第8話 れべるあっぷ した

2020/10/30お話を挿入しました。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 現れたのは、黒鉄に光る塊だ。

 一見金属の塊に見えるが、これもスライムストーンと同じく魔獣が化石になったものだ。

 その名もズバり――メタルム。

 スライムの上位種族である。


「スライムより強いってことですか?」


 俺の説明を聞いたルナは震え上がる。


「まあな。でも、攻撃力は変わらない。火を吹くぐらいだな」

「火を吹くんですか!?」

「大丈夫。軽い火傷を負う程度の威力だよ。ルナの回復スキルならすぐに元通りだ。……けど、こいつが厄介なのはそれだけじゃないんだよ」


 俺は先ほどのスライムストーンと同様、メタルストーンに水をかける。

 石の中に染み込みと、ほとんど焼き増しを見るように黒色のスライムが出現した。


 ルナとチッタは警戒する。

 しばしメタルムと向き直った。


 シュンッ!!


 一瞬にしてメタルムが視界から消える。

 気付けば崖を登り、大陸の奥深くへと逃げていった。


「あ、あれ?」


 ルナは呆気に取られる。


「あれがメタルムの特性だ。とても臆病で、とても速い」

「あ、あんなのどうやって倒すんですかぁ?」

『キィイィイイ!』


 ルナは涙目で訴えれば、横のチッタも抗議の声とばかりに嘶く。


「大丈夫。ちゃんと解決策はあるから」


 俺はもう1度小石をメタルストーンに変換する。

 さらに複数の小石を鉄の塊に変えて、ストーンの周りを覆うように配置した。

 鉄の塊は、ちょうど木の棒の先が入る程度の隙間を空けておく。


 その隙間から水を流し込み、メタルムを復活させた。


 ガキィン!


 いきなり鋭い金属音が響く。

 メタルムが復活直後に、鉄の塊でできた牢屋から出ようとした音だ。

 だが、メタルムは固い鉄に阻まれ身動きができない。

 隙間は空いていて、ゲル状になった部分なら出ることは可能だが、大きな核が通りぬけられないため、脱出ができないでいた。


「なるほど。あらかじめメタルストーンを閉じ込めた状態で、復活させるんですね。さすがダイチ様」


 ルナは感心した様子で、中のメタルムを見つめる。

 これならと棒を握った。


「待ってくれ、ルナ。棒は使わない」

「どうしてですか? 隙間から棒で突いて、メタルムを倒すんじゃ」


 確かにその方法でもメタルムは倒せる。

 だが、例のRPGとは違って、こちらのメタルムは結構しぶとい。

 ルナのレベルは1。武器は落ちていた木の棒だ。

 これでメタルムを打ち据えていたら、日が暮れてしまうだろう。


「では、一体……?」


 ルナは首を傾げる。

 対して俺は口角を上げると、波打ち際に走って行った。


「こうするんだよ」


 手で海水を掬い、メタルムに向かってかけた。


「キャッ!」


 白いしぶきが、ルナにかかる。

 同時に可愛い悲鳴が聞こえた。


「もう……。ダイチ様ったら。遊んでる場合じゃないですよ」


 ガチャン! ガチャガチャガチャ!!


