第50話 ひのせいれいは ふっかつした

 ――って、城!?


 ドリーとウィンドに案内されるがままやってきたのは、ドワーフの城だった。

 結局、戻ってきたのだ。

 メーリンと、俺たちの姿を見て、ドワーフたちは城門を開ける。

 わらわらと集まり、俺たちを歓迎した。


「アイヤー! 良かったヨ。みんな、無事で」

「ラリホー! 大魔王殿、それで首尾の方は?」


 チンさんと、ドワーフの族長もまた出迎えてくれた。


「それが、精霊たちが言うには、この城の中に火の精霊がいるらしいんですよ」

「アイヤー! この城に火の精霊?」


 チンさんは驚く。

 首を捻ったのは、族長だ。


「そんなもの城にはいないはずだが」

「パパ……。何か知っているなら白状するネ」

「そうだみゃ! じゃないと、その役立たずな舌を切るアルよ」

「熱々に熱した牛の銅像に貼り付けるといいネ。すぐに口割るよ」

「それなら、爪を1本1本……」


 怖い話をするなよ。

 ステノまで……。


 完全に族長がドン引きして、血の気が引きすぎて、顔が真っ黒になってるぞ。

 なんかドンドン、某有名大作RPGのドワーフに近づきつつあるんだけど。


「ごほん! ともかく城のドワーフ総出で探させよう」


 というわけで、みんなで火の精霊を探すことになった。

 ドワーフの城の隅から隅。

 さらに古い文献なんかも調べてもらったけど、記録らしきものはなかった。


「どこにあるんだろうか?」

『この城のどこかというのはわかるんですが』

『ああ。それだけは間違いない』


 ドリーもウィンドも言うのだけど、さっぱり見つからない。

 途方に暮れる俺に、ルナが水を差し入れてくれた。


「ダイチ様、これを……」

「ありがとう、ルナ」


 俺はぐびぐびと水を飲む。

 美味い!

 そう言えば、封印の洞窟から息も吐かず、火の精霊を探してたんだな。

 ルナもみんなも疲れているだろう。


「ルナ、君たちは1度休んだ方がいい」

「私は大丈夫です。休むならダイチ様の方ですよ」

「うん。でも、水を飲んで、少し疲れが癒えたよ。頭も少しスッキリした」

「それは良かったです」


 1番の癒しはルナの笑顔だな。


『キィッ!』


 チッタもルナの肩に駆け上がる。

 フワフワの尻尾を揺らした。


「お前もな、チッタ」


 チッタのもふもふの毛を撫でた。


 よし。少し元気が出た。

 もうちょっと頑張ろう。

 俺は立ち上がる。

 すると、俺よりも遥かに大きな影がそびえていることに気付いた。

 ドワーフの始祖の像だ。

 探しているうちに、城の真ん中まで来てしまったらしい。


 俺は像をしばし見つめた。


「もしかしたら…………」

「ダイチ様?」

「ルナ、ルーンアクスはあるかい?」

「先ほど、ドワーフの武器庫に保管いたしましたが」

「すぐに持ってきて!」

「は、はい!」


 俺の差し迫った声を聞いて、ルナは走り出した。

 入れ替わるように騒ぎを聞きつけたミャアやメーリン、ステノたちが集まってくる。


「どうしたネ、大魔王様。大きな声、びっくりするアルよ」

「何か見つけたみゃ?」

「今、ルