第三話 世界は昨日、彼氏が出来た。

 家庭用ゲーム機が御屋敷に配備されて数日経った。俺はその間、後悔の念にとらわれ続けている。


 なぜなら彩お嬢様は、たびたび俺の部屋にノックもせずに入ってくると、今日やってる? と、常連の居酒屋に入る親父のような態度で平然とゲームを始める。


 ゲーム馬鹿からしたら俺との約束より、ゲームをプレイしたい欲求が勝るのだろう。仙道家に代々仕える百氏家とはお笑い草だ。


 俺はこんなにも毎日、彩の事で頭を悩ませていると言うのに、当の本人はモニターに釘付けでこちらをチラリとも見る事は無かった。


 しかし、愚痴を言ってるだけでは解決できないのも真実。本格的に対策を打たないといけない。彩が問題が解決するまで、俺の苦悩は永遠に続く、フォーエバーァーである。


 そんな答えの出てこない問題に想いに老けていると、授業終了の鐘で現実に引き戻される。

「はぁ」と小さく溜息を吐き立ち上がると、後ろから突然、肩を組んでくる男が現れる。


「直樹、飯食おうぜ!」

「わかったから抱きつくな」


 山田大和。スポーツ万能、無学浅識。いわゆる馬鹿だ。ただの馬鹿と侮るなかれ、大がつくほどの大馬鹿だ。

 テストで赤点取るのは当たり前、校則はお構なし。喧嘩早く、問題だらけの不良代表だ。

 顔は悪くないのに何故かモテ無い、残念な男だ。


「彼女出来たからって冷たいじゃねーかよ! なぁ今度、五十鈴ちゃんの友達紹介してくれよぉ、なぁなぁたのむぜぇ、この通りだ」

「だから、違うて何回も言ってるだろ、たまたま数分遊んだだけだよ……そんな事より、飯行こうぜ」


 俺は大和を待たずに教室をでて屋上に向かうと、大和は小走りで俺を追ってくる。


 この数日、大和は凛の事ばかりを言ってくる、何度訂正しても納得しないのが、この男の面倒くさい所だ。

 これでも俺の1番仲のいい友達である以上無碍にも出来ない。


「いったい、いつまではぐらかすんだ? 幸せは共有してこそだと思わないかね、直樹君?」

「思いませんな、大和君。不幸は分けても、幸せを分ける人間など居ないのだよ」

「なんかそれ、性格わるくね?」

「それより俺の不幸をわけさせてくれ」

「お、なになに。絶好調の直樹が」


 大和はニヤニヤしながら顔を近づけてくる。

「実は、俺の親父は厳しくてな。ゲームを禁止されているんだが、つい魔が刺してゲーム機を買っちまった。どうすれば怒られずにゲーム出来るようになると思う?」


 三人よれば文殊の知恵、と言うぐらいだ。意外と大和のようなやつが答えを導き出せる事もあるはずだ、ストレートに聞いておこう。


「へぇー。そうなんか、流石直樹んちだな。ヘッドホンつけて遊べばバレないんじゃないか?」

 ふむ、確かに普通の家庭ではそうなるか。

「母が毎日、俺の部屋を掃除してくれるんだ、その時にバレるかもしれない」

 我ながら完璧なフォロー、これで大和が考える条件と齟齬は消えたはずだ。


「げっ、直樹おまっ。おかんに掃除してもらってるのか? しんじられねー真実だ。よくそれで五十鈴ちゃんと付き合えたな。あーぁ世の中謎だらけだぜ」

 何故かすごい幻滅された。

 なんかイラッとするし。

 こいつは役にたたない気がして来た。


 屋上についた俺達は、腰を下ろして弁当を食べ始める。

「それで解決策は無いのか?」

「そうだなぁ、要は頭の固い直樹の親父をどうにかするか、おかんを説得して内緒にしてもらうかだな」

 なるほど、使用人をどうにかするとゆうパターンもあるか。


「頭の固い親父は諦めろ」


 大和はキッパリと、片方の選択肢を切り捨てた。

 それは根本の解決にはなっていないと思うが……。

「不満そうだな、いいか? 親父て生き物は化石みたいなもんだ。古くてガチガチに固まって、もうどうにもならない生き物なんだ。

