第9話 ういじんを かざろう

2020/10/30に改訂しました。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 俺とルナ、チッタはお手軽にレベルアップした後、再び森に戻ってきた。


 俺は成獣となったチッタの背から降りる。

 改めて目の前に広がる森を眺めた。


 よく考えれば、意外だな。

 暗黒大陸の森だから、枯れ木ばかりが広がっていると思ってたけど、青々とまでは行かないまでも木葉が生い茂り、太い幹を持つ樹木がいくつも並んでいた。


 だが、外から見ても中の雰囲気は最悪だ。

 ただでさえ暗黒大陸には、陽が差さない。

 空が常時曇っているからだ。

 おかげで網の目よりもさらに無数に伸ばされた梢のおかげで、森の中は真っ暗だった。


 そこにさらに黒い瘴気のようなものが漂い、森は濁っていたヽヽヽヽヽ


「行こうか……」


 俺は1歩踏み出す。

 その俺の手を取ったのは、ルナだった。

 不安そうな目で、俺に訴える。


「大丈夫でしょうか、ダイチ様?」


 森の中には魔獣がいる。

 だが、この森を通らなければ、村長たちは信じてくれない。

 数日中には、ブラムゴンが仕返しにやってくるだろう。

 たぶん、仲間を引き連れてだ。


 複数の魔蛙族を相手するには、ルナとチッタだけでは対抗できない。

 もっと仲間が必要だ。

 そのためには、村の人たちの信頼を勝ち取る必要がある。


「大丈夫だよ。今のルナは強い」

「そうでしょうか? 特に筋肉が付いたって感じがしないんですが……」


 ルナは自分の二の腕を摘まむ。

 本来、人族が魔獣の相手をするならば、オリンピック選手以上の筋力が必要となるだろう。

 けれど、ルナは身体に変化はない。

 二の腕もプニプニだった。

 ブラムゴンが俺に差し出すために用意したのが、ルナだ。

 そのため食事は割と満足に取っていたらしく、ルナの健康状態は悪くない。


 胸の育ちが良かったのも、そのためかと、俺は妙に納得してしまった。


「筋肉はついてないけど、ステータスの数値が裏切ったことはないよ。落ち着いて戦えば、今の君なら大抵の魔獣は倒せるはずだ。チッタもいるしね」

『ガウ!』


 成獣モードになったチッタは「任せろ」とばかりに吠える。


 俺は空を望んだ。

 相変わらず分厚い雲に覆われているが、陽の光が徐々に翳り始めている。

 おそらく夜が近いのだろう。

 夜は魔族と魔獣の時間だ。

 魔獣が活発に動き回る前に、森を攻略しなければならない。


「俺も手伝うから頑張ろう」


 震えているルナの手を握る。

 自然と震えが止まると、いよいよルナも覚悟を決めた。

 いい顔だ。


 暗い森に入ると、視界が黒く塗りつぶされた。

 洞窟にいるように暗い。


「ルナ、君の出番だ」

「はい」


 ルナは歯切れの良く返事をすると、覚えたばかりの『明光』を使う。

 一気に周囲は明るくなった。


「すごいぞ、ルナ。レベル1なのに、こんなに明るい『明光』は初めてだ」

「そ、そうですか」


 ルナは顔を赤くして照れる。

 ちょっとはリラックスできたかもな。


 チッタに先頭に立ってもらい、森を進む。

 しばらく進むと、チッタは急に止まった。

 突然、前方を向いて唸り始める。

 見る限り、魔獣の姿はないが……。


「チッタ、どうしたんでしょうか?」

「魔獣がいるのさ」


 チッタにはわかったのだろう。

 気配探知のスキルだ。

 レベル1でもかなり感度がいいらしい。


 カッ……!


