ベルンブルグ
考え事をしたり拘魔錠で
王都・ベルンブルグ。プルーセン王ジギスムント四世が御座すこの都市は、ジギスムント王の趣向と都市周辺に設置された軍事施設の多さから「軍都」として名高い。
代々プルーセン王の居城となってきたベルンブルグ宮殿を中心とし、貴族の邸宅や官公庁の庁舎が置かれる中心街。都市化の進展、プルーセン王国の拡大にともなう首都の拡大により、中心街を囲むようにして形成された新市街。ベルンブルグ駅は、宮殿から伸びる4本の大路の1つに面した、新市街の一等地に位置している。
西部からの旅客を乗せベルンブルグへ辿り着いた車両は、プラットホームに乗客を吐き出す。乗客に加え、乗客を迎えに来た人々や鉄道職員で賑わうプラットホームに私も降り立つ。
誰かに帰還を伝えた訳でもないから、迎えはいない。人波を掻き分け、駅の出口へ向かう。
「君、頼めるか?」
「へい旦那、どこまででしょう?」
駅前に待機している辻馬車の御者に声を掛ける。ドアを開け応じた御者は、行き先を尋ねた。
「旧市街・北東ブロックの士官学校まで頼む」
「承知しました、旦那。少々揺れますんでご注意ください!」
行き先を指示すると、御者はすぐに馬に鞭を入れた。鉄道のそれよりも幾分ゆったりと流れる車窓の景色を、ぼうっと眺める。
先王の治世において大規模な再開発がなされたベルンブルグは、宮殿を中心として碁盤目状に再造成されている。建築狂とも渾名される先王は、貴族邸宅すらも必要であれば破却し、一時は国内の緊張を高めたとか。
ともあれ、先王の狂気的とも言える再開発事業は、一定の成果を上げている。
主要な道路は都市内交通における馬車の利用拡大を踏まえ、車道と歩道を分離し、道幅の拡張が行われた。
地上の開発に並行して行われた地下の上下水道整備や公衆浴場の整備により、衛生環境の改善も見られる。都市生活の近代化は、先王によって成されたと言っても過言ではないだろう。
道行く人は誰も清潔で、その表情は明るく見える。まあ、ここが首都であり、更にはその大通りだから、ということも影響しているのだろうが。
……異界の記憶があるからか、以前と比べて視野を広く持ち、物事を客観視できるようになった。こうして街並みや見ず知らずの他人に目を向けるのは、そしてそれらを観察できるのは成長と言えるだろう。
◇◆◇
馬車は王都南部の新市街に位置するベルンブルグ駅から旧市街に入り、宮殿を迂回するようにして東側を走った。しかし、旧市街南東部、貴族邸宅の立ち並ぶ街区で、馬車は止まってしまった。
「すまねえ、旦那。貴族様の葬列だ。しばらく立ち往生する事になりそうだ」
申し訳なさそうな声音で、御者台からこちらを覗き込んだ御者が謝る。とはいえ、葬列の発生は御者の責任ではないし、急ぎの用がある訳でもない。
「いや、問題無いよ」
そう声を掛け、馬車から降りる。平民の身で車上から貴族家の葬列を見物するのは、いささか具合が悪い。難癖付けられるのも面倒だ、降りて馬車の横に立つ。
人払いがされ厳粛な雰囲気が漂う東大通りに、葬列の先頭が見える。先触れの掲げる旗は葬列を意味する弔旗に何処かで見た覚えのある侯爵家家紋、それと第2近衛連隊旗か。
葬列の規模からすると、侯爵家当主や嗣子ではないだろう。次男坊、三男坊といったところか。葬列には侯爵家の人間に加え、第2近衛連隊の人間も並んでいるようだ。
死者が軍関係者ならば、士官候補生として相応しい弔意を示すべきだろう。制帽を脇に抱え、敬礼する。
辺りを見れば、大通りの警備を行う兵士だけでなく、市民の中にも敬礼をする者がいた。見よう見まねという風でもなく正確な敬礼を行うそれらの市民は、おそらく兵役経験者なのだろう。
葬列の中央に差し掛かると、侯爵家の血族が沈痛な面持ちで進んでいた。その中には、士官学校で見た若者もいた。家紋の見覚えは彼の物だったか。
内心で納得していると、葬列の最後尾も目の前を通り過ぎて行き、規制が解除された。街の騒々しさが戻るのを感じながら馬車に乗り込む。
「よし、出してくれ」
「へい、旦那」
馬車は再び走り出す。士官学校に着くまで、私の頭は先程の葬列に占められてた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます