第61話 ごーれむは ちょうはつを つかった

「「ふははははははは……!」」


 ステレオが聞いた笑声が響き渡る。

 笑っているのは、アケイ&エケイのコンビだ。

 会場が注目するルナのパフォーマンスを見ても、まるで動じていない。


 揃って腕を組み、口端を歪めていた。


「その程度か、お前の力は?」

「そういうな兄者。小娘の割りにはなかなかの力じゃないか」

「だがな、弟者おとじゃ

「わかっているぞ、兄者」


「「それでは我らの身体を貫くのは無理だぞ」」


 アケイ&エケイが言っていることは正しい。


 ルナのパフォーマンスには、俺も驚いた。

 いくら武器を装備しても、ルナの攻撃力は緒戦を飾ったミャアよりも1段低い。

 そもそもルナは聖女だ。

 ミャアよりも遥かに攻撃系のスキルレパートリーが少ない。

 加えて、基礎能力もミャアと比べると低い。

 ルナを緒戦の1vs1に出さなかったのは、そういう意味合いもあった。


 だが、今はちょっと後悔している。

 ミャアvsゴーズ戦を見て、アケイ&エケイが最初から【鉄壁】をかけてくる可能性があるからだ。


「1つ、お前たちに提案してやろう」

「お? なんだ、兄者?」

「この戦い手加減してやってもいい」

「兄者は優しいのぅ……。具体的には何をするのだ?」

「そうさのぅ。【鉄壁】を使わないというのはどうだ?」


 そこで初めてルナは反応した。

 ピクリと眉を動かす。

 おそらく彼女自身も、懸念事項として捉えているのだろう。


 ルナの反応を見て、アケイ&エケイ兄弟は愉快げに笑った。


「だが、条件がある」

「条件とはなんだ、兄者よ」

「そうだな。我らの身体を磨いてもらおうか」

「おお。それは良い」

「ただし……」

「ただし……」


「「裸でな!」」


 アケイ&エケイはいやらしい笑みを浮かべる。


 この兄弟ってこんな性格だっけ?

 もうちょっと朗らかだったような気がするが……。

 多分エヴノスの力だな。

 そう言えば、ブラムゴンも凶暴性が増していたような気がする。


「お断りします」


 アケイたちの提案を、ルナはきっぱりと断った。


「ほう? 良いのか?」

「お前達は大魔王様に育てられた。俺たちのようにな」

「それなりの実力者なのだろう」

「しかし、いくら身体能力を上げたからといっても」

「人族の、ましてが我らゴーレム騎士の身体を打倒することなど不可能」

「お主らには、大魔王様を守護することなどできんよ。なあ、兄者」


 最後のエケイの言葉に、再びルナは反応する。

 先ほどよりもさらに強く。

 自分よりも遥かに大きいゴーレム騎士を睨む。

 その瞳は、まるで月のように冷ややかだった。


「試してみればわかりますよ」



 私が、ダイチ様をお守りできる人物に値するかどうか。



 正直に言えば、ルナ側にネガティブな情報が目に付く。

 けれど、俺はルナとチッタを信じている。

 あのコンビは間違いなくうちの最強メンバーだからだ。


「ルナ! チッタ! 頑張れ!!」


 俺は声をかける。

 ルナとチッタはこちらを向いた。


「はい!」

『ガウッ!』


 威勢の良い声が返ってくる。

 さっきは一瞬怖かったけど、どうやらいつものルナだ。


 いよいよ問答無用。


 ローデシアのかけ声が響き渡った。



「はじめ!!」



「「鉄壁!!」」


 アケイ&エケイの力強い声が響く。

 早速、【鉄壁】を使ってきた。

 これで防御力は最強クラスになった。

 今、この場であの防御力を越えて、攻撃を貫通できるのは、エヴノスかローデシアぐらいだろう。


 だが、ルナとチッタを何もアクションを起こさない。

 その場に留まって、じっと戦況を見つめているだけだ。


「はは……。臆したか、娘」

「これで我々の勝ちだ。くらえ!!」


 【音速斬り】!


 エケイの【音速斬り】が炸裂する。

 鋼すら易々と切り裂く空気の刃が、ルナとチッタに襲いかかった。

 着弾する。


「「なにぃ?」」


 アケイ&エケイのコンビが声を揃える。

 ルナとチッタは無事だった。

 それどころか全く傷1つ付いていない。


「ぬっ! 【結界】か」

「兄者!!」

「案ずるな、弟者。まだ俺のスキルがある」

「なるほど」

「【結界】など踏みつぶしてくれるわ!!」



 【猪突猛進】!!



 アケイの第四派生スキルだ。

 あらゆる防御系スキルを貫通する。


「これならば【結界】など無意味だ!!」


 アケイは叫ぶ。

 巨体を揺らし、ルナとチッタに飛び込んできた。

 だが、その動きは決して速くない。

 ゴーレム騎士の弱点は、素早さが極端に低いということだ。

 ルナとチッタなら、余裕で攪乱することができるだろう。


 しかし、頑なにルナとチッタは動かなかった。


「終わりだ、娘!!」


 アケイが【両手持ち】を発動する。

 そのまま得意の【岩石斬り】へと移行し、剣を振り上げた。


 ガギィンンンンンン!!


 硬質な音が会場に響き渡る。

 耳はおろか、眼球すら潰れそうだ。

 皆が目をつむる中、俺だけはしっかり戦況を把握していた。

 予想した展開通りの光景を見て、思わず口元が綻ぶ。


「「な……にぃいぃいぃいぃいいいぃぃいいぃ!!」」


 アケイ&エケイは絶叫する。

 防御系スキル貫通を付与した攻撃が、ルナとチッタに直撃する前に止まっていた。

 ルナとチッタを覆う白銀の盾が、その攻撃を阻んでいたのだ。


「何故だ……」

「兄者の【猪突猛進】が……」


 愕然とする一方、ルナは淡々と語った。


「これは【結界】なんかじゃありません。チッタのスキル【守護方陣】です」


「しゅご……ほうじん…………?」

「聞いたことがないぞ」


 【守護方陣】は、守護獣というジョブを持つチッタだけが覚えることができる――【鉄壁】の上位互換、つまり第4派生のスキルになる。

 その能力は【鉄壁】の完全なる上位互換。

 【鉄壁】は防御力を4倍に引き揚げる一方で、【守護方陣】は防御アップはもちろん、『あらゆる攻撃を1度だけ』防ぐことができる。


 それは貫通系のスキルも例外ではない。

 守護獣にふさわしい、最強の防御系スキルなのだ。


 しかも、連続掛けが可能。

 ただ【かばう】の派生系なので、チッタの体力が減る。

 連発は禁物だ。


 正体不明のスキルを前にして、アケイ&エケイのコンビは仰け反る。


 一方、2体の攻撃を完封してみせたルナの目は、全く油断していなかった。

 鋭い視線で、アケイとエケイを睨み付ける。

 いよいよ棍棒を掲げて、攻撃を態勢を作った。


「さあ、今度はこっちの番です」



 悔い改めなさい……。



 聖女と守護獣の反撃が、今始まった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


次回 ゴーレム騎士、死す!(おい!!)

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