 激しく鉄の牢獄が揺らぐ。

 中で激しくメタルムが悶えていた。

 何か苦しそうにしているようにも見える。


 いや、苦しそうじゃなくて実際に苦しんでいるんだ。


「え? どういうこと?」


 その反応にルナは驚く。


「ルナもチッタもこいつに海水をかけるのを手伝ってくれ」

「は、はい!」

『キィ!!』


 ルナも鉄の檻に向けて、海水を手でかける。

 チッタは後ろ肢を使って、器用に海水を飛ばしていた。

 しばらくすると、檻の中の音が聞こえなくなる。


 俺は確認すると、中のメタルムが死んでいた。

 その体表は赤く錆びている。

 淡く光っていた赤い核からは、生気が失われていた。


 本家って言い方は失礼かもしれないけど、こっちのメタルムは海水に弱い。

 周りが金属みたいだからか。

 体表が錆て身動きできなくなるのだ。

 魔族の研究に寄れば、スライムは体表から酸素や栄養である魔素マナを吸収するらしいから、体表が錆びると窒息状態になるのだろう。


「すごい……。メタルムが死んでる」

「こいつの弱点は――――いっ!!」


 俺はルナの方に顔を向けると固まった。


 波打ち際に入って、海水をかけていたからだろう。

 自分の方にもかかったのか、ルナの服がびしょびしょになっていた。


 ルナの服は薄い生地でできている。

 現代のワイシャツほどではないが、それでも中身が透けて見えていた。


「どうしました、ダイチ様?」


 全くそのことに気付いていないルナは、無警戒で俺の方に近づいてくる。


 俺は慌てて目をそらした。


「いや、その違うんだ……」

「何が違うんですか?」


 いや……。それはその…………。


 おいおい。勘弁してくれよ。

 こんなところで水着イベント(仮)なんて……。

 だったら、もっとちゃんとした水着をルナに着せてあげてくれ。


 ――って、俺は何を考えているんだよ。


 しかし、それにしても……。



 ルナって……。結構育ってるんだなあ……





「ひゃっ!!」


 突然、ルナは悲鳴を上げた。

 俺は反射的に仰け反る。

 いやいやいやいや……。

 まだ何もやってないぞ、俺は。

 確かにルナの胸が意外と大きいなとは思った。

 けど、神に誓ってまだ触ってない!


「ダイチ様……」

「は、はい! ごめん! でも、ルナの胸を卑しい気持ちで見たりしてないから」

「え? 何を言って――――ひゃっ!!」


 ルナはまた悲鳴を上げて、胸元を隠す。

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにそしてちょっと俺を責めるように睨む。

 目で「見ましたか?」と訴えた。


「す、すみません、ダイチ様。その――――そ、粗末なものを……」

「別に粗末なんて思ってないぞ。むしろご立派なものを…………」

「……や、やっぱり見たんですね」


 る、ルナ、それはズルい。

 その誘導尋問はズルい!


「大丈夫です。気にしてない――――って言うと嘘になりますけど……。ダイチ様ならいいです」


 え? それはどういうこと?


「ところで卑しい気持ちじゃないってことは、どういう気持ちだったんですか?」

「る、ルナ~~~~」

「うふふふ……。冗談です。それよりも、ダイチ様。今、レベルアップした音が……。それも1度だけじゃなく、もう何度も……」

「あ、ああ……」


 俺は居住まいを正し、ルナに説明した。


「メタルムは危険度が低い割には、経験値がめっちゃ高いんだ。うま味魔獣だな」

「うまあじ?」

「こほん。今のは忘れてくれ。要は倒すのは簡単なのに、経験値が高い魔獣のことだよ」


 魔獣はS、A、B、C、D、E、Fと7ランクに区分けされる。

 Sは魔王およびその幹部幹部に匹敵するほどの強い魔獣。

 Fはスライムのような雑魚の魔獣だ。

 そのランクごとに、経験値も決められている。


 その中でメタルムは、Sの下のAランク。

 本来であれば、魔王軍でもトップクラスの実力者がこぞって倒さなければならない魔獣の経験値を、お手軽に手にすることができるのだ。


 戦闘回数と経験値のランクによって、レベルアップが決定される。

 さらにジョブの成長値や種族にもよる隠れた補正値もあるらしい。

 育成好きの俺にとっては、目に見えない補正値を考察したいところだが、とにかく今はルナのレベルアップを喜ぶべきだろう。


 結局、ルナはレベル12まで一気にアップした。




 名前   : ルナ

 レベル  : 12/99

    力 : 75

   魔力 : 98

   体力 : 60

  素早さ : 54

  耐久力 : 82


 ジョブ  : 聖女


 スキル  : 大回復LV2 浄化LV1

        明光LV1 結界LV1




 いーーねーー!


