第52話 ぶきを つくろう!

 【言霊ネイムド】――――チン。


 俺はチンさんに名前を与える。

 聞いたところによると、魔法鉱石ミスリルを扱うのが、ドワーフの中でも1番うまいらしい。

 元々チンさんは、ドワーフの中でも1、2を争う名工だったそうだ。

 だが、火の温度が上がらなくなり、魔法鉱石ミスリルを精製するのが難しくなって、武器屋に鞍替えしたと聞いた。


 チンさんって、ドワーフらしい雰囲気があるよな。

 似非中国人みたいなしゃべり方を除けばだけど……。


「そう言えば、メーリンもだけど、チンさんって誰が名前を付けてくれたの?」

「アイヤー。大魔王様、知らなかったアルか?」

「どういうこと?」

「ドワーフの名前は、みんなパパがつけてるネ」

「パパ……?」


 族長か!!


 そうか。

 ドワーフは族長が名前を付けているのか。

 ある意味個性的な存在だけど、変な名前でなくてよかったね。


「それよりも、チンさん。気分はどうアルか?」

「特に変わったところないアル。わたし、これで強くなったアルか?」

「とりあえず、ステータスを見せてください」



 名前   : チン

 レベル  : 1/90

    力 : 40

   魔力 : 15

   体力 : 40

  素早さ : 10

  耐久力 : 23


 ジョブ  : 鍛冶職人


 スキル  : 鍛冶(耐久)LV1



 “力”が強ッッッッッ!!

 “体力”も半端ないな。

 ミャアの初期値を見た時も驚いたけど、チンさんの初期値も驚きだ。

 このまま戦闘要員として育てたいぐらいだ。


 確かにチンさんって、武器屋にしておくにはもったいないほど、身体付きが凄いからなあ。そもそも鍛冶師って強キャラで描かれること多いしね。

 デスゲー……。鍛冶師……。アンドレイ…………うっ、頭が…………!


 こうなってくると、成長した時のステータスが楽しみだね。


 俺は早速、チンさんをレベルアップさせてみた。

 やり方は前にメーリンをレベルアップさせた時と一緒だ。

 横でチンさんも見ていたので、手順を説明するまでもなく、お手軽にレベルアップを果たすことができた。


 そして、ステータスがこちら……。



 名前   : チン

 レベル  : 12/90

    力 : 101

   魔力 : 38

   体力 : 99

  素早さ : 37

  耐久力 : 55


 ジョブ  : 鍛冶職人


 スキル  : 鍛冶(耐久)LV1 修理LV1

        鍛冶(魔法)LV1 耐えるLV1



 レベル12で、“力”が100を突破してしまった。

 レベルの上限から考えて、レアリティは4ってとこだろう。

 つまり、ルナの聖女の下、メーリンと同じぐらいだ。

 なのに、“力”の値が、やばすぎる。

 成長度からいって、レベル20前半で“力”が200を越えるんじゃなかろうか。


 他の値は低いけど、順調に育てていけば、第二の脳筋キャラに……。


「どうしました、ダイチ様」

「あ。いや……別に、ルナのことを脳筋キャラとか思ってないから」

「のーきん?」


 いや、何でもないです。

 マジもう勘弁して下さい。


「ジョブも鍛冶職人だから、ぴったりアルな」


 メーリンは満足そうに頷く。

 すると、横でミャアがあることに気付いた。


「ダイチ、鍛冶の横にある『(耐久)』とか『(魔法)』とかってなんみゃ?」

「ああ。そのレベルを上げると、武器や防具を作った時、耐久力が上昇したり、魔法を付与したりできるんだよ」

「アイヤー! つまり、わたしもう魔法の武器が作れたりするアルか?」

「だね。といっても、うちには魔法系のスキルを持っている人はいないけど」


 そうなんだよなあ。

 実は、まだうちには魔法系のスキルを持っている人材がいない。

 やっぱりエルフとかになるのかな?

 と言っても、領地を守る分には、戦力は十分だけどね。


「あ! そう言えば、1つ教えておくよ。鍛冶職人の鍛冶スキルは派生しない仕様だから。LV5になれば、それ以上は上がらない。その代わり、色々な鍛冶スキルを覚えるから。一応、頭に入れておいて」


