第53話 じゅんびうんどうは たいせつ

 村の防衛力を上げるため、早速ドワーフたちが工事を始めた。

 いつも金、金、金と言っているドワーフたちだが、1度作業を始めると真面目だ。

 朝から木槌を打つ音が聞こえ、骨組みを組み、城壁に石材を並べていく。


 ドワーフたちは石工も得意としている。

 城壁に並んだ石材は、まさに剃刀の刃1枚も入らないほど、びっちりと隙間が埋まっていた。


 その工事の様子を見ていた俺の所に、ソンチョーがやってくる。


「ダイチ様、ありがとうございます」


 頭を下げた。


「村の周りに石垣を作るのは、村の悲願でした。ですが、石垣どころか城壁を作ってしまうとは……」

「城壁だけじゃないよ。ゆくゆくみんなの家も、もっと立派な家に住んでもらうつもりだ。ここを暗黒大陸初めての城下町にするためにもね」

「城下町? ということは、城を建てるつもりですか?」

「まあね。ソンチョーにも、屋敷に住んでもらうつもりだから」

「屋敷……。なら、カワええメイドさんを雇ってもええかの?」


 エロじじい……。

 ソンチョーは相変わらずブレないなあ。


 そのソンチョーの肩を、ずんぐりとした手が叩いた。


「はっはっはっ……。じゃあ、あたしがメイドになってやろうかね」


 カーチャだ。

 自信満々といった感じで、胸を張る。


「いや……。年齢制限があっての。お主のようなBBAは」

「なんだって……!」


 カーチャは拳をボキボキと鳴らす。

 今にも無双転生を放ちそうなオーラを纏っていた。


「嘘ですフェイクニュースです心にもないことをいいましたカーチャにメイドになってほしいですだから許してくださいなんでもしますから!!」


 ん? 今、なんでもするって(以下略)


「しかし、さすがダイチだね。この城壁ができれば、魔獣の心配をしなくて済むよ」

「はははは……。魔獣の心配ね」


 カーチャの言う通り、魔獣のヽヽヽ心配はなくなるだろうな。


 俺はチラリと視線を向ける。

 そこにはスライムと戯れる子どもの姿があった。


「あー。スライムだ」

「よーし。サッカーしようぜ」

「スライム、お前ボールな!」


 いきなりスライムをボールにしながら、俺が教えたサッカーをやり始める。


 ここの集落の子どもたちって、みんなレベルが高くて、雑魚モンスターは遊び道具でしかないんだよなあ。

 つーか、なんか倫理的にスライムが可哀想というか、色々とあれなので、子どもたちには注意しておこう。

 いじめ、ダメ、絶対!


 ある意味、この城壁ができて助かっているのは、無自覚に村に迷い込んでしまった魔獣たちの方かも知れない。


「大魔王様、ルナはどこアルか?」


 突然、やってきたのはメーリンだった。

 横には担架を持ったドワーフがいる。

 担架には負傷したとおぼしきドワーフが乗っていた。


「何かあったの?」

「朝から寝ぼけて、足場から落ちたアル」

「だ、大丈夫?」

「大丈夫アル。ドワーフの身体は頑丈アルよ」

「そう。メーリン、朝は身体が動かないし、そう慌てることはないんじゃない」

「ダメあるよ。数週間後には立派な城壁を作るアル」


 メーリンはふんと鼻息を荒くする。

 納期を守ろうとする意識は立派だけど、突貫工事で怪我人が出るのはダメだよ。

 とはいえ、メーリンは頑固だからなあ。

 何かこっちでできることがあれば、いいんだけど……。


 俺はぼんやりとスライムをボールにして遊ぶ子どもを見つめ、考えた。


「あ。そうか! それだ!」





 翌朝……。

 まだ空気が肌寒い中、ドワーフたちは仮の宿営所から出てきた。

 ぞろぞろと持ち場へと向かう。

 それを止めたのは、俺だった。


「みんな、ちょっと待ってくれ」

「何アルか、大魔王様?」


 何事かとメーリンがやってきた。


「朝からいきなり仕事をするのは、むしろ効率が悪いと思うんだ。特に高所での作業は危険度が増す」

「だから、より厳しく気を付けるアル」


 俺はゆっくりと首を振った。


「いや、それだけじゃダメだ。起きたばかりの身体は動かないからね。それに1人が怪我をしたら、それを運び出すために人手が必要だろ? そうすると、仕事が止まってしまう。その方が効率が悪いんじゃないかな?」