 ルナのステータスを見ながら、俺はイヤらしい笑みを浮かべる。

 魔力がもうすぐ三桁だ。

 耐久力も高い。

 あと意外にも、力が強いな。


 俺の経験上、ステータスの値は体力を中心に前後する。

 おそらくだが、聖女のジョブは魔力、耐久力、力の順で成長補正が入っているんだろう。

 それにメタルム1回で、レベル12まで上がったのも、俺の経験上では例がない。

 あくまで推測だけど、人族はレベルアップに要求される経験値が低いんじゃないだろうか。


 レベルが上がったことによって、一気にスキルが付いたが、今は保留だ。

 ルナのスキルは今のところ魔法系だけだから、魔力の値に関係してくる。

 魔力が高いと、スキルレベル1でもかなりの威力が期待できるぞ。


 よしよし。面白くなってきた。


「だ、ダイチ様!!」


 突然、ルナが大声を上げた。

 振り返ると、何かを指差し、肩を振るわせている。

 指先の方を見た時、俺も驚いた。


『ガウ?』


 そこにいたのは、巨大なリスだった。

 狐のような体毛に、背の中心には縞模様。

 くるっと丸まった尻尾は大きく、触り心地がよさそうだ。

 一方、口から飛び出した牙は鋭く、足先から伸びた爪はタカのように孤を描いていた。


「えっと……。どちらさま?」


 突如現れた巨獣に、俺は思わず問い返す。

 が、特徴的な長い耳を見て、ハッとなった。


「お前、もしかしてチッタか?」

『ガウ!』


 尋ねると、勢いよく答えが返ってくる。


 まあ、すごい。

 チッタちゃん、こんなに大きくなって……。


 ――って、ノリツッコミしてる場合じゃないぞ、これ。

 そしてなんで田舎のおばちゃんみたいなノリをチョイスしたんだよ、俺。


「ダイチ様、これは……」

「俺の予測が正しければ……。チッタ、ステータスを出せるか?」

『ガウ!!』


 チッタは俺の指示通りステータスを表示させた。




 名前   : チッタ(成獣)

 レベル  : 15/99

    力 : 77

   魔力 : 0

   体力 : 115

  素早さ : 83

  耐久力 : 45


 ジョブ  : 守護獣


 スキル  : かばうLV1 気配探知LV1

        変身LV1




 強っ!!


 こっちは、体力がすでに三桁いってる!

 守護獣の恩恵だな。

 ランクE……いや、『かばう』のスキルは防御力2倍で受けることができるから、もしかしたらランクDの魔獣ぐらいなら、ダメージが無効できるかもな?


 魔法系スキルの耐性に難があるけど、すでに優秀な肉壁にくかべになりつつあるな。


「ダイチ様……。チッタの姿が――――」

「あ、ああ……。おそらくレベルがカンストして……」

「カンスト?」

「えっと……。限界以上にレベルアップして、子どもから成獣になったんだ」


 というか、初めての事例だ。

 そもそも俺が相手をしていたのは魔族である。

 それ以外の種族や、チッタみたいな魔獣にも該当しない動物に【言霊ネイムド】したのは、実はこれが初めてなのだ。


 成獣になったのも驚いたけど、限界レベル99というのも、さらに驚きだな。

 限界までレベルを上げたら、チッタに攻撃を通すことができるヤツなんて、エヴノスの最大攻撃ぐらいしかないんじゃないか……。


 今後の成長が滅茶苦茶楽しみだ。


「大きくなって良かったね、チッタ」

『ガウ!』

「はっ!!」


 大きくなったチッタを手で撫でたルナは、何かに気付く。


「どうしたんだ、ルナ?」

「ダイチ様、チッタが……」


 何か凄い神妙な顔を浮かべる。

 もしかして病気とか?

 俺は思わず唾を飲み込む。


「チッタが……」

「チッタが?」

「とってもモフモフです!」

「な、なんだってぇぇぇぇぇえええ!!」


 ルナはギュッとチッタに抱きつく。

 そのふっかふかのモッフモフに顔を埋めた。

 見るからに気持ち良さそうだ。


 俺も早速チッタに触る。


「ふおおおおおおお!!」


 やわらけぇ。

 モッフモフだなあ。

 それに肌触りも心地いい。

 まるで高級絨毯がモフモフになったみたいだ。


 やべぇ……。これは一瞬で眠れる。


 もふもふ……。

 ふかふか……。

 もふもふ……。

 ふかふか……。


 俺とルナはチッタのモフモフを堪能する。

 撫でられて気持ちがいいんだろ。

 チッタも満更ではない様子で、目を細めていた。


「けれど、残念です」

「何がだ、ルナ?」

「小さいチッタも可愛かったので」


 うん。それは俺も同意だ。


 すると、ポンッと軽い音がした。

 チッタにもたれかかるように、毛の中に顔を沈めていた俺とルナは倒れそうになる。


「な、なんだ?」


 振り返ると、そこにはチッタがいた。

 成獣の姿ではない。

 可愛い子供の姿だ。


『キィィ!』


 よく知る鳴き声が聞こえる。

 自分の指定席であるルナの肩に乗ると、くるくると回った。

 ルナは嬉しそうに、小さくなったチッタの再会を喜ぶ。


 多分、変身の能力だろうけど、チッタのヤツ空気を読んだのだろうか。

 だとしたら、なかなか恐ろしい子だ。


 ルナと頬を付き合わせながら戯れる小さな動物を見ながら、俺は苦笑いを浮かべるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


どうやらルナはそっちもレベルアップしたようです(ゲス顔)


面白い、けしからん、と思った方は、

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