第10章

第64話 こどもたちは おうえん している

ご無沙汰しております。

完全に不定期なのですが、お付き合いいただけたら嬉しいです。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


「「おおきくな~れ♪ おおきくな~れ♪ モエモエ! キュン♪」」


 畑の方で、大声を上げて歌っていたのは、2人の姉妹だ。

 彼女たちの名前はプラネとシス。

 年は10歳。

 まだまだ子どもで、身体も顔も幼い。

 だが、こう見えて、村の畑の管理者の1人だ。


 何故ならば、彼女たちのスキルは畑の作物にとってなくてはならないものだからである。


 名前   : プラネ

 レベル  : 15/70

    力 : 48

   魔力 : 72

   体力 : 60

  素早さ : 69

  耐久力 : 180


 ジョブ  :


 スキル  : 大応援LV4 混乱の歌LV2

        隠れるLV3




 名前   : シス

 レベル  : 14/70

    力 : 44

   魔力 : 73

   体力 : 55

  素早さ : 60

  耐久力 : 170


 ジョブ  :


 スキル  : 鼓舞LV1  癒やしの歌LV2

        調合LV3



 注目すべきは、【大応援】と【鼓舞】のスキルだ。

 【応援】というスキルの第2派生、第3派生で、仲間にかかっているスキル効果を上昇させる効果がある。


 村にある畑はドリーのスキル【成長促進】の加護にある。

 そこにプラネ&シスの【応援】系のスキルを組み合わせて、さらに効果を高めているのだ。


 とはいえ、スキルで成長を無理矢理引き揚げても、その分の栄養が必要になる。

 だから常に人が土に水や肥料を上げたり、土そのものを入れ替え続けている。

 有り難いのは【言霊ネイムド】の力だ。

 土の肥料として必要なリンとカリウムを生成し放題なので、肥料に事欠かない。


 それでもなかなかうまくいかないこともある。

 ドリーの【成長促進】、プラネとシスの【応援】系スキル――このトリプルスキルがあれば、冬まで余裕だろうと思ってたけど、なかなか簡単には物は運ばない。


 農業は難しい。

 ブラムゴンと戦っている方がまだマシだ。


 それでも村人たちは小さな畑を懸命に守り、そして作物の成長を見守った。


 結果――――。


「ダイチお兄ちゃん、とれたよ!」

「おっきいのとれた!」


 プラネとシスが引っこ抜いたジャガイモを見せびらかす。

 まさにたわわにヽヽヽヽ実ったジャガイモが、小さな手に握られていた。

 土を被った2人の姉妹の表情は晴れやかだ。

 どうだとばかりに、「ドヤ顔」を浮かべている。


「おっきいのが獲れたね。偉いぞ、プラネ、シス」

「プラネ、えらい?」

「シス、えらい?」

「うん。2人とも偉い偉い」


 2人の頭を撫でてやる。

 再びキャッキャッと喜んでいた。


「早速、ミセスのところに持っていってあげて。おいしいふかし芋を作ってくれるよ」

「え-。ふかし芋」

「あきたー」

「そう? じゃあ、バターを付けてあげる」

「やったー!」

「ジャガバタすきー!」


 ぴゅー、プラネとシスは走って行く。


「あ。ちょっと待って、2人とも」

「んー?」

「どうしたの、ダイチお兄ちゃん」


 ジャガイモが入った笊を持ったまま、2人は振り返る。

 俺は苦笑しながら、尋ねた。


「あの~、さっきの歌はどこで覚えたの?」

「歌? おっきくな~れの歌?」


 プラネが尋ねる。

 答えてくれたのは、横のシスだ。


「何を言ってるの? お兄ちゃんだよ?」

「俺??」


 え? 全然覚えがないんだけど……。

 てか、なんで俺が?

 俺の前職に、メイドカフェのメイドなんて項目はないんだけどな。


「前にお兄ちゃんが、顔を真っ赤になってた時に」

「おっきくなる、おまじないを教えてくれたの」


 顔が真っ赤?


 ああ!! そういうことか。

 どうりで覚えていないはずだ。

 てか、なんで「おっきくな~れ」なんだ?

 普通は「おいしくな~れ」だろ?