 地を蹴り、チッタは走り出す。

 いきなり茂みに向かって、牙を剥いた。

 ぼぎぃぃぃい! と骨が折れたような音がする。

 瞬間、茂みの一部が霧散した。


 森に潜んでいた魔獣が消滅したのだ。


「フォレストマンか……」


 俺が呟くと、周囲の茂みが立ち上がる。

 枯れ木のように細い身体に、木葉の鎧を纏った魔獣たちが、ゆっくりと俺の方に近づいてきた。

 がさがさと梢が鳴るような音が、あちこちから聞こえる。

 すでに囲まれていた。


 今のチッタとルナなら倒せない数じゃないけど、今回が初陣だしな。


 俺はそっとルナの様子を見る。

 木の棒を握ったまま竦み上がっていた。

 そのルナの手に、そっと自分の手を重ねる。


「大丈夫。ルナは俺が守るから」

「ダイチ様……」

「チッタもいるしな」


 俺は小石をフォレストマンの上に放り投げる。


「【言霊ネイムド】――――大岩!」


 ブラムゴンの時に見せた戦法だ。

 次々とフォレストマンが大岩に潰されていく。

 ルナはその戦果を見て、ピョンピョンと跳ねた。


「ダイチ様、すご――――あ! 危ない、ダイチ様!!」


 ルナの声が響いた。

 振り返ると、近く茂みに擬態していたフォレストマンが起き上がる。

 俺に向かって、木の槍を振り上げていた。


「ダイチ様!!」


 ゴキッという音が森に鳴り響く。

 木の棒が折れたんじゃない。

 俺の背後にいたフォレストマンの身体が2つに折れた音だ。


 その折れた部分には、ルナの木の棒が刺さっていた。


「え?」


 ルナはちょっと潤んだ瞳を大きく見開いた。

 その彼女の前で魔獣フォレストマンが消滅する。


「わたしがやったんですか?」

「ああ。ルナがやったんだよ。一撃でフォレストマンをね」


 チッタは一撃でフォレストマンを仕留めてみせた。

 ルナ本人が気付いているかどうかわからないけど、実はチッタとルナの『攻撃力ちから』は数値上変わらない。

 ルナでもフォレストマンを一撃で倒せると思っていた。


 そもそもフォレストマンは経験値のランクEの魔獣だ。

 スライムよりも少し強い程度。

 今のルナやチッタの敵ではない。


「ありがとう、ルナ!」


 俺はルナの頭を撫でる。

 みるみるルナの顔が赤くなり、もじもじと身体を動かした。


「お、お役に立てて良かったです」

『ガウッ!』


 チッタが吠える。

 そうだった。

 まだ戦闘は終わっていない。


「あともうちょっとだ。頑張ろう、ルナ」

「はい。お任せ下さい!」


 お! ルナの目の色が変わったぞ。

 さっきの経験が、良い自信になったのだろう。


 チッタと共に、フォレストマンの群れにツッコんでいった。


「やああああああああ!!」


 ゴキッ!

 バキッ!!

 ゴゴゴ……!!

 ガシッ!

 ブギャ!!

 ギィン!

 ガギッ!!


「お、おう……」


 俺は思わず呆然とする。


 ルナとチッタの無双状態だ。

 これだけの数で、レベル12、15だと普通は苦戦する。

 だが、2人ともジョブ持ちだ。

 ステータスの値に強力な補正がかかっているため、敵になっていなかった。


 フォレストマンも木の槍を掲げて反撃してくるが、全然ダメージが通らない。

 ほぼ無双状態だ。


「えぇぇぇぇえええええいいいいいい!!」


 ルナの大きな声が聞こえる。

 最後のフォレストマンをなぎ払った。

 その細い身体がくの字に歪むと、そのまま吹き飛ばされる。

 木の幹に激突したフォレストマンは、バラバラに砕け散り、霧散した。


 ひぇぇぇええ……。


 予想以上に強いな。

 レベル20台ぐらい力はもうあるかも。

 これならフォレストマンの上のランクであるDランクでも軽々倒してしまうだろう。


 ルナの今の力は、初期値のほぼ10倍だ。

 魔族の中では違和感を覚えなかったけど、突然人間が10倍の力を振るうことができたら、それだけで凶器である。

 これは『脳筋』少女爆誕か?


 ……あんまりルナを怒らせないようにしよう。


「ふう……」


 ルナは汗を拭う。


「ダイチ様、やりました!」


 森に入るまでの緊張はもはやない。

 ルナは笑顔を浮かべ、俺の方に手を振った。

 横でチッタが勝ち鬨のように遠吠えを上げている。


 なかなかシュールな光景だ。


 ルナの前には身体が折れたフォレストマンの死体が累々と積み上がっていた。

 半分ルナがやったかと思うと、うすら寒い。

 その瞬間、魔獣はすべて消滅した。


「ダイチ様、強くなるって面白いですね」


 まさかルナからそんな言葉を聞くとは思わなかった。


「ルナはまだ強くなりたい?」

「はい。なりたいです!」


 にこやかに宣言する。

 その余裕のようなものが、俺には逆に恐ろしかった。


「強くなれるよ、ルナなら」


 俺は予言する。


「はい! ダイチ様のために頑張ります!!」


 だが、この時まだ俺は知らなかったのだ。

 マナストリアに撲殺天使ルナちゃんを生み出していることを……。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~♪


面白い、撲殺天使を希望、と思った方は、

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