第10話 もりのぼすが あらわれた

2020/10/30に改訂しました。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 フォレストマンを倒した俺たちは、引き続き森の中を進む。

 かなり深い森らしい。

 視界も暗く、似た景色ばかり続くので方向感覚を見失いそうだ。

 それでも先導するチッタは自信満々に進んでいる。

 どうやら向かう方向にあると思われる集落の臭いを嗅ぎ取っているんだろう。

 なかなか頼もしい案内役だ。


 そのチッタの動きが止まる。

 また魔獣かと思い、俺とルナは警戒した。

 直後聞こえてきたのは、梢の音に混じった声だった。


『ふふふふふふ…………』


 人? とにかく魔獣ではないことだけはわかる。

 魔獣の中には、人の声を真似るものもいるけど、俺が知る限りは違う。

 どこか妖艶でいて、寒気がするぐらい恐ろしい。


 ルナもチッタも感じたらしい。

 チッタは唸りを上げ、ルナは俺の前に出て、棒を強く握った。


『アハハハハハハハハ……!』


 狂笑が暗い森に響く。

 ヒュッと風を切り裂く音がした。


『ガウッ!!』


 いち早く反応したのはチッタだ。

 俺とルナを守るように翻り、何かから身を守った。

 よく見ると、太い木の枝だ!


『フフフフフフフフ!!』


 また笑い声が聞こえる。


 俺はその声の方に向かって指差した。


「ルナ、目の前を照らして!!」

「はい!!」


 ルナは魔力を込めて、『明光』で前方を照らす。

 浮かび上がったのは、樹木だ。

 まるで森に出来た巨大な壁のようにそびえ、周囲に枝を張っている。

 よく見ると、すでに俺たちはその樹木の枝に取り囲まれていた。


 樹木の幹が動く。

 瞼のようなものが開き、さらに幹が裂けると口のような穴がぽっかりと広がった。

 そこから聞こえてきたのは、先ほどの笑い声だ。

 それとともに、木のうろから黒い瘴気を吐いている。

 なるほど。

 こいつが、この森をこんな風にした張本人か。


『キャハハハハハハハハ!!』


 耳をつんざくような声に、俺とルナ、さらにチッタも耳を塞ぐ。


「エビルアドか……」


 魔獣というよりは、魔樹だ。

 木がモンスター化したといえばわかりやすいか。

 問題はあいつの経験値ランクが、「C」ってことだろう。


 今のチッタやルナにはちょっとキツいかもしれない。


 だが、このエビルアドが森のボスキャラと見ていいだろ。

 魔獣が棲息する場所には、必ず1体以上ぬしが存在している。

 主と他の魔獣は共生関係にある。

 主は森の中に入ってきた外敵を養分に変えて、魔獣に分け与え、魔獣はその主を守護するのだ。


 当然、その主は強い。

 その場所の中でもっとも強い魔獣が選ばれるからだ。


「ダイチ様、お下がり下さい」

『ガウッ!』


 俺が若干尻込みしていると、ルナとチッタが俺の前に出る。


 ルナは一気に頼もしくなったな。

 チッタも相変わらず勇敢だ。


「ルナ、チッタ……。落ち着いて戦えば、勝てない相手じゃないぞ」

「はい!! ダイチ様はここにいて下さい」


 ルナは『結界』を俺の周りに張ってくれる。

 レベル1だがないよりは遥かにマシだ。

 それよりも、ルナが少しずつ戦い慣れをして、スキルを積極的に使用していることの方が嬉しかった。


「ありがとう、ルナ」

「これぐらい当然です! 行くよ、チッタ!!」

『ガウッ!!』


 チッタとルナは飛び出していく。

 エビルアドも黙っていない。

 迫ってきたチッタとルナを太い枝でなぎ払う。


『ガウッ!!』


 エビルアドの攻撃を受けたのは、チッタだ。

 ガキィンと音を立てて、太い枝を跳ね返す。


 チッタ、すげぇ!!

 エビルアドの攻撃を受けるどころか跳ね返すなんて。

 守護獣のジョブに、元から固い防御力のおかげで、ダメージがほとんど通らない。

 毛はモフモフなのに、鉄みたいに頑丈だ。


『…………!』


 エビルアドも驚いたのだろう。

 一瞬動きが止まる。

 その好機を見計らい、ルナがチッタの後ろから飛び出した。


「たぁぁぁあああ!!」


 懐に飛び込むと、ルナは思いっきり木の棒を振るう。


 バギッ!!


