『4号渡界実験観察報告書10』

 本報告書は一級機密指定文書であり、閲覧には参謀本部参謀総長もしくは副参謀総長の許可が必要となります。―――参謀本部文書管理室


1.これまでの本実験の推移

 4号渡界実験は過去に行われた1~3号渡界実験の結果を踏まえ、魂魄を肉体から剥離した被験者100名を異界に送り出し、異界の情報を収集することを目的とした実験である。

 2月20日に実験を開始し、3月22日正午時点で実験項目未達成での帰還者2名、死者38名、意識不明60名であった。

 早期帰還者の2名は、ゲートを通過した後に未知の敵対生命体と遭遇し、逃走したと報告している。この敵対生命体が、魂魄との接続が完全に失われ死亡する者の死因であると推定される。

 3月22日午後1:21、意識不明であった被験者の内の1人が意識を取り戻す。当被験者については2.帰還者についてを参照のこと。

 3月25日現在、被験者の状態は実験項目未達成での帰還者2名、実験項目達成での帰還者1名、死者39名、意識不明58名となっている。


2.帰還者について

 帰還した被験者は、陸軍士官学校より派遣された2年次生テオドール・エアハルト学生である。

 彼が帰還できた要因は不明であり、現在調査が進められている。

 診察を担当している医官は1ヶ月間の寝たきりによる体力低下を除いて異常は見られないと報告しており、帰還から3日経過した今も体調の急変はない。

 彼がもたらした異界の情報は、多少偏りが見られるものの膨大であり、一部はプルーセン王国軍にも有用であると認められる。


3.今後の展望

 エアハルト学生が報告した内容は彼の異界での記憶を元にしたものであるため、情報が一面的で正確性に欠ける。その為、3号以前の調査内容と照らし合わせ、より正確な情報へと整える必要がある。

 ザンブルグ博士は、ゲート進入後に遭遇した敵対生命体について調査を進め、可能であれば無力化ないし排除することで、異界へ魂魄を送る手法での調査を推し進めたいとしている。


4.所感

 ザンブルグ博士は研究の継続を提案しているが、これ以上の渡界実験は利益に対し損害が大きすぎ、不適切であると考える。

 本研究を敵対生命体の調査および魂魄の保護についての研究へと接続し、発展的に解消することを提案する。

 また、エアハルト学生のもたらした情報は確かに革新的かつ有用な情報である。しかしそれ故に、公表した場合に生じる波紋は想像もできない。

 特に■■■や■■■■については、我が国の外交環境や国体に対し重大な危機をもたらす可能性すらある。

 私は当実験に関する全記録について3級機密指定を行い、同時に機密レベルの昇格を上申する。


紀元1456年3月25日


フォーゲル・フォン・ライヒャルト

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