第62話 せいじょは いっぽも うごかない

注意:近日中に序盤の展開を改訂します。

   先に書きましたが、序盤の展開が好きだったと言う方は、

   バックアップの方をよろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 ルナが釘バットを両手で握る。

 黒鉄に、ミスリル製の釘が付いたバットは、ルナの背丈とほぼ変わらない。

 自身の体重を超えた超重量武器であることは間違いないのだが、それでもルナが態勢を乱すことはなかった。

 構えたまま、対面に立つアケイ&エケイのコンビを睨む。

 側のチッタも牙を剥きだし、唸っていた。


 先ほどまで激闘を演じていた闘技場が、一転静まり返る。


 最初に肩を竦めたのは、アケイだった。


「なんだ。反撃してくるのかと思ったが、微動だにせぬぞ、弟者」

「我々に恐れを為しているのだ、兄者」


 にやけてる。

 だが、ルナは表情を全く変えず否定した。


「違います。……ここから1歩も動くつもりがないだけです」


 それを聞いて、アケイとエケイは表情を曇らせた。


「なんだと……」

「まさか1歩も動くことなく、我ら兄弟を倒すというのか?」


 最後のエケイの問いに、ルナは「……」と沈黙を以て答える。


「珍しいな……」


 ルナの小さな背中を見ながら、俺は呟く。

 今のルナの言動は、挑発と取られてもおかしくない。

 ルナは優しい娘だ。

 強くなっているが、戦いそのものが好きというわけじゃない。

 本来、相手を挑発するような戦いも好まないはず。

 むしろ積極的に責めて、戦いを早く終わらせたいと思っているはずだ。


「珍しくない……。私でもそうします」


 突然、俺の側にステノが現れた。

 ビックリして、俺は椅子から飛び上がったが、その言葉については気になった。


「みゃははは……。ダイチ、鈍いみゃ」


 今度はミャアだ。

 ひょこりと椅子の後ろから現れる。

 戦いの後だから、お腹が空いたのだろうか。

 鳥の骨のようなものを口にくわえていた。


「ミャアにもわかるのか?」

「当然みゃ! わからないのは、ダイチだけみゃ」


 また「みゃはははは」と笑う。


 え? 全然わからないんだけど……。


 俺が首を傾げる中、戦いは続いていた。

 アケイも、エケイも俺と同じくルナの言動は挑発だと受け取ったのだろう。

 顔が赤黒く変色していく。

 まさに俺がイメージしてネーミングした仁王像のようだ。


「そこまで言うのであれば……。のぅ、弟者よ」

「まずはお前らをそこから動かしてやろう! なぁ、兄者よ!」


 アケイとエケイが動く。

 互いに地面を揺らしながら、闘技場の端に立つルナとチッタに襲いかかる。


 間合いに飛び込んできた2体のゴーレム騎士を見て、ついにルナたちは動いた。

 まずは【守護方陣】を解く。

 守備力が大幅に下がるが、それはルナたちが攻撃する合図だった。


「チッタ! 【凍てつく波動】!!」

『ガウッ!!』


 ルナの指示にチッタは即座に答える。

 チッタは大きく口を開けると、強烈な光を伴った波動を放つ。

 目映い光に、アケイとエケイの動きが止まる。


「こ、これは……。弟者」

「兄者……。エヴノス様が使う」


 目が眩み、悲鳴を上げる。


「あれは我のスキルか」


 エヴノスもまた目を細めた。


 RPGではお馴染みの【凍てつく波動】。

 あらゆるスキルをキャンセルすることができるスキルだ。

 魔王エヴノスも得意とするスキルを、すでにチッタは会得していた。


 【凍てつく波動】を浴びた瞬間、何か硝子が壊れるような音が響く。

 アケイとエケイにかかっていた【鉄壁】が剥がれたのだ。


「兄者!」

「狼狽えるな、弟者! この程度で我々の防御を貫通することは出来ぬ」


 構わずアケイとエケイは突っ込む。

 再びルナとチッタに襲いかかる。

 だが、そこにいたのは、ルナ1人だけだ。


「娘1人! 獣はどうした?」

「かわまぬ、兄者! 女の方を潰せ」


 アケイは大きく振りかぶる。

 チッタがいないということは、先ほどの守護方陣の守りがないということだ。

 ここで攻撃を選択したアケイとエケイは、賢い。


「喰らえ!!」



 【岩石斬り】!!