 それに比べればおかんの懐柔のがよっぽど可能性はあるってもんよ」


 言い方はあれだが、俺が旦那様を説得出来る可能性は薄いだろう。一理ある話だ。

「なるほどな、ためになったよ」

 予想以上の収穫だ。

 使用人をどうにかする事からプランをたてよう。

「そう思うなら、五十鈴ちゃんの友達の一人でも紹介してくれ」


 大和にも色々世話になってるしそのぐらいの労力は払ってもいいか。

「わかった話しておく」

「マジ!? やふー! 持つべきものは親友だな!」

 それからくだらない話を喋りながら、次の予鈴がなるまで、屋上の片隅で時間を過ごした。



 午後の授業も終わりを告げ、クラス全員が一斉に教室を出始めると、俺は教室の教壇で黒板を掃除し始めた凛に近づき話始める。


「凛、少しいいか?」


 凛は顔だけこちらに向け、返事をする。


「直樹君どうしたの?」

 俺はすぐさま本題をきりだす。


「凛の友達を紹介して欲しい」

「へ?」


 なんだそのリアクション。

 我等男子を侮っていないかい?


「だ、だれを?」


 ん? 考えたら大和の好みを俺は知らない。だれかれ構わず可愛いと言ってるから方向性がわからないな。


 だが凛が選んでくれれば間違いないか。大和の友達としては、見た目より心の優しい子と付き合って欲しいしな。


「誰って訳じゃないが、心根の優しそうな子がいい」

 俺の願望を告げ、凛の了承の返事を貰うだけだ。

 だが想像とは違う返事が来た。


「ん〜ごめん! 多分無理、最近彼氏出来た友達多いの」


 凛は申し訳なさそうに謝ってくる。


 マジか、断られるなど、思いもしなかった。大和に約束しちまった。あんな事言って断られましたなんて言ったら、赤っ恥もいいとこだ……条件を緩和しよう。


「そうか、なら。男友達が欲しい子とか、彼氏居ない子とか、言葉は悪いが最低限の礼儀が有れば問題ないから紹介してくれないか?」


「ん〜ごめん! みんな彼氏が居るの」


「みんな!?」


 そんな事あり得るのか!?

 俺はたまらず質問する。


「そこにいる子もか?」


 俺は適当に廊下で喋っている女に指を指して、凛の回答を待つ。


「あの子は昨日、彼氏が出来たわ」


 昨日!? なんてタイムリーなんだ。


「じゃあ、あの子は?」


 次は先程の隣の女だ


「その子も昨日、彼氏ができたばかりのホヤホヤ、羨ましいなぁ」


 なんたる偶然……。


「じゃあ、あの子は?」


 ちょうど通りがかった女を指名する。


「あの子も昨日、彼氏が出来て喜んでいたわ」


 いったい昨日、なにがあったんだーーー!

 俺は半ば諦め、ダメ元で最後の望みを託す。


「じゃあ、凛はどうなんだ?」


 凛は石造のように固まり、動きを止める。

 そりゃダメか、こいつモテるだろうしな……。あぁー大和に話すのが憂鬱だ。


「すまん、聞かなかった事にしてくれ、諦めるわ」


「まって! いいよ……うちはいいよ! うちは昨日彼氏出来なかった!」


 その表情は頬を赤らめ、女性らしい可愛らしさが前面に押し出されてる。

 ま、まさかの1番の大物が釣れたぞ。これで成功すれば大和が羨ましいぐらいだ。


「マジか……ありがとう。明日の昼に屋上来てくれ」

 日時と場所を伝えると、凛に「じゃ」と手を振り、教室を出ようとする。

 早くしなければ……彩が俺の部屋を占領しかねない。


「直樹君!」


 凛の声に足を止め、振り向く。


「また明日!」


 そう言って黒板を持って手を振る凛は綺麗で美しかった。


 知ってるかい? この女、俺の初めてを捧げた女なんだぜ。

 大和には内緒にしておこう。嫉妬されるからな。

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