第63話 だいまおうさまは しょうりした
「すごい!」
「やったみゃ!!」
「あたしは勝利するってわかってたぞ」
「「完勝だ!!」」
「ふふ……。ミャアはもっと強いぞ」
「お前、何を言っておるんじゃ」
一際沸き上がったのは、人族と獣人たちがいるサイドだ。
手を上げ、あるいは飛び上がって、喜びを爆発させている。
魔族たちは意気消沈しているかといえば、そうではない。
ゴーレム騎士は「おおおおおおお!」と雄叫びを上げ、暗黒騎士たちは「がしゃがしゃ」と壊れたシンバルみたいな音を出して、手を叩いていた。
1人リアクションもなく、絶句していたのはエヴノスだけだ。
椅子からずり落ちながら、瞼をパチパチと瞬かせている。
ちょっと間抜けだった。
魔王が驚いている横で、ローデシアは感心しきりだ。
「いやー、彼女は強いですね。もちろん、お供の守護獣も魅力的ですが……。あの子、うちに入隊してくれないかな~」
とか言ってる。
「おいおい。ルナは人族だぞ。暗黒騎士にするつもりか?」
「そう言えば、そうでした。あんまり強いので、つい――――。でも、大魔王様には脱帽ですよ」
「どういうことだ?」
「失礼ながら、私は人族や獣人、それにルナさんの武器を作ったドワーフたちを侮っていました。この試合もゴーレム騎士の圧勝になるだろうと。いや、試合にすらならないかもと思ってました」
「けど、結果はどうだ?」
俺はニヤリと笑う。
「はい。結果は逆でした。試合になっていなかったのは、どうやらこちらの方だったようです。申し訳ありませんでした、大魔王様」
ローデシアは丁寧に頭を上げた。
「ローデシア、そういう言葉は戦ったルナたちに聞かせてやってくれ。俺は単にルナたちの背中をほんの少し押しただけなんだ」
俺は闘技場に目を移す。
たくましく成長したルナとチッタを見つめた。
その闘技場ではゴーレム騎士アケイ&エケイの治療が始まっていた。
【超回復】
ルナのスキルが発動する。
優しい光がアケイとエケイを包んだ。
バラバラになっていたゴーレム騎士の巨躯が、積み木を重ねるように治っていく。
それも2人同時にだ。
数秒もしないうちに、アケイとエケイは元に戻っていた。
「おお……」
「すごい……」
アケイとエケイは感嘆の息を漏らす。
ルナの
ゴーレム騎士と戦うのが、役割じゃない。
本来は、戦う者を癒す側なのだ。
攻撃力の強さばかり目にいっていたけど、ルナの魔力は199。
【回復】の第三派生である【超回復】はLV3。
これぐらいになると、半死だとしても、ほとんど間を置かず回復できる。
ルナが後方勤務しなければならない状況は、あまり歓迎できることじゃない。
けど、本音を言うとその回復量を生かす戦場があればいいなとは思う。
そうじゃないと、本当に脳筋聖女になっちゃうからね……(汗)
「「ありがとう」」
まず感謝したのは、アケイとエケイだった。
風圧を伴い、ルナの前に巨手が差し出される。
ルナはちょっと驚きながら、アケイとエケイの表情を見た。
戦いの中で浮かべていたあの禍々しい表情は消え失せ、今は朗らかに笑っている。
どうやらエヴノスの魔法が切れたようだ。
「どういたしまして」
『ガウッ!』
ルナは巨手に触り、チッタは吠えた。
「1つ聞かせてほしい」
「何故、お前はそこから離れようとしなかったのだ?」
それは俺も気になっていた。
ステノも、ミャアもわかっている様子だったけど。
すると、ルナは「それは……」と言って、背後に振り返った。
ちょうど俺と目が合う。
ニッコリと笑った聖女ルナは答えた。
「私の後ろに、ダイチ様がいたからです」
あ――そういうことか。
ルナは守ってくれていたんだ。
自分の戦いであっても、常に俺を守るように戦っていたんだ。
「なるほど。では、我々は守護者失格だな」
「一時とは言え、我々はエヴノス様をお守りすることを忘れていた」
「それがエヴノス様の魔法によるものだとしても」
「魔王城の番人として忘れてはならぬことを、どうやら人族たちから学んだようだ」
アケイとエケイは自分を戒めるように目をつむる。
「弟者よ」
「うむ。兄者よ」
「「我々はもっと強くならねばならぬ」」
最後に声を揃えた。
