第7話 まものを たおしてみよう!
2020/10/30に大幅に改訂しました。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
俺はルナとともに、件の森へと向かっていた。
その俺たちを先導するように歩いているのは、ルナが助けたリズリスだ。
時折、俺たちが付いてきているか確認しながら、先導役を担っている。
なかなか勇ましい。
さすが、ルナの守護獣だ。
「ルナの友達はなんて名前なんだ?」
俺はリズリスを指差しながら尋ねる。
「申し訳ありません。この子には名前が……」
頭を垂れる。
俺もこの世界に来て、驚いたのだが、マナストリアでは名前を付けられるということはとても特別なことらしい。
名前を勝手に付けることは禁じられていて、俺が来る前はエヴノスの許可がないと付けられないものだった。
実際、この世界に来た当初、名前を持っているヤツは、エヴノスと周りの幹部だけだ。
あとは「おい」とか「お前」とか「君」とかで呼ばれている。
種族には一般的にランクのようなものがあって、下位になるほどひどい呼ばれ方をしていた。
隠れて名前を付けている者も少なくない中、ルナや村人たちはその教えを忠実に守っていたみたいだ。
「じゃあ、この子にも名前を与えよう。ルナが決めてくれ?」
「え? わたしが? ダイチ様が付けてくださいませんか?」
「このリズリスはルナの友達なんだろ? だったらルナが決めた方がいい。君はこの子をなんて呼びたい?」
「~~~~~~~~……」
ルナは考え込む。
すると、ピンと来たのか頭を上げた。
「チッタ……」
「チッタか。いい名前だ。じゃあ――――」
俺はチッタと名付けられたリズリスの頭に手を置いた。
ルナの肩の上に乗ったチッタはくすぐったそうに目を細める。
【
「お前の名前は、チッタだ」
チッタの前に、光る文字と数値の羅列が現れる。
ステータスだ。
「チッタにも文字が……」
「【
名前 : チッタ
レベル : 1/10
力 : 10
魔力 : 0
体力 : 12
素早さ : 23
耐久力 : 8
ジョブ : 守護獣
スキル : かばうLV1
「限界レベルが低いですね……」
「お! ルナはよく見てるな。さすがは限界レベル99」
「か、からかわないで下さい」
「動物は限界値が低いんだよ。特に子どもの時はな。でも、チッタすごいぞ。ジョブ持ちだ」
「守護獣……?」
「名前の通り、防御に特化したジョブだな。スキルも持ってるし。まさにチッタは
「お、お姫様なんて」
ルナは顔を赤らめ、イヤイヤと首を振る。
満更でもないらしい。
「よろしくな、チッタ。お互いお姫様を守る騎士同士、頑張ろうぜ」
「だ、ダイチ様!!」
『キィィイイ!!』
チッタは威勢のいい声を張り上げるのだった。
森へとやってくる。
確かに不気味だ。
鬱蒼と茂る木々のせいで視界が悪い。
足の踏み場もないぐらい草木が生い茂り、さらに黒い霧のようなものが漂っていた。
臭いもひどい。
腐臭というか、どちかといえば死臭に近い。
これはちょっと対策なしに突っ込むのはまずいな。
RTAならレベル1のまま突撃するけど、リアルという文字は一緒だけど、意味合いが違う。
早速俺の出番だな。
「一応、聞くけど、ルナは魔獣と戦った経験は?」
「ありません……」
ルナは首を振る。
チッタにもそれとなく視線を送ったが、賢いリズリスはひらりと尻尾を振って、否定した。
【
ゲームとは違ってやり直しが利かないから、安全策は絶対に必要だ。
俺は踵を返す。
「ダイチ様、そっちは森ではありませんよ」
「ちょっと寄り道することにしたよ」
俺がルナとチッタとともにやって来たのは、森の近くにあった海岸だった。
「今から、ルナとチッタにはレベルアップしてもらう」
「レベルアップ?」
「レベルが上がれば、『力』『魔力』『体力』『素早さ』『耐久力』が上がる」
ちなみに各能力の説明はこうだ。
力 : 近接における攻撃力
魔力 : 魔法における攻撃力と魔力量
体力 : 肉体の耐久力と持久力
素早さ : 足の速さと反応力
耐性力 : 属性・状態魔法による耐える力
ただしスキルレベルは別で、これは回数であったり、相手へのダメージ量だったり、回復量だったりするようだ。
レベルと同じく、数値が上がれば上がるほど、レベルアップは難しくなる点は、ゲームとほぼ変わらない。
「説明はわかりました。ただレベルアップするには、どうしたらいいんですか?」
「簡単だ。魔獣を倒す。つまりは経験値を得るってことだな」
「経験値というのがわかりませんが……。ダイチ様、わたしたちは魔獣が倒せないから困っているのですよ」
ルナはちょっと泣きそうな顔で訴える。
俺は安心させるように、その頭を撫でた。