 今度は、木の棒の方が折れる。

 ルナは息を呑んだ。

 そんな彼女に、エビルアドの枝が迫る。


 ガキッ!!


 チッタが前に出て、ルナを守る。

 またエビルアドの攻撃を弾いた。

 そのままチッタはルナを背に乗せると、一旦退く。

 その後も攻撃を加えたが、エビルアド相手にどうしても決定打が加えられない。


 2人の攻撃力が弱いわけではない。

 エビルアドの防御力が異常なのだ。

 でも、おかしい。

 エビルアドはここまで防御力に特化した魔獣ではないはずだけど……。


 そもそもエビルアドって、声を出すことができただろうか。


「もしかしたら……」


 俺はハッと顔を上げた。


「チッタ、ルナ、一旦退いて」


 指示を出す。

 2人はルナが張った『結界』の中に戻ってきた。

 エビルアドは攻撃を緩めない。

 枝を伸ばし『結界』を壊そうとするが、弾かれる。

 スキルレベル1だが、エビルアドの攻撃に耐えていた。


 さすがルナだな。

 レベルが低くても、元々の魔力が高さがそれをカバーしている。

 とはいえ、長くはもたないな。


 すでに『結界』にはヒビが入っていた。


「手短に指示を出すよ――――」


 俺はチッタとルナにそれぞれ指示を出す。

 両者とも大きく頷き、配置についた。

 同時に、『結界』が破壊される。


 エビルアドは太い枝を払った。


 ガキィイン!


 その枝を弾いたのは、チッタだ。

 襲い来る枝を次々と身体を使って払っていく。

 まさにチッタ流の結界だ。


『きぃいぃいぃいいいぃいいぃ!!』


 初めてエビルアドが苛立たしげな声を上げる。

 さらに苛烈に攻撃したが、事如くチッタになぎ払らわれる。

 素早さの値も高いチッタだからこそできる芸当だ。


 そのチッタに守られながら、ルナは魔力を溜め、集中していた。

 手の平に光る魔力をエビルアドに向ける。

 照準を決めると、ルナは唱えた。


 【浄化】!!


 光の柱がエビルアドを中心に立ち上る。


『おおおおおおおおおんんんんんんんん!!』


 奇声を上げて、エビルアドは悶え苦しんでいた。


「やった! 効いてるぞ!!」


 あれはエビルアドじゃない。

 おそらく悪霊が森の樹木に寄生したのだろう。


 【浄化】は悪霊や不死族に効果覿面のスキルだが、ルナの【浄化】は特別だ。

 本来、こんな大きな樹木を自在に動かす悪霊を、レベル1で【浄化】するのは難しい。

 だが、高い魔力と聖女の追加補正値によって、その能力を何倍も高めていた。


 これで近接戦まで強くなったら、ルナは無敵だな。

 将来を考えたら、末恐ろしい。


「は、はははははは……」


 俺は苦笑いを浮かべた。


 やがて【浄化】の光が消える。

 先ほど幹に浮かんでいた人の顔のようなものが消失していた。

 浄化完了といったところだろう。

 心なしか、薄暗かった森に光が差したような気がした。


「よくやったな、ルナ、チッタ」

「いえ。ダイチ様の作戦のおかげです」

『ガウッ!』


 俺もだろ、とばかりにチッタはルナの頬をペロペロとなめる。

 くすぐったそうにして、ルナは笑っていた。

 ボスを倒した安堵もあるのだろう。

 守護獣と聖女の戯れは、アニメの名シーンのようにエモい光景だった。


「あっ! ダイチ様、レベルが上がりました」

「お! 早速、見せてくれ」




  名前   : ルナ

 レベル  : 13/99

    力 : 83

   魔力 : 110

   体力 : 66

  素早さ : 62

  耐久力 : 84


 ジョブ  : 聖女


 スキル  : 大回復LV2 浄化LV3

        明光LV2 結界LV2




 おお! 派手に上がったな。

 スキルレベルが軒並み上がってるし、【浄化】なんて2レベルアップしてる。

 地味に総合レベルも上がってるし。

 あのエビルアド、結構強かったんだろう。

 もしかしたら、Bランクぐらいあるかもしれない。


「よくやったぞ、ルナ」


 俺はルナの頭をなで回す。


 くすぐったそうにルナは笑い、顔を輝かせるのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


地味に『力』も上がってて、チッタの最新ステータスよりも多い件


面白い、ルナ脳筋聖女まっしぐら、と思った方は、

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