5

まぶしい光を抜けるとキラキラと光る植物や、虹色のとてもきれいな結晶が点在している、とても美しい場所にでた。

ルドウェルは驚いたように、興味津々な様子で周りを見渡したあと、リリアに聞いた。

「ここが、精霊の抜け道なのか?」

「・・・いや、ここは・・・。」


リリアは自分の体が支えきれず、思わず崩れ落ちた。

息が上手く吸えず、バクバクと心臓がなる。ルドウェルが何かを言っているが上手く聞き取れない。

なにかおかしいと思ったんだ。やっぱりあの扉は違う物だったか。

そんな事を思いながら体から力が抜け遂には地面に倒れ込んでしまう。ルドウェルが声を掛けてくるが、それに答えられないままリリアは意識を手放した。







目を覚ますと、立派な枝から生えた青々した葉っぱが見えた。

体を起こそうとするが、重たく感じ腕には力が入りにくく起きることが出来なかった。起きることを諦め、ぽすんと再び柔らかな布に身を沈める。

(どれぐらい気を失っていたんだろう・・・?それにルドウェルもいない。)



サクッと誰かが草を踏む音が聞こえ、そちらを見ると白い布に身を包んだ長身の金髪の男が近づいてきていた。

リリアはその男をぽかんとした顔で見つめる。男は自分に注がれる視線に気がついた様でこちらを見て驚いた後、足早に近づいてくる。


「目が覚めたのか。」

「え、あ、うん。」

「・・・?なんだ?」

「えっと、ルドウェル・・・よね?」

「どういう意味だ?」

「いや特に意味はないんだけど・・・その少し驚いただけ。」


ルドウェルは出会った時の服ではなく、右肩からゆったりと大きな白い布がその引き締まった体を覆い、腰にはベルトのように金の装飾具がついている。ひどくシンプルではあるが、顔が良いととてつもなく似合っている。その服と、見た目、幻想的な背景が相まって人ではなく見えてしまった。まるでおとぎ話で聞いたことのあるようなエルフのよう。

そのことを伝えるとルドウェルは、苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「なんか、ごめん。」

「いや、別に。それより、体は大丈夫なのか?」

「うーん。多分。ただ、上手く力が入らないから起き上がれないかな。私が気を失ってからどれぐらい?」

「・・・正直なところ、俺にも正確な時間はわからないが1日近くは立っている・・・と思う。」

「そっか。思った以上に魔力を使ったから・・・。それにここは・・・。」

「ここは・・・。」


《その質問には私が答えましょう。》


突然きれいな透き通った女性の声が聞こえた。

音も立てずに、神々しいきれいな女性が近づいてくる。私もルドウェルも、驚きその女性に釘付けとなる。


「まさか、あなたは・・・。」

《はじめまして、愛しい子。ずっとあなたに会いたかったの。》


動けない私に近づき、彼女は優しく頬をなでる。温かいような冷たいような不思議な感覚だが、どこか安心できうっとりと目を閉じる。


「あなたは、精霊の女王様ではないですか?」


彼女の手が離れたタイミングでそう問うと、見惚れてしまうほどきれいに微笑み、頷く。


《えぇ。あなた方人達は私のことを精霊の女王と呼んだわ。》

「そうなんですね。私とルドウェルをここ・・・精霊の国に呼んだのも、あなたですか?」

《いいえ。それについて私はあなた方、特にリリアあなたに謝罪しなければいけません。》

「?」

《あなた方は精霊の抜け道を使用しようとしただけでしょう?ただ、どうやら、力を貸した子達があなたと居たくてわざとここに繋がる扉を出した様なの。》

「そうなんですね。おかしいと思ったんです。精霊の抜け道に繋がる扉なら、ほとんど魔力を消費しないはずなのに、通った時にごっそり持って行かれた感覚があったから・・・。」