「大丈夫。ルナでも倒せる魔獣を俺が紹介してあげるから」
「魔獣を紹介?」
狭い浜辺に足を踏み入れると、その辺にあった小石を握った。
【
ドンと俺たちの前に現れたのは、青い石だった。
これはスライムストーンといって、アナストリアの地中にどこにでもある鉱石の1つだ。
名前の通り、スライムが化石になったもので、当然スライムは
【
このスライムストーンのスライムは死んでいるから、【
「これをどうするんですか?」
ルナは恐る恐る尋ねた。
俺は手で海水を掬う。
少量の海水をスライムストーンにかけた。
水がたちまち吸い込まれると、ブロックがカタカタと動き始める。
ルナは小さく悲鳴を上げて、俺の後ろに隠れ、チッタは「キィィイイ!」と毛を逆立て威嚇した。
やがてブロックの中から、スライムが蜜のように溶け出し、うねうねと動き始める。
「スライムが生き返った!?」
ルナは驚き、声を上げる。
俺も詳しいことはわからないが、化石になったスライムはこうして水をかけてやると生き返るのことが可能なのだ。
割と魔族の間では常識とされていて、あいつらはスライムを燃料にしていたり、種族によって食糧にしていた。
勿論、魔獣なので一定量を倒せば、レベルもアップする。
ゲームと同じで雑魚魔獣の筆頭格だから、経験値は少ないみたいだけどな。
「じゃあ、早速戦ってみようか。大丈夫。こいつぐらいの攻撃なら、ルナの回復魔法ですぐに治せるから」
俺は崖を降りる前に、用意しておいた木の棒をルナに渡す。
ルナは怖々といった様子でスライムに向き直った。
一方、チッタはやる気満々だ。
牙と爪を出して、早速スライムに襲いかかった。
『キィィイイ!』
鋭く嘶き、爪を振るう。
スライムの核の部分にダメージを与えた。
いい一撃だが、スライムはまだ生きている。
飛び込んできたチッタに溶解液を飛ばした。
その液はチッタの体毛を溶かしたが、勇敢なリズリスは構わず二撃目を放った。
ついにスライムは力尽きる。
べたっと地面に広がった。
「よし! チッタの勝利だ」
「チッタ、すごいすごい!!」
『キィィイイ!』
どんなもんだとばかりに、チッタは鳴く。
さすがはルナの騎士だな。
「結局、ルナの出番はなかったな」
「すみません、ダイチ様。魔獣だと思うと足が竦んで」
「いきなり戦えって言われて、戦えるものじゃないさ」
俺も初陣の時はそうだった。
足が竦んで、エヴノスが神々と戦っているのを見ていることしかできなかったものだ。
「それにルナ、君の役目は戦いじゃない。まずはチッタの傷を回復してやってくれ」
溶解液で溶けた毛の部分を舐めていたチッタを指差す。
それを見たルナは「はい!」と歯切れ良く返事した。
手をかざし、『大回復』を唱える。
チッタの傷が一瞬にして治ってしまった。
『キィイイイ!』
ありがとう、という感じでチッタはルナの前でクルクルと回る。
まるで実家で飼ってた犬みたいだな。
俺は思わず笑ってしまった。
すると、突如ルナはハッと顔を上げる。
周辺を見渡した。
なんだ? 今の反応は……。
あ、そうか。もしかして――――。
「ルナ、何か鐘の音のような音を聞いたのか?」
「は、はい。ダイチ様、何か知っているんですか?」
「それは多分、レベルアップした時に鳴る音だ。ステータスを開いて」
ルナはステータスを展開する。
名前 : ルナ
レベル : 1/99
力 : 6
魔力 : 18
体力 : 5
素早さ : 7
耐久力 : 15
ジョブ : 聖女
スキル : 大回復LV2
「『大回復』がレベル2になっています」
「ああ……。みたいだな」
「わたし、まだ魔獣を倒してないのに」
「普通のレベルとスキルレベルは、レベルアップの方法が違うんだよ」
それにしても、早いレベルアップだな。
俺が知る限り、120回以上の使用回数が必要なはずだ。
さっきチッタを回復した時の回復量が多いといっても、2回使っただけで2段階目のスキルのレベルが、こんなに早くアップするなんて。
はっきり言って、異常だった。
おそらくジョブ『聖女』の特徴には、成長補正も含まれているんだろう。
だとしたら、かなりのチートジョブだぞ。
普通、レアジョブって成長が遅いものなんだけどな。
俺は口角を上げる。
早く成長したルナを見たい。
なら、
ちょっとズルだけど、ルナを一気に成長させるにはこの方法しかないだろう。
もうこの時すでに、俺の育成心は自分でも止められなくなっていた。
俺は手をかざす。
【
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
レベルアップといえば、やっぱこのモンスターだよね。
面白い、と思っていただけたら、
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