始業
「以上で開校式を終了する。教室に戻り、各教室でガイダンスを開始するように」
校長の訓示が終わると主任教官の号令がかかり、開校式は終了した。
明後日行われる入学式は学校の人間だけでなく、新入生の保護者や軍のお偉方から王族の方まで出席する大掛かりな式になるが、開校式は簡素なものだ。
見覚えのない教官が我々魔導科3年次生を先導している。すると、横に立っていたレオンが小声で話しかけてきた。
「テオドール、あの教官誰か分かるか?」
「いや、分からん。新任の教官だろう」
前を歩いているマリウスも話が聞こえたのか、少し歩調を緩めて私とマリウスに近づいてくる。
「テオドールでも分からないのかい。それじゃお手上げだねぇ」
「むしろ貴族である二人の方が分かるんじゃないのか? 軍服の装飾具合からして貴族だろう?」
「北方の親戚なら分かるかも知れねえが、他所の貴族なんて分かんねぇよ」
「
「そういうものなのか。何というか、貴族も難しいな」
……これまでは貴族なんて大体同じものだと考えてきたが、貴族の間にも複雑な関係がありそうだ。
◇◆◇
そうした話をしていると、一団は新しく割り当てられた教室に到着した。教室に入った学生が思い思いに着席すると、教壇に立った教官が口を開いた。
「今年度、この魔導科3年次の担当教官になったデニス・フォン・シュミッツである。昨年度までは第2近衛連隊付魔導参謀を務めていた。よろしく頼む」
30代半ばに見えるシュミッツ教官の語る経歴に教室全体がどよめく。私も驚いた。近衛連隊付きの参謀と言えば参謀職の花形、末は参謀総長まで見える出世街道の本流だ。
それに対し士官学校の教官職は、学生に高位貴族子弟がいることも少なくない士官学校であるため、人選に配慮の求められるポストではある。しかし、たとえ将来のエリートである魔導科の担当教官であっても決して有力なポストとは言えない。本来なら平民士官の上がりポストなのだ。貴族士官が座るポストではない。
「おいおいマジかよ、シュミッツって言ったら、シュミッツ伯爵家か!?」
「知っているのか、レオン?」
抑え気味に、しかし分かりやすく驚きの声を上げた隣の席のレオンを見る。その隣に座るマリウスもまた、驚きの表情を浮かべていた。
「ああ、プルーセンが公国だった時代からの普代家臣だ。貴族名鑑にデカデカと載ってたから、よく覚えている」
「加えて言うなら、近衛師団の師団長職を半ば家職としている強力な武家だね」
「そりゃまた、何とも……」
栄達が約束された大貴族家の人間が、どうして閑職とも言える教官になったのか。謎は深まる。
「それではこれより、今年度の年次予定について説明する」
我々の動揺をよそに、シュミッツ教官はガイダンスを進めていった。
「知っての通り、3年次最大の行事は夏季休業明けの10月から行われる隊付研修だ。研修開始に伴う准尉任官によって、諸君はプルーセン王国軍人としてのキャリアをスタートさせる」
隊付研修。幼年学校から始まり、士官学校で2年次まで受けてきた諸々の教育により、3年次生である我々は士官としての業務に必要な最低限度の知識を身に付けた。
そうして身に付けた知識を実践的なものに鍛磨するため、また卒業後は退官するか戦死するまで身を置くこととなる軍に順応させるため、3年次の後期は各地の連隊に派遣され、実地で研修を行う。
研修内容は年度や派遣先の連隊によってバラつきがあるが、おおむね現役士官の補助と言えるだろう。研修とはいえ立派な軍務であることから、准尉として任官することにもなる。僅かではあるが俸給も出る。
「研修先については前期の末に通達がある。楽しみにしておくように」
教官の出自に動揺していた我々も、説明を聞くうちに隊付研修へ関心を移していった。
フォーゲル少佐は隊付研修について便宜を図ることを約束してくださったが、実際どこに送られるのだろうか? 貴族家出身者で固められている第1近衛連隊や門衛等を通じて交流のある第3近衛連隊は無いだろうが……。考えると期待が膨らむ。
「続いて――――」
私が隊付研修に思いを馳せている間にもシュミッツ教官はガイダンスを進め、昼前にガイダンスは終了した。
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