「うっ……。確かにアル」

「だから、時間をかけずに、身体をほぐす方法があるといったら」

「そんな方法がアルのか?」


 おお! とメーリンは目を輝かせる。

 どうやら、俺が垂らした餌に食いついたらしい。


「ダイチお兄ちゃーん」


 やって来たのは、村の子どもたちだった。

 ぞろぞろと集まってくる。

 まだ眠たいのだろう。

 欠伸をしたり、しきりに目を擦ったりしている子どももいた。


「よしよし。子どもたちも集まったな」

「子どもたちまで……。何をするアルか?」

「ふふん……。体操だ」

「体操?」

「よし。まずは伸びの運動からだ。大きく手を上に上げて」


 俺は空へ向かって両手を大きく伸ばす。

 ドワーフたちは戸惑いながら、子どもたちが楽しそうに、俺に倣った。


「手を伸ばす時に、大きく深呼吸だ。次は腕を振って、膝の曲げ伸ばし」

「な、なんか間抜けアル」

「おもしろーい!」


 笑い声が響いた。


「今度は大きく腕を回す。肩の力を抜いて、はい、今度は反対回し」

「お! なんか身体の筋が伸びていく感じがしてきたアル」

「ぶんぶーん!」


 お……。

 少しは効果が出てきたかな。

 メーリンの他のドワーフも戸惑いながら、俺の動きについてくる。

 皆もそろそろ実感し始めたのだろう。


「はい。次は胸を反らす運動。腕を振って、反らす」

「ぐげ! ぐきっていったアル」

「キャハハハハ!」


「次は身体を横に曲げる運動。メーリン、身体が硬いぞ」

「ううううるさいアル。私は実務担当アルよ」

「メーリンお姉ちゃん、全然曲がってないよ」


 次の身体を前後に曲げる運動も、メーリンは全然曲がらない。

 それを見て、村の子どもたちにからかわれていた。

 ドワーフは総じて、屈伸運動が苦手のようだ。

 筋肉が付きすぎているからかな。

 でも、メーリンは多分運動不足だろ。


 もうわかったと思うけど、今やっているのは、ラジオ体操だ。

 久しぶりにやってみたけど、覚えているものだな。

 小学校の6年間、ずっとやらされていたし。

 そりゃ覚えるか。


「はあ、はあ、はあ……」


 メーリンの息が荒い。

 額には汗が浮かんでいた。

 ラジオ体操って結構真面目にやると息が切れるものだけど、メーリンには覿面てきめんに効いたらしいな。


「はい。最後は深呼吸……」


 大きく深呼吸する。

 息を整え、ラジオ体操は終わった。


「これで終了。みんな、どうかな?」

「軽い運動だっていったアル。こんなに激しい運動してたら、働く前にバテちゃうアルよ」


 ついに最後には腰砕けになり、倒れたメーリンが抗議の声を上げる。

 どんだけ運動不足だったんだ、メーリン。


 とはいえ、ドワーフたちが疲れることもなく、むしろ軽く汗を掻いた事によって身体がうまくほぐれたようだ。


「よーし。みんなにスタンプカードを渡すぞ。ラジオ体操1回に付き、1回スタンプを押すぞ。30個集まったら、ミセスの作ったお菓子が貰えるからな」

「「「やった!」」」


 子どもたちが木の皮で作ったスタンプカードに手を伸ばす。

 そこに俺は、自作のスタンプを押していった。

 我ながら、なかなかの出来だと自負している。


「これ、なに?」

「犬?」

「いや、狸だろ?」


 猫だよ! わかりにくくて、ごめんな!


「よーし。みんな、身体は温まったアルな」

「「「おおおおおおおお!!」」」


 ドワーフもやる気満々だ。

 早速、今日の作業を始めた。


 以来、城壁工事の事故は減っていった。

 ラジオ体操は村とドワーフに浸透し、朝の定番となったのだ。


 日本のものが異世界で役立つなんてことは、よく漫画や小説ではあるけど、こんなの初めてだ。

 少しずつそういうのを増やしていくのも、悪くないかもな。




~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


今でもラジオ体操って、学校でやるのかなあ、と思いながら書いた回。


まだ確定ではないのですが、

諸般の事情で第1、2章部分を大幅に改訂しようと思ってます。

常々、この話って一応領地もののお話なのですが、

村に入るまで10話以上かかっていて、ちょっと遅いかなっと思ってまして。

その懸念をもう少し圧縮する形で、修正したいと考えています

(全体の話ががらりと変わるのではなく、時系列をもう少し見やすいようにしようというのが狙いです)。


今のままが好きという方には申し訳ないのですが、

良ければコピーを取ってもらって、楽しんでいただければ幸いです。


ただ予定は未定でして。

いつ作業を始めるか、まだ自分でもわかってません。

後日は後書きや活動報告などで報告するので、よろしくお願いします。

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