 アケイの第4派生のスキルが発動する。

 それは岩どころか、大地すら真っ二つに切り裂くことが可能なスキルだ。

 しかも、ルナは宣言した。

 1歩も動かないと。

 何故、彼女がそう言ったか俺にもわからない。


 だが、今動かなければ、いくらレベルが上がった彼女でもゴーレム騎士の渾身の一撃を受け止めることなどできないだろう。


「よけろ、ルナ!!」


 俺は思わず叫んだ。

 その瞬間、ついにアケイが剣を振り下ろした。

 動きが鈍いゴーレム騎士の打ち下ろしとは思えぬ鋭さ。

 斬撃は空気を斬り、やがて闘技場の一角を断つ。

 大地がめくれる。

 視界に見えたのは、穴と言うよりはもはや谷とも言うべき溝であった。


 それを見て、アケイは笑う。


「ふっ! 動いたな……」


 ルナの姿はその溝の側にあった。

 先ほどとは位置が変わっている。

 どうやら、回避したらしい。


 俺は「ふー」と息を吐いた。

 だが――――。


「いいえ。動いてませんよ」


 直後、ルナの声が別の場所から聞こえる。

 そのルナの姿は、アケイの足元にあった。

 1度は胸を撫で下ろした俺だったが、驚愕の光景を見て椅子から立ち上がる。


「る、ルナが2人!! ――――――あっ!!」


 気付いた時には、もう回答は出ていた。

 チッタが【変身】を解く。

 ルナに化けていたのだ。


「言いましたよ。『私はヽヽここから1歩も動くつもりがない』って……」


 ルナはいよいよ釘バットを構える。


「兄者!!」


 エケイが声をかけた時には遅い。

 ルナの渾身の横薙ぎが、アケイの両足を粉砕していた。


「ぎゃあああああああああああ!」


 アケイの悲鳴が上がる。

 両足を断たれては、如何に力に優れていようとも立つこともままならない。

 あっさりと態勢を崩したアケイは、そのまま地面へと倒れた。


「兄者! おのれ!!!!」


 エケイがアケイの仇を取ろうと、飛び込んでくる。


 対するはチッタだ。

 ルナを守るように立ちはだかる。

 【守護方陣】を改めて展開すると、エケイの攻撃を弾いた。

 動きを止めたところで、チッタはエケイに向かって走る。


「くそ! 獣め! 調子に乗るな! お前の攻撃など、我らゴーレム騎士には通じぬ」


 チッタの力は“141”。

 はっきり言って、ルナよりも劣る。

 防御力が“424”にプラス90の石装備をしたエケイに攻撃を通すのは難しい。


 けれど、通す方法がないわけじゃない。


「チッタ!!」


 ルナが手を掲げた。


 【神通力】!!


 【怪力】の上位互換。

 指定した仲間の力を4倍に上げる。

 これでチッタの力は“561”。

 だが、これがチッタのすべてじゃない。


『ガウッ!!』


 【連続攻撃】!!


 エケイに襲いかかると、嵐のように連撃を繰り返す。

 チッタの攻撃力と、エケイの防御力。

 さほど差はないものの、チッタの攻撃は確実にエケイの体力を削いでいく。


 いや、明らかに上回っていた。


『ガルルルルルルル……!』


 雄々しく吠える。


 チッタのジョブは守護獣。

 ルナを守る騎士だ。

 故に側に守護する対象がいれば、それだけで補正値が変わる。

 おそらくその攻撃力は、エケイの防御力を遥かに越えているのだろう。


 一方、そのエケイの表情が変わる。

 試合の前、エヴノスの力を受けて、あれほど余裕を見せていた顔が絶望に歪んだ。


「ぎゃあああああああああ!! 兄者ぁぁぁぁあああああ!!」

「弟者ぁぁぁぁあああああ!!」


 ついにエケイの身体が、チッタによって貫かれた。

 中心を射抜かれたエケイの巨躯もまた崩れていく。

 そのまま城が落ちるように、地面へと倒れていった。


 ずんっ……。


 重苦しい音が響いた後に、闘技場を支配したのは重い重い静寂であった。


 その中で優美な笑みを浮かべたものがいる。

 俺の側に座って、この試合の差配していたローデシアだった。

 薄く唇を開いた彼女は、ついに宣言した。


「勝者、ルナ&チッタのコンビ!!」



 おおおおおおおおおおおおおおおおお!!



 その瞬間、割れんばかりの歓声が響くのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


チッタにポケモン感があるw


面白い、ルナとチッタコンビは最強すぎる、と思った方は、

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とっても執筆の励みになるので、是非お願いします。


※ 明日の更新お休みさせていただきます。

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