第6話 かいふくさせますか?
2020/10/30に大幅に改訂します。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
「あの大魔王様……。1つお伺いしたいのですが……」
説明を聞き終え、ルナは弾かれるように顔を上げた。
その目はいつになく真剣だ。
「質問は大歓迎だ」
「私のスキルがそんなに凄いものなら、動物を癒やすこともできますか?」
「動物……」
「その――――」
すると、いきなりルナは村の外へと走って行った。
俺が首を傾げると、すぐに戻ってくる。
その胸には1匹の小動物が抱えられていた。
確かマナストリアでリズリスって呼ばれている動物だ。
耳と尻尾が長く、狐の毛に似た黄金色の羽毛を持っている。
ナウ●カのキツ●リスを思い浮かべてくれると、早い。
見た目は可愛いけど、結構凶暴だ。
正確には魔導生物と言って、普通の動物よりも寿命が長い。
成長すると、人間とほぼ同じぐらい大きくなるらしい。
毛がモフモフしていて、触り心地が良さそうだ。
けれど、ルナが連れてきたリズリスはかなりの怪我を負っていた。
息も浅く、見た目死にかかっている。
「屋敷からここまでの道中で、この子がブラムゴン様の怒りに触れて」
「突き飛ばされた、か――。ルナの友達?」
「はい……。私がブラムゴン様の屋敷にいた時から、私を慰めてくれて。ここに来る時、ブラムゴン様にいじめられていた私を助けようとしてくれたんです」
「そうか。ルナの騎士様だな」
ルナは泣きそうになりながら頷く。
触ってみると、リズリスの体温はかなり冷たかった。
これは早くしないとまずいかもしれない。
「助かるでしょうか?」
「大丈夫。ルナが落ち着いてやれば、助かるよ。さあ――――」
俺はリズリスをルナから預かる。
ルナは俺のアドバイスに従って、1度深呼吸した後、手をかざした。
正直に言うと、可能性は五分五分だ。
『大回復』は『回復』より上位のスキルだが、万能というわけではない。
今、ルナの友達は死にかかっている。
普通なら『大回復』で回復しきれないだろう。
しかも、スキルはレベル1だ。
けれど、ルナのジョブは『聖女』である。
通常の『大回復』の回復量に加えて、何らかの補正がかかると、俺は考えていた。
今は、その可能性にかけるしかない。
「唱えよう、ルナ」
「はい――――」
【大回復】!!
暗黒大陸に光が満ちる。
昼間でも暗い暗黒大陸が、再び白く染まった。
優しい……。
まるで穏やかな春風を浴びたような心地よい気持ちにさせてくれる。
すげぇ……。
これで『大回復LV1』かよ。
やがて光は収縮する。
初めて魔力を放出したからだろう。
ルナの顎が上がっていた。
手を離し、友達の容態を確認する。
すると、アーモンド型の瞳が開いた。
パチパチと瞬き、長い耳の裏をカリカリと掻く。
成功だ。
元気になった友達を見て、ルナは抱きしめる。
何が何だかわからないルナの友達は、ペロペロと舌を出して、涙に濡れたままのルナの頬を舐めていた。
すごい!
たぶんステータスでは見えない、なんらかの補正値が働いたんだろう。
でも、さすがに驚いた。
瀕死の動物を『大回復』で、しかもスキルレベル1で回復させてしまうなんて。
すでにルナの『大回復』はジョブ無しが使う『超回復』の効果を持っているな。
これで4段階目まで育てたら、一体どうなるんだろうか。
楽しみだな!!
