第58話 けもみみむすめは しあわせな きすをした

 心配はしていなかったけど、さすがはミャアだな。

 ゴーレム騎士の団長に圧勝とは。

 相手は油断してくれていたのはあったけど、それでもミャアの勝利は揺るがなかっただろう。


「ダ~~~~イ~~~~チ~~~~!」


 勝利の余韻が残る中、ミャアが俺の座る客席までやってくる。

 すごい良い笑顔で、目をキラキラさせて何かを待っている。

 何をお願いしているのかわかってる。

 ミャアの試合が始まる前に交わした約束のことだろう。


「やっぱやらなきゃダメかな」

「当然です、ダイチ様。1度交わした契約は、実行すべきです」


 ローデシアが主張する。

 思いがけない不意打ちに、俺は苦笑いしか浮かべられない。

 だが、俺も男だ。

 おいそれと約束を破るわけにはいかない。


「わかったよ、ミャア」

「やったみゃああああああ!!」


 ミャアは両手を上げて喜ぶ。

 すると、すぐさま体勢を取った。

 目を瞑り、薄い桃色の唇を差し出す。


 やばっ!


 すんげぇ緊張してきた。

 心臓の鼓動が凄いし。

 てか、これはミャアの匂いかな。

 戦った後なのに、なんか甘い……。


 俺は真っ赤になりながら、唇を差し出すミャアを見つめる。

 気が付けば、周囲の視線を浴びていた。

 むろん、そこにはルナやステノの視線も加わっている。

 若干恨みがましそうに見つめる2人の姿があった。


 あう……。あう……。


 頭がパンクしそうになりながらも、俺は意を決した。


「ミャア! ごめん!!」


 俺はミャアにキスする。

 命中させたのは、唇じゃない。

 おでこだ。


 観衆たちが「おいおい」という感じで、盛り下がる。

 いや、仕方ないじゃん。

 こんなところで、本気のキスなんてできないだろう。


「ごめん。ミャア」

「謝ることじゃないみゃあ。おでこでもうれしいみゃ」

「え?」

「そ、それに……。ミャアも唇と唇は、もっと特別な時と場所でしてほしいみゃよ」

「みゃ、ミャア……」


 うう……。

 泣きそうなぐらい嬉しい。

 ミャア、なんて良い子なんだ。


 だが、この話はこれだけに終わらなかった。


「じ~~~~~~~~~~~~……」

「じ~~~~~~~~~~~~……」

「じ~~~~~~~~~~~~……」


 3つの視線を感じる。

 いやいや……。

 ルナとステノはなんとなくわかるよ。

 けど、なんでローデシアが羨ましそうに見てるんだよ。


「いや~、私もいいなあって。今度、ダイチ様側で試合に出てみようかなあ」

「ろ、ローデシア! 貴様、何を言っておるのだ!」


 怒髪天を衝いたのは、エヴノスだった。

 まあ、当たり前の反応だよな。


「だって! だって! 私も大魔王様にチューしてほしいです!!」


 思わず言った言葉は、闘技場全体に広がる。

 ローデシア自身も、その声の大きさに驚くと、ピューッと風のようにどこかへ去って行った。


 こ、こういう時、俺はどんな顔をすればいいんだろうか。

 まさか異世界に来て、モテ期が来るなんて。


「「ダ・イ・チ・様!!」」


 殺気と怒気、さらに欲望を含んだ声が、背中越しに聞こえる。

 振り返ると、ルナとステノが立っていた。

 純真な怒りが燃え上がりすぎて、今にもパワーアップしそうだ。


「わかったよ。2人にも、何かの功績を上げたら、キスをするよ」


 ただし、唇以外ね。


 それでもルナもステノも喜んでいた。

 次の試合に出たルナは、ふんふんと腕を回している。

 気合い十分といった感じだ。


 ……死人がでないことを祈ろう。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


ちょっと短いですが、今日はここまで。


※ 急に短納期のお仕事が入りまして、

  明日、明後日の更新はお休みさせていただきます。

  (他の連載作の更新はあります)

  そういう理由もあって、コメントの返信が滞っておりますが、

  毎日楽しみに読ませてもらっていますので、

  引き続きよろしくお願いします。

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