第9章

第56話 もしも おれがかったら……

「随分と盛大なノックだったな、エヴノス」


 俺は竜から降りてきたエヴノスに握手を求めた。

 エヴノスは軽く握り、応じる。

 顔は笑っていたが、こめかみの辺りがピクピク動いていた。


 相変わらず機嫌が悪いなあ……。


「なかなか頑丈な城壁だな、ダイチよ」


 挨拶もそこそこに話を切り出す。

 俺は肩を竦めた。


「俺もちょっと驚いているよ。まさかこんなに頑丈な城壁とはな」


 本当に驚いていた。

 エヴノスからスキルが放たれた時、確実にバラバラになったと思ったのに。


 とはいえ、あの城壁は一見普通に見えるだろうが、全部魔法鉱石ミスリルで出来ている。

 本来、魔法鉱石ミスリルは貴重で、おいそれと城壁に使うような建材じゃない。

 魔王城にも使われているが、土台部分と魔王の間だけだと聞いている。


 だが、俺の【言霊ネイムド】なら素材は出し放題。

 コストもゼロ。かかるのは、加工代と時間ぐらいなものだ。

 それに加え、ドワーフたちには十分な報酬を与えている。

 ノリノリで仕事でやった成果が、1ヶ月という短工期を実現してしまったというわけだ。


 早すぎて、どこかに欠陥はないかと心配してたけど、エヴノスの攻撃を受け止めきれるぐらいだ。

 全く問題がないと言ってもいいだろう。


「おかげでいい耐久テストになったよ」

「は、ははは……。そいつは良かった」

「良かったですね、エヴノス様」


 ローデシアが会話に混じる。


「もし、エヴノス様が本気なら、折角大魔王様たちが作った城壁を潰してしまったかもしれませんね」

「た、確かに……」

「もしかして、その事も考慮に入れられていたのですか?」

「あ……当たり前だろう。わ、わわ我ぐらいになると、一目見ただけで城壁の強さがわかるのだ」

「おお! さすがエヴノス様ですね」


 そうか。

 エヴノスのヤツ、手加減してくれていたのか。

 でも、お前そんな器用なことができるヤツだったか?


「さて……。早速だが、ダイチよ。我も忙しい。試合を始めよう」

「ああ。俺もそのつもりだ。その前に、お前に見せたいものがあるんだ」


 俺はエヴノスを村の奥へと案内する。

 現れたのは、観客席付きの闘技場だった。


「な……。これは…………」


 エヴノスは絶句する。

 そりゃそうだろう。

 魔王城にもない立派な闘技場だからなあ。


 円形の武闘台に、階段のように並んだ椅子。

 荘厳な白亜の支柱がいくつも並び、観客席の屋根を支えている。

 当然、武闘台は魔法鉱石ミスリル製だ。

 ゴーレム騎士が大暴れしても、耐久できる力がある。


 そのゴーレム騎士も感心しきりだ。

 体表が石でできているからだろうか。

 こういう建物を見ると、見入ってしまうらしい。


「すごい! さすがですよ、大魔王様」


 ローデシアは目を輝かせた。

 俺は苦笑する。


「俺がすごいんじゃなくて、ドワーフたちが凄すぎるんだけどな」

「でも、ドワーフたちを育成したのは、ダイチ様です。これほど能力の高いドワーフを、私は初めて見ました」


 ローデシアは大絶賛する。

 いや、それは俺も同感だ。


 ローデシアと俺が会話する横で、エヴノスはまたこめかみをピクピクと動かしていた。


「ふ、ふん……。所詮はドワーフ。少々手先が器用なだけではないか。この領地の防衛能力が高いことを証明したことにはならないぞ」

「エヴノス様の攻撃を防いだだけでも、十分証明になるかと思われますが?」

「うっ――――う、うるさいぞ、ローデシア! ダイチが会場を用意したのだ、とっとと試合の準備を始めぬか」


 ローデシアのヤツ、天然だと思うけど完全にエヴノスを煽っているよな。

 昔からこういうやりとりはあったけど、その煽り力が高くなっているような。

 対するエヴノスは、随分と我慢しているようだ。


「大人になったな、エヴノス」

「ダイチ、お前も何を言っているのだ?」

「こっちの話だよ」


 俺はエヴノスの肩を軽く叩き、労うのだった。



 ◆◇◆◇◆



「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」


 魔族、人族、獣族の声が入り交じり、闘技場は熱狂の渦にあった。


 出来たばかりの闘技場に様々な種族が入り交じり、声援を送っている。

 その中心にいたのは、俺とミャア、1体のゴーレム騎士だ。


 ミャアに新しいナックルガードを付けると、激励した。


「よし! 頑張ってこい」

「ダイチ!」

「なんだ?」

「1つお願いがあるみゃ」

「お願い?」

「もし、ミャアが勝ったら――――」

「勝ったら?」

「ご褒美にキスしてほしいみゃ」

「き、キスぅぅぅ!!」

「イヤみゃ? ダイチはミャアにキスするのイヤみゃ?」


 ミャアは上目遣いに質問してくる。

 ずるい。

 そんな瞳で見られたら、断りづらいじゃないか。


 それにミャアには今から危険なことをしてもらう。

 武器も新しくし、1ヶ月の間レベル・スキルともに鍛えてもらった。

 だけど、命の保証は何もないんだ。


 むしろ、それがモチベーションになるなら。


「わかったよ、ミャア」

「やったみゃあああああああああ!!」


 ミャアは両手を上げて喜ぶ。


「ミャア! 頑張るみゃ!!」

「あんまり気負うなよ」


 一応アドバイスが送ったけど、ミャアは聞いていなかった。

 すでに試合に集中し始め、シャドーをしながら動きを確認している。

 ちょっと発破をかけすぎたかな。


 てか、勝負に勝ったらって…………負けフラグじゃなかろうか。


 …………。


 まあ、いつものミャアの力を出すことができれば問題ない。

 後はミャアを信じよう。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


さあ、フラグを盛大に折りにいきましょう!

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