ルナはニコリと笑う。
「今度は互いの主君を守る戦いをしたいものですね」
「うむ。それは楽しみだ」
「いつでも魔王城に来るがよい。相手になってやろう」
最後にまたがっしりと握手を交わし、勝者は敗者を、敗者は勝者を讃えた。
温かな拍手が送られ、ついに武闘祭は閉幕を告げる。
そして俺は改めてエヴノスに向き直った。
「エヴノス、十分理解できただろう。ここには俺を守ってくれる十分な戦力がある。何も心配することはないんだ。だから、俺を暗黒大陸の領主として認めてくれないか?」
「…………」
「エヴノス様。ダイチ様を暗黒大陸に残すこと、ご心配かと存じます。ですが、ダイチ様が仰るようにここには十分戦力がある。お認めになってもよろしいのではないでしょうか?」
沈黙するエヴノスに、ローデシアが助け船を出す。
それでもエヴノスは何も答えなかった。
迷っているのか、それとも躊躇しているのか。
あるいは、俺が暗黒大陸の領主となることに、何かまずいことでもあるのか。
いずれもわからなかったが、エヴノスは沈黙を続ける。
「魔王様、戦ってみてわかりました。彼らは一級の戦力」
ゴーレム騎士団団長ゴーズもまた貴賓席の方を向いて、膝を突く。
「守護者として十分な素質を備えております」
「必ずや大魔王様を守ってくれるでしょう」
アケイとエケイも願い出る。
人族や獣人だけじゃない。
ここにいる魔族全員が、ルナたちを認めてくれていた。
答えを出していないのは、エヴノスだけ。
そして、ようやく魔王の口が動いたのは、たっぷり10秒待ってからであった。
「良かろう」
その一言を聞いて、人族・獣人はおろか魔族たちも安堵の息を漏らした。
「ようございましたね、ダイチ様」
「うん。ありがとう、エヴノス」
「ただし――――だ……」
エヴノスは付け加えた。
「条件がある……」
ええ~~。また条件??
◆◇◆◇◆ エヴノス side ◆◇◆◇◆
「くはははははははははは!!」
魔王城に帰ってきたエヴノスは上機嫌だった。
執務室で高らかに笑い声を上げる。
側で見ていたアリュシュアが、心配そうに見つめていた。
主君が気が触れたように見えたからである。
だが、エヴノスが執務室で狂笑しているのは、何も自暴自棄になっているわけではない。
暗黒大陸で最後にあったことを思い出し、笑っているのだ。
「そ、それでエヴノス様。条件……というのは?」
「徴税だ?」
「徴税? ……あっ?」
アリュシュアは気付く。
その顔を見て、エヴノスは満足げに笑った。
「あいつは領主になりたいと言った。ならば、領主として我に税金を納めるのは当然の義務であろう」
「確かに……。それで、その徴税の内容は?」
「暗黒大陸は広いからなあ……。魔族の古き侯爵並……いや、それ以上だ。故に――」
「なるほど。徴税の内容は土地の広さで決まりますからね。それならば、あのローデシアもうるさいことを言わないでしょう」
「その通りだ。くくく……。ダイチめ。今頃、慌てふためいていることだぞ。あははははははははははは!!」
エヴノスは哄笑をまき散らす。
横でアリュシュアも、身体をくの字にして笑うのだった。
◆◇◆◇◆ ダイチ side ◆◇◆◇◆
「うーん……」
俺は1枚の紙の前で悩んでいた。
そこには徴税の内容が書かれている。
「何かの間違いじゃないかな、これ……」
結構、簡単にクリアできそうなんだけど、いいのかな……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
第二部これにて終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
しばらく更新が空きますが、引き続き投稿していくので、
作品フォロー、レビュー、コメント、応援の方よろしくお願いします。
新作「魔王様、回復魔術を極めるため聖女に転生する~どうやら回復魔術を何か勘違いされているようですが、もう遅いです~」という作品を投稿しております。
気になる方はチェックいただけると、嬉しいです。
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