未知の
どんな風に成長するんだろう。
今からワクワクするぞ。
「ありがとうございます、大魔王様! 大魔王様のおかげです」
「俺は何もしてないよ。ルナが友達を救ったんだ」
俺はルナの頭を撫でる。
ルナは嬉しそうに目を細め、リズリスを強く抱きしめた。
「あ、そうだ、ルナ。俺から2つ忠告だ」
「何でしょうか?」
「大魔王様はやめてくれ。他にも裏ボスっていわれてるけど、俺にはダイチって名前がある。そっちで頼む」
「わ、わかりました。ダイチ様がそういうなら……」
様がいらないんだけどなあ。
ま、いいか……。
「もう1つは、女の子が、『なんでもしますから』とか簡単に言っちゃダメだ」
「え? どうして?」
「え?」
ルナが目を瞬かせると、俺もまた目を瞬いた。
「ダイチ様のためなら、ルナは本当に何でもしますよ」
やがてルナは満面の笑みをこう答える。
先ほどまで絶望と悲しみに暮れていた少女とは思えないほど、可憐な笑顔を見て、俺の心臓はドキリと脈打った。
弱ったな……。
この子、本気で言ってるぞ。
俺は火照った顔をルナから背けずにはいられなかった。
奇跡を見たのは、ルナだけではない。
村人たちも一緒だった。
すっかり傷の癒えたリズリスを見て、固まっている。
俺はその村人たちの方を見て、言った。
「みんなにも、ルナみたいなスキルを持っている可能性がある。だから、みんなで一緒にブラムゴンと戦わないか?」
みんなに促す。
レアジョブや強力なスキルを持つのは、きっとルナだけじゃないはずだ。
それにレベルが上がっていけば、基礎能力だけでも、ブラムゴンと対等に渡り合うことができるかもしれない。
そして、俺には魔族を育成してきたノウハウがある。
未知のポテンシャルを持つ人材と、育成の専門家。
これほどワクワクする組み合わせはないはずだ。
でも、誰も手を上げようとは思わなかった。
下を向いたまま、青い顔をしている。
100年近く魔族に虐げられてきたのだ。
言い方は悪いかもしれないけど、負け癖がついているのかもしれない。
まずは、みんなのメンタルを取り戻すことの方が先かも知れないな。
「申し訳ない、大魔王様」
「俺らは怖いんだ」
「また……。ブラムゴンがやってくるかと思うとね……」
「いきなり強くなれるとか言われてもなあ」
ネガティブな発言が目立つ。
うーん。これはなかなか骨が折れそうだぞ。
「私はダイチ様を信じます」
声を張り上げたのは、ルナだった。
「ダイチ様は、奴隷になるしかなかった私を助けてくれた。私でも誰かのために役立てれると、教えてくれた」
ルナは肩に乗った小さなリズリスを撫でる。
「みんなも、ダイチ様のことを信じて下さい」
しん、と静まり返る。
ルナの訴えは虚しく響くのみだった。
誰も手を上げることはない。
だが、1歩俺の方に進み出てきた。
村長だ。
「ならば、1つ条件を出そう」
「なんでしょうか?」
「この村の西に迷いの森という森がある」
なかなかベタベタなネーミングだな。
人のことは言えないけど。
「元は緑豊かでな。木の実や、獲物の狩り場としても良い場所だったのだが、妙な瘴気を吐き出すようになってから、魔獣が棲みつくようになってしもた。その原因を突き止め、元の森に戻してくれないだろうか」
なんかRPGっぽいイベントが来たな。
この世界はゲームでも、VRMMOでもなんでもないんだけど。
「むろん、お主らだけじゃがな」
「俺はいいけど……。ルナはどうする?」
「はい。是非お供させてください!」
『キィ!!』
どうやらルナだけじゃなく、リズリスの方もついてくるみたいだ。
どっちもやる気満々だな。
「じゃあ、その条件受けます!」
「わかった。あまり無理はしないでくれよ。わしらはお主らを危険な目に遭わせたいというわけではないからのぅ」
「わかってます。じゃあ、早速――――」
俺はルナとともに、村を飛び出していくのだった。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
俺たちの冒険はここからだ!
引き続き更新頑張ります。
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