 数ある中でも、鍛冶スキルは第2、第3と派生しないスキルだ。

 その代わり、たくさんの武器に関する鍛冶スキルが生まれる。

 そして、その中には――――。


「神剣や魔剣を作るスキルもある」

「神剣や……。魔剣……」

「それはすごいみゃ!」

「かっこ良いです!」

「アイヤー。なら、神剣と魔剣、売り放題ネ」


 一際、目を輝かせたのは、メーリンだった。

 また瞳が金貨みたいに輝いている。

 変なことを考えなきゃいいけど。


「チンさん、もう少しレベル上げるアル」

「アイヤー。メーリン、何故アルか?」

「神剣を鎚てるようになるまで、レベルアップしてもらって、後でガッチリ稼ぐアルよ」

「アイヤ! それは名案あるよ」


「「ぐふふふふふふふ……」」


 おい。そこのドワーフコンビ。

 めっちゃ聞こえてるぞ。


「盛り上がってるとこ悪いけど、その前にルナのために武器を作ってくれよ」

「ええ! 神剣とか魔剣とか作れる方がいいアルよ。魔族をぶっ倒せるアル」

「俺が、魔族からなんて言われているか、わかってての発言か?」

「心配しなくていいアルね。魔族いなくなったら、大魔王様の名前、大神王にするネ」


 そんな中二病みたいな渾名はいらないよ。

 大魔王ですら、小っ恥ずかしいのに……。


「神剣まで作らせるつもりはないから」

「チェッ! 大魔王様のケチ! メーリンの裸を見たのに」

「え? メーリンの裸見たアルか? 大魔王様、大人しそうな顔をして、手を出すの早いアルね」

「誤解だ! そもそもあの時、メーリンは半裸だったろ」

「でも、半裸見たアルね。メーリンの胸大きかったアルか?」


 チンさん、なんでそこ食い気味で聞いてくるの?

 好きなの? メーリンのこと?

 なんかドワーフって年がわかり辛いんだけど、チンさんって何歳なんだろうか。


「とにかく早く作ってくれないかな、チンさん。あまり時間がないし」

「任せておくアル。大魔王様はドワーフの恩人ネ。2割引きで引き受けるアルよ」


 え? そこはタダじゃないの?

 きっちりしてるなあ。

 さすがはドワーフだ。



 ◆◇◆◇◆



 武器作りはドワーフたちに任せて、俺たちは一旦村に戻ることにした。


 久しぶりに地上に出ると、俺たちはすぐに気付く。

 まず俺たちを歓迎したのは、暗黒大陸の薄暗い雰囲気ではない。

 それよりも幾分明るい日差しと、温かな空気だった。


「眩しい……」


 最初は、久々に地上に出たからだと思っていた。

 だが、違う。

 明らかに周囲が明るく感じる。

 相変わらず、空はどんよりとしているものの、極度にじめじめしていない。

 特に感じるのは、温度の変化だろう。


 冬季前を予感させた空気が、幾分暖かい。

 ここに来るまで、ミセスが編んでくれた防寒着を着て来たんだけど、それがいらないぐらいだ。


「温かいみゃ!」


 ミャアはモコモコした防寒着を脱いで、走り出す。

 庭を駆ける犬のようにはしゃいでいた。

 冬の訪れを悲しんでいたのは、何よりも獣人であるミャアだったから仕方がない。

 獣人は寒さに弱いらしい。


「ダイチ様、これを……」


 ルナが指し示したのは、雑草だった。

 何の種類かわからないけど、気温が温かくなったおかげで生えてきたのだろう。

 それを嬉しそうに、ルナとステノは一緒になって眺めている。


「これは――――?」

『おそらくフレイアを解放したからかと』

『えっへん! すごいやろ、うち!』


 俺の魂の中で、フレイアは胸を反る。


 少しの変化だけど、これはすごいことだ。

 初めてきた時は、ぺんぺん草すら生えないような土地だった。

 それが今や、少しずつだけど緑が戻りつつある。


 俺は乾いた土地でも、懸命に生を謳歌しようとしている草花を見て、早くこの大陸を強く育成したいと誓うのだった。





「ここが、大魔王様の村アルか?」


 ドワーフ城から付いてきたメーリンが、村を眺める。

 村人が歓待し、帰ってきた俺たちをもてなしてくれた。


「どうだい、みんなの村は?」

「正直に言うと、地味アルね」


 正直過ぎだろ……。


 俺は苦笑する。


「でも、すごいポテンシャルがあるんだぞ」


 俺は畑を案内する。

 そこで植えられていた農作物を見て、さすがのメーリンも驚いた。

 子どもたちが、ジャガイモを引き抜く。

 その子どもの顔と同じぐらいの大きさのジャガイモを見て、メーリンの目の色が変わった。


「すごいアル! まさか暗黒大陸で農業ができるなんて」


 フレイアを解放したことによって、日差しが強くなり、さらに温度も上がった。

 農作物にとって、これほど有り難いことはない。

 どうやら冬前に収穫するつもりだった農作物は、全部回収ができそうだ。


「それで、大魔王様。私をわざわざ連れてきたっていうことは、私を愛妾あいしょうにしようというわけではないアルね」

「愛妾って……。こほん……。実は、メーリン。君とドワーフたちに依頼したいことがあるんだ」

「私たちに? 武器を作ること以外にアルか?」


 俺は神妙に頷いた。


 エヴノスが今回、武闘祭なるものを開こうとしている。

 その理由は、この暗黒大陸に防衛能力がないと判断されたためだ。

 なら、戦うことよりも、もっと身近に防衛能力があることを見せつければいい。


「メーリン……。この村に城壁を設けてほしいんだ」


 ここを田舎の村にするのではない。


 城塞都市にする。

 それが、俺の導き出した答えだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


あの鍛冶師を間違って攻撃して、返り討ちにあったこと云百回!


本日、拙作『ゼロスキルの料理番』のコミカライズ更新日となっております。

ヤングエースUPで連載しておりますので、是非チェックして下さい。

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