第65話 かいこ みっしょん

 献上品の農作物はこれでクリアした。

 後は武器と、反物だな。

 武器の発注はすでにメーリンとチンさんに任せている。

 直に持ってくるだろう。


 問題は反物だな。

 織機どころか、蚕もいないし、綿も育てていない。

 スタートラインにすら立てていなかった。


「そう言えば、カーチャ。みんなの服ってどうやって作ってたの?」

「その前に、なんであたしに聞いたんだい?」

「え?」


 と、年の功……。

 言いかけて、俺は慌てて口を噤む。

 苦笑で誤魔化したけど、カーチャはムッと俺を睨んだ。


「そうさねぇ。あたしの子どもの頃は、蚕を飼ってたもんさ」

「その蚕はどこへ行ったの? やっぱり環境の変化で死んだとか?」

「いいや。蚕は生きてるよ。むしろピンピンしてる」


 まさか……。嫌な予感がする。


「魔獣になったんだよ。こんなデッカいね」


 カーチャは手を広げて、魔獣化した蚕を表現する。

 リアルにその大きさの芋虫を見たら、ドン引くかも……。


「でも、それぐらい大きいってことは、どこに繭を張っているんだろうか?」

「それなら、洞窟で見たぜ。な、兄者」

「おう。弟者」


 と言ったのは、トレジャー&アバカム兄弟だ。

 まるで戦闘をしてきたかのように服がボロボロだ。

 怪我はないみたいだけど、外出先から帰ってきたのだろう。

 実は2人には、封印の洞窟のような暗黒大陸にある隠されたダンジョンを探してもらってる。

 お宝探索には、2人のスキルは持ってこいだからね。


「洞窟に蚕がいたの?」

「ああ。間違いない。な、兄者」

「おう。弟者」


 相変わらず仲良しだな、この兄弟。

 息もピッタリだし。


「案内してくれる?」

「どうする気だい、ダイチ?」

「もちろん、その蚕から生糸を取るのさ」





 早速、俺はトレジャー&アバカム兄弟の案内の元、洞窟へと向かう。


 いくらも歩かないうちに、その真っ白な繭は現れた。


「デカっ!!」


 間違いなく蚕だ。

 しかも、巨大……。

 洞窟の奥へと続く道に、まるで立ちふさがるように鎮座していた。


 思ったよりも大きかったけど、これ1つだけでもかなりの量の生糸が取れるんじゃないだろうか。

 触ると、ベトベトしてる。

 何か接着剤みたいだ。

 このまま糸を取るのは難しそうだな。


「持って帰ろうか……」

「え? 持って帰るのかい?」


 同行したカーチャが、ギョッとした顔を浮かべる。


「一旦お湯に浸けて、このベトベトしたのを取らないと」

「なるほど。仕方ないね。トレジャー&アバカム」

「え?」

「俺たち?」

「大魔王様にやらせるわけにはいかないだろう」

「え~~。カーチャさんがいるじゃないスか」

「か弱い乙女に力仕事させるつもりかい?」


 カーチャは獲物を狙う狼のように睨む。

 か弱い乙女は、そんな眼光はしないって突っ込みたかったけど、今度は俺が怒られそうだったのでやめた。


「トレジャー、アバカム頼むよ」

「ダイチ様の言うんじゃ仕方がない」

「その代わり、酒造りができるようになったら、いの一番に試飲させてくれよ」

「わかったよ」


 トレジャーとアバカムに村まで運んでもらう。

 俺が2人いても、とてもじゃないが持ち上げられない。

 けど、トレジャーもアバカムもあれからレベルが上がっている。



 名前   : トレジャー

 レベル  : 21/70

    力 : 91

   魔力 : 86

   体力 : 133

  素早さ : 136

  耐久力 : 128


 ジョブ  : なし


 スキル  : 財宝探知LV3 気配遮断LV2

        鑑定LV4   地図作りLV2



 名前   : アバカム

 レベル  : 20/70

    力 : 85

   魔力 : 95

   体力 : 118

  素早さ : 90

  耐久力 : 100


 ジョブ  : なし


 スキル  : 魔法解錠LV3 気配遮断LV1

        鑑定LV2   警告LV2



 何気に一線級の戦力になりつつあるんだよな。

 ジョブなしなのに。

 そもそもトレジャーの【地図化】も、アバカムの【警告】もレアスキルなんだよなあ。


 【地図作り】はまんまそのままのスキルで、洞窟やダンジョンなど複雑な構造を持つ場所で、1度通った場所を正確に地図に書き起こせるスキルだ。

 これが派生して【地図化】になれば、洞窟に入っただけで自動的に地図ができるスキルになる。

 【金属探知】の派生である【財宝探知】と組み合わせれば、攻略本を片手にダンジョン攻略するようなものだろう。


 アバカムの【警告】は、ある意味チートスキルだ。

 このスキルだけでも、かなりの能力で、危険が差し迫ると、頭の中で音が鳴るようになっている。さらに派生していけば【危険予知】が手に入る。これは具体的な情報が手に入るという、優れたスキルなのだ。


 ステノもそうだけど、うちのジョブなしも十分戦力になるほど育ってる。

 メインのメンバーもうかうかしてられないかもね。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズが更新されました。

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで連載しているので、

12月15日発売のコミックスともどもよろしくお願いします。

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