《すみません。本当に。》


女王様はすっと立ち上がりながら、上を見上げる。つられて上を見上げると、目が覚めたときにも見た大きな木。


《この木の下に居ればはやく魔力が回復するでしょう。回復するまでここでゆるりと過ごされてください。》


そういい彼女はゆったりと去って行った。


「すごい・・・きれいなひとだったね。」

「あぁ。」

「・・・・。」

「・・・どうした?」

「眠い・・・。」

「そうか。なら休むといい。」

「あり、が・・・。」


リリアは再び眠りについた。

  




次に目が覚めたときはすっきりとしていた。

体も軽く気分も良い。おそらく魔力も戻ったのであろう。

ゆっくりと起き上がってみるが特に痛むところもないようだ。伸びをしてあたりを見回す。ルドウェルは近くに居ないようだ。

起き上がると、少しふらつき転びかけるが近くにあった大きな木の根に手をつき事なきを得る。

改めてあたりを見渡し、その美しさに息を飲んだ。ガラスで出来ているといわれても差し支えのない様な植物や、虹色に輝く宝石が地面や木の幹から生え、不思議な光の粒が宙を舞い、それらが木々の間から差し込む柔らかな光を反射しキラキラと輝き幻想的な光景を演出していた。


「・・・事故で来ちゃったけど・・・こんなにきれいならお得した気分。」

「倒れたことを忘れるなよ。」


突然呆れた調子の声が聞こえ、驚きあたりを見渡すがその声の主は見つからない。すると、大きな根の陰からルドウェルが少し眠たそうな顔をひょっこりと覗かせた。


「・・・びっくりした。そこに居たのルドウェル。」

「あぁ。少し休んでいた。・・・どうやら、回復したみたいだな。」

「うん。ねぇ、あれからどれぐらい?女王様と会ってから。」

「・・・前も思ったが、どれぐらいと言われても、答え難い。ここには夜がないようだ。」

「えっ、そうなの!?」

「あぁ。」

「そう・・・知らなかった。」

「・・・精霊の女王から伝言だ。」

「伝言?」

「魔力が回復したら、すぐにここから出た方が良いと言われた。」

「どうして?」

「ここは外と時間の流れが違うらしい。」

「あぁ、そういうことね。確かに精霊の抜け道を使うだけでも1日2日の誤差が出るし・・・精霊の国ならそれ以上の可能性もあるかもね。分かったわ。早く行こう。」


ふかふかのベッドのようなものから、名残惜しさを感じつつも離れ、しっかりと地面を踏みしめる。さっきはふらついたけど今度は大丈夫なようだ。両手をぐっぱして指先の感覚を確かめ、腕や首をゆっくり回す。その後屈伸をして、念のためジャンプもしてみる。

(うん。違和感もないし、大きな問題はなさそう。)

それを確認して、改めて声を掛けようとルドウェルの方を向くと、彼ははぁっとため息を吐いていた。


「どうかした?」

「お前は・・・もう少し恥じらいだとか、注意力だとかそういうのに気をつけた方がいい。」


わからなくて首を傾げていると、ルドウェルは腰から下あたりを指さしてくる。

その指を辿るように下をみると膝上の白いスカートが目に映る。スカートに何かついているのだろうか?ゆっくりと見るが特に変な感じもしないし何かが付いているという訳でもない。

(ん?スカート?・・・待って私数秒前何をした?ジャンプしたんじゃない?)

意識を向けるといつも以上にスースーとし、違和感があった。いつも必ずあるものがないような、そんな違和感。

「!!」

違和感の正体に気がつき、おそるおそる、腰あたりを触り確認する。

(ない。何も履いてない!)

ルドウェルが呆れていた理由に気がつき、その瞬間顔に熱が集まるのが分かった。

ギギギギと音が聞こえてきそうな程、ぎこちない動きで男を見ると問うた。


「・・・見たの?」

「・・・・。」


すっと目を逸らし何も語らないルドウェルの様子が答えだった。

きれいな、とてもきれいな森に私の奇声とパシンという音が大きくこだました。


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