 酒に酔った時の俺は、10歳の少女達の前で一体何を大きくしていたんだろうか。


 …………。


 うん。考えるのはよそう。

 日本なら事案になりそうだし。


「ダイチィィィィィイイイイイイ!!」


 まるでF1カーみたいに飛び込んできたのは、ミャアだった。

 跳ねられそうになった俺はなんとか回避する。

 ミャアはそのまま盛大にグラベル――じゃなかった、畑の方に突っ込んだ。


「だ、ダイチ! なんで躱すみゃ」

「時速300キロで突っ込まれたら、誰だって躱すって」

「じそく? さんびゃくきろ?」

「こっちの話だ。――――で? ミャアは何しに来たんだ? もしかして、さぼりじゃないよな」

「違うみゃ! 収穫が済んだから、持ってきたみゃよ」


 ミャアはぺっぺっと土を吐き出しながら、後ろを指差した。


 獣人たちがワラワラと村に入ってくる。

 頭の上に大きな籠を載せていた。

 入っていたのは、茸だ。


「おお! 良い感じに育ちましたね」


 適度に広がった茶色の傘。

 傘の裏側は白く、新鮮みを感じる。

 ひだの部分は元気よく張りがあり、何より思わず涎が垂れてしまいそうになるほど、肉厚だ。


「そしてこの香り……。良かった、こっちに来ても食べられるなんて」


 これはただの茸じゃない。

 庶民の強い味方であり、煮て良し、焼いて良し、干して良しの三拍子揃った。


 椎茸である。


 村の方では主にじゃがいも。

 獣人たちには、椎茸を育ててもらっていた。

 ミャアたちが管理する場所には、広大な森が含まれている。

 そこで椎茸を原木栽培してもらったのだ。


 何せ暗黒大陸は日差しが少ない。

 一方、雨は適度にあって、森はいつもじめじめしていて、茸が育つには良い条件がそろっていた。

 適した原木を探すのにはちょっと苦労したけど、その成長は早い。

 あっという間に、籠1杯になってしまったという。


「このペースなら、冬に入る前にエヴノスから出された条件は満たされそうだ」


 俺は暗黒大陸の領主になったわけだけど、その分エヴノスに税金を納めなければならなくなった。

 貨幣で収めることはもちろん、その他にも農作物を収める条件などもあったのだが、どうやらこれは簡単にクリアできそうだ。


「間に合いそうだみゃ。でも、さすがダイチみゃ。まさか暗黒大陸で農業を復活させてしまうなんて。茸がこうやって育つなんて、ミャアたちにはわからなかったみゃ」

「俺、1人じゃどうにもならなかったよ。ミャアたちの努力の賜さ」


 それにドリーやウィンドのおかげでもある。

 2つの精霊を解放していなかったら、この条件をクリアすることは出来なかっただろう。


「だが、1番の功労者はエヴノスだな」


 俺は条件が書かれた紙をバッと広げるのだった。



 ◆◇◆◇◆  魔族 side  ◆◇◆◇◆



「なに? ダイチが早速農作物を納めてきただと?」


 報告を聞き、エヴノスは玉座に座ったまま眉根を寄せた。

 ちらりとアリュシュアの方を見る。

 彼女も意味がわからないとばかりに、首を傾げた。


「はい。さすが大魔王様です。こんなにも早く条件の1つをクリアなさるとは」


 顔を上げたローデシアは、ご満悦だ。

 さらに深く暗黒大陸で汗を流す大魔王に敬意を示した。


 一方、エヴノスとしては信じられない。

 いくら暗黒大陸が広いといっても、そのほとんどがまともに農作物が育たない土地である。

 すぐに困って泣きついてくると思っていたのに、領地を持つ他の貴族よりも早く税金を納めてきた。

 この展開を、エヴノスは全く予想していかなったのだ。


「後で直に検分なさいますか?」

「良かろう」

「大きなじゃがいもと椎茸でした。とてもおいしそうでしたよ」


 ローデシアはホクホク顔だ。

 後で食べるのが楽しみといった感じだった。

 こうした農作物は、魔王城に勤める魔族に振る舞われるからである。


「しかし、さすがエヴノス様ですね」


 突然、ローデシアはエヴノスを褒め称えた。


「どういうことだ?」

「またまた……。とぼけないで下さい。私はわかっていますよ。エヴノス様が、新しく領主となった大魔王様に遠慮して、徴税の条件を緩めたことですよ」

「はっ?」


 いや、そんなことはない。

 エヴノスは心の中で否定した。

 自分で言うのもなんだが、かなり鬼畜な条件を課したはずである。

 農作物の条件は特に厳しくしたつもりだ。

 なのに「緩めた」というのは、どういうことなのか。


 エヴノスはさっぱりわからなかった。


 ひとまず疑問を置いて、エヴノスはローデシアを下がらせる。

 側にいたアリュシュアに尋ねた。


「ど、どういうことだ、アリュシュア?」

「あの~~、エヴノス様。わたくしもちょっと気になっておりまして。確かに課した条件が緩いように思えました。特に農作物が……」

「いや……。そんなことは――――」

「どういう条件で計算されたのですか?」

「ん? 我の1年分の食糧を10倍にしてやったのですが」

「~~~~……」


 アリュシュアは頭を抱えた。


「どうして、そんな計算を……」

「いや、それぐらいならダイチも困る、と……」

「冷静に考えてほしいのですが、エヴノス様。それは単に魔族10人分の1年の食糧ということになるでしょう? それぐらいなら、小さな領地を持つ者でもクリアできる量ですよ」



 が~~ん……。



 エヴノスの頭に、盛大に鐘が鳴る。

 横でアリュシュアは、頭を抱えた。


「いや、だって……。これは――――」


 エヴノスは事務作業が苦手だ。ついでに言うと、算数も苦手である。

 正直ローデシアやアリュシュアから上がってくる書類に、判子をつくだけ。

 中身の精査など全くしない。


 つまり、エヴノスは自分が魔族に対して、どれだけ徴税しているのか知らずに、ダイチに条件を出したのであった。


「い、今すぐ撤回しよう」

「それ――。ローデシアに言う勇気がありますか?」

「あ?」


 条件はそのまま契約書としてしたためられた。

 そのなると、法の番人であるローデシアの管轄になる。

 それを撤回するのには、彼女の承認が必要だった。


 エヴノスはがっくりと肩を落とす。


 その横で見えないように、アリュシュアはため息を吐くのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


第6回カクヨムWeb小説コンテストに応募することにしました。

よろしければ、応援いただけると嬉しいです。

よろしくお願いしますm(_ _)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る