。」
私達の会話を見ていた女の子が言う。
「お姉ちゃん、猫ちゃんとお話ししてるの??」
あ。そういや、ここ(5の扉)では猫って喋るかな………?
ついいつも通りに会話していたのに気付かなかった私は、冷や汗が出てきた。もしここで変人確定したら、それはそれでヤバくない?と思っていると、
「いいなぁ。ティラナもお話ししたいなぁ。」
と言うので、「いいよ?話してみる?」と言った。
しかし、彼女曰く「猫語が分からない」との事だ。なんだか「ニャーニャー」言ってるらしいんだけど、何を言っているのかは分からないらしい。見ていると、私と朝が会話してるのは間違い無いので羨ましくて、大きくなったら猫語が分かるのか聞かれた。
「うーん。大きくなったら…お姉ちゃんもね、猫語が分かるようになったの最近なんだよ。お父さんとかお母さんは、猫ちゃんと話せるの?」
「話せないと思う。見た事ない。」
小声で色々聞いてみると、まず動物と会話してる人はいないそうだ。飼っている動物に話しかける事はあっても、言葉は分からないのが普通っぽい。
まぁ、私の世界でもそれが普通だしね………。
朝だけが喋るのかとも思ったけど、今聞いていて分からないなら、「私だけが分かる」のが正解だろう。ついでにちょっと聞いてみる。
「ねぇ、さっきコレが喋ったのも聞いてた?」
腕輪が嵌っている手を見せて、聞く。
「??手が喋るの?」
「んーん、なんでもない。」と誤魔化したけど、やはり石も喋らないっぽい。何があるか分からないし、この世界の常識もわからないのでとりあえず「お姉ちゃんが猫とお話できるのは内緒ね。」と言っておく。小さな女の子がどこまで守れるか分からないけど、口止めしないよりはいいだろう。
ゆっくり頷くと、彼女はどうして自分がここに居るのか話し出した。
朝からティラナはお父さんと森に食料調達に来ていたらしい。木の実やキノコを採って、お父さんは小さい動物を獲っていたようだ。ある程度採れたので、お昼を食べてから帰ろうかと準備していた。お父さんは獲れた動物の処理をしていて、ティラナはご飯の用意をしてたらしい。
「そんなに離れてなかったのに、お父さんが後ろを向いているうちに、近づいてたんだと思う。」
急に後ろから口を塞がれ、抱き上げられてあっという間に森の奥に連れて行かれたらしい。少し離れた所に隠してあった大きな袋に入れられてからは、もう気付いたらこの小屋だったようだ。
「森の中ね…。人攫いって、よく出るの?」
「最近増えたってお父さんが言ってた。でも、うちはお母さんがいないから、1人でお留守番もダメだから………お父さん、心配してる、きっと。」
ティラナの大きな目がウルっとしてきた。泣かれるとまずい。気付かれるかもしれない。
何かいいものがないか、小屋の中をキョロキョロしていると、「ふふっ」と小さく笑う声が聞こえた。朝が、ティラナにすり寄ってしっぽをフリフリしている。
ナイス、朝………!
朝による癒しタイムが行われてるうちに、ちょっと後ろを向いてコソコソ作戦タイムだ。
「作戦ある人、挙手。」
「あまり私たちは役に立てなそうね。」
「わたくしもですな。」
「ピンチになったら吾輩を呼ぶがいい。」
いや、今ピンチなんですけど。
当てにしたのが間違いか………と額に手を当てていると、ドアが軋む音がした。
ギギッ
「………!!」
瞬時にティラナを抑え込み、自分も寝転がる。
……………ヤバい。気付かれたかな…てかそもそも移動してるし………。
ドアが開いて、月明かりが差し込む。入ってくる様子はないが、中の様子を確認しているのだろう、見られている感じはする。息を殺してじっとする。
「2人一緒にしたっけな?」
まずい。近づいてくる。
大ピーンチ!!どうしようどうしようどうしよう!!
自分の心臓の音がもの凄く大きくなっているのが分かる。床に差し込む月明かりをじっと見つめたまま、頭をフル回転させようとするが、焦りだけで全く何も考えられない。「絶体絶命!」と思ったところで
「ニャーン」
と朝の声がした。
足音が止まった。
朝!引き付けてくれてる!
あっちいけ!可愛い猫ちゃんだよ~見に行って~!でも朝が襲われると困るな…。
「なんだ猫か。」
男は一瞬ビクッとして振り返ったが、呟くとすぐまたこちらへ進んでくる。
おうおう、全然止まらなーい!!
すごく嫌な汗が出る。息を殺しているけど、汗で気づかれたらどうしよう!なんてお門違いな事をぐるぐる考える。
開けていた薄目を閉じて、ひたすら息を殺す。男が私達のすぐそばに立ち止まった事が分かった。
「コイツ、起きてんじゃねーだろうな。」
ドン!
鈍い音がして、「グッ…」とティラナの声が聞こえた瞬間、カッと熱くなった私は凄い勢いで立ち上がって男とティラナの間に立った。
「やめて!」
威嚇の為、出来る限りの大きな声を出したつもりだったが、かすれた声が出る。
手足がブルブル震えているけど、どうしようもない怒りがこみ上げてきて、怖さを上回った。
「なんだ。ガキより丁度いい。売り物にキズはつけない主義だかなんだか知らねぇが気分次第だよなぁ?なに、優しくしてやるよ。」
男が手を伸ばしてきた瞬間、全身に鳥肌が立つ。
怒りが恐怖に変わった瞬間、
「気焔!!!!!」
と叫んだ。
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