第57話 ごーれむきしだん だんちょう が あらわれた

 ミャアはナックルガードを掲げる。

 たった今、俺に装着させてもらった新たな武器だ。

 手首から指の第二関節まで保護されたグローブを見て、ミャアは目を輝かせる。

 試しに、その場でシャドーを始めた。


 シュッ!


 空気を切り裂く。

 その動きを、客席から見ていたローデシアは身を乗り出した。

 ミャアの拳の鋭さに驚いたのか、目を広げて固まっている。


「ローデシア、どうした?」

「いえ。ダイチ様、あの……。ミャアさんのジョブって……」

「ああ。あいつは『ナックルマスター』だ」

「やはりジョブ持ちでしたか。レベルは――――」

「えっと……」




  名前  : ミャア

 レベル  : 25/90

    力 : 207

   魔力 : 83

   体力 : 169

  素早さ : 201

  耐久力 : 125


 ジョブ  : ナックルマスター


 スキル  : 三段突きLV3 亀甲羅割りLV2

        精神統一LV1  チャクラLV3

        頑強LV2




「“力”が200越え!!」


 珍しくローデシアが声を張りあげた。


 そりゃ驚くよな。

 魔族の中にも、200を越える種族って、実はなかなかいない。

 ブラムゴンで100を越えるのがやっとだった。


 さらにミャアのジョブはナックルマスター。

 間違いなく力と素早さ、体力にも補正が入っている。

 俺もまだ測れてないけど、実際は250以上の数値はあるはずだ。


 とはいえ、うちでは珍しくない数値になっちゃったんだよなあ。

 ドワーフの中には、チンさんを筆頭に、力が200越えの人材がゴロゴロいる。

 それを聞いたら、ローデシアは目を回すかもしれない。


「そんなに驚くことでもあるまい」


 興奮するローデシアを横目に、冷静に言い放ったのはエヴノスだった。

 肘掛けに手をつき、如何にも魔王といった体勢で椅子に座っている。

 こうして見ると、本当にリアルボスキャラって感じだ。


「ゴーレム騎士のステータスを知らぬお前達ではあるまい」


 エヴノスは自信満々に言い放つ。

 そのゴーレム騎士のステータスがこうだ。




 名前   : ゴーズ

 レベル  : 50/50

    力 : 468(+90)

   魔力 : 102

   体力 : 408(+70)

  素早さ : 155(-120)

  耐久力 : 288


 ジョブ  : 守護戦士


 スキル  : 岩石斬りLV5 両手持ちLV4

        鉄壁LV5   瞑想LV5

        暴れ斬りLV5


 備考   : 石装備一式(力+90 体力+70 素早さ-120)




 エヴノスのヤツ、いきなりジョブ持ちを持ってくるなんて。

 容赦がないなあ。まあ、魔王らしいけど。


 確かゴーズはゴーレム騎士団の団長だ。

 団長を先鋒に持ってくるのか。

 緒戦で俺たちに土を付けて、自分たちを勢い付かせたいんだろう。

 同じことは、俺も考えていたけど。


 ゴーレム族が厄介なのは、防御力の高さと体力だ。

 あの分厚い石の装備と、その鎧と同じ硬度を持つ身体をぶち抜けるかが問題だろう。

 ちなみにゴーレム族は、身体の中にある核を潰さない限りは死なない。

 一応エヴノスと合議した上で、見た目で致命傷と思われる一撃が入った場合、試合が中止することになっている。


 体力400オーバーに、石の装備による補正。

 さらにジョブの補正も入っている。

 ゴーレムの守備力は、総計で600近い。

 そこに『鉄壁』なんて使われると、さすがのミャアも倒す事は難しい。


 でも、もう勝てない相手じゃない。

 むしろ今のミャアにとっては、最高の好敵手といえるかもしれない。


 やがて両者は向かい合った。

 ミャアは拳を突き出し、ゴーレム騎士は巨躯を軋ませながら構えを取る。

 2人の身長差は、蟻と象だ。

 本来であれば、勝てるはずがない。

 けれど、俺はミャアを信じる。


「はじめなさい」


 裁定役のローデシアの声が響く。


 先に仕掛けたのは、ゴーズだ。

 スキル『瞑想』を使う。

 これはミャアが持つ『精神統一』の派生スキルだ。

 『精神統一』は元々『ためる』の派生スキル。

 そのため『瞑想』には攻撃力を倍加させる効力に加え、その間の防御力、状態異常系の耐性を上げる効力まである。


 魔法などの耐久性が低いゴーレム族にとっては、その弱点を補うスキルになるだろう。


 問題なのは『瞑想』に入ると、他のスキルが使えないことだ。

 力をためるまでの間、攻撃をしない限り、キャンセルされることはない。


「勝ったな」


 俺は思わず呟く。


「え?」

「何ぃ?」


 ローデシアは俺の発言に驚く。

 横のエヴノスも眉を顰めた。


 俺は何も言わず、戦況を見守る。


 ゴーズの動きを見て、ミャアは『精神統一』を始めた。

 お互い力をため、微動だにしない。

 異様な戦いになってしまった。


 最初の一撃が、お互いの最後の一撃になる。

 そんな予感を、集まった観衆たちも感じていたのだろう。

 誰も何も言わず、固唾を呑んで石舞台に立った両者を見守った。


 ついに力がたまる。


 先に動いたのは、ゴーズだった。

 石の剣を両手で持ち、ゆっくりと振りかぶる。

 『全力斬り』の派生である『岩石斬り』だ。


 これは相手の防御スキルや、防具の補正関係なく斬ることができる。

 体力が高い、ミャアでも耐えられないだろう。

 だが、それが悪手だ。

 そしてミャアもまた狙っていた。


 そして、ゴーズは剣を振り下ろす。


 まるで空気を押しつぶすように巨剣が、ミャアの頭上に降ってきた。

 ミャアもただ単純に見上げていただけじゃない。

 拳を弓のように引く。

 跳び上がって、なんと剣に向かっていった。


「何を――――」


 ローデシアが立ち上がる。

 自殺行為だとばかりに口を手で覆った。

 如何に鈍重なゴーレムの斬撃とはいえ、その刃は鋭い。


 しかし、ミャアは避けた。


 まるでソンチョーの『見切り』のように剣の軌道を読む。

 そもそも獣人は目も良いし、反応速度も高い。

 ステータスというよりは、素の身体能力を生かして、回避したのだ。


「みゃああああああああああああああああああ!!」


 ミャアは絶叫する。

 すでに豹人族の少女の姿は、ゴーズの目の前にあった。



 【三段突き】!!



 【精神統一】でためた力。

 さらに攻撃を3倍プラスする【三段突き】の力。

 そして、あえて伏せていたが、ミャアにはもう1つの力がある。


 精霊の補正だ。

 力プラス50は、今この時も村人や獣人に影響力を与え続けている。


 ミャアの攻撃力は、素の状態で300オーバーしている。

 そこに【精神統一】でためた力と、【三段突き】の力が合わさる。


 総合計1000オーバー。


 如何に固いゴーレム族とて、これを防御することは難しい。



 ゴ、ゴ、ゴオオオオオオオオンンンンンンンンンンン!!!!



 凄まじい音が武闘台に鳴り響く。

 その瞬間、ゴーズは弾け飛んでいた。

 石の鎧は破壊され、その肉体はバラバラに砕け散る。


 そして巨躯は大きな音を立てて、石の地面に倒れた。


 勝負はあった。

 それでも歓声は聞こえてこない。

 一瞬の出来事に、言葉もなかったのだ。


 そんな中、ミャアは新品のナックルガードをしたまま、頭を掻く。


「失敗、失敗……。1発って言ったのに、3発叩いちゃったみゃ」


 緊張感たっぷりの戦いの後とは思えない。

 朗らかな声を響かせるのだった。



 ◆◇◆◇◆  エヴノス side  ◆◇◆◇◆



 え?

 なに、これ?


 おい。まさかこれで終わり?

 我の守護騎士であるゴーレムが……。

 獣人なんぞに……。



「うそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


エヴノス様、顔真っ青ですけど、何かありましたぁ?


面白い、エヴノスさんまだ終わらないよ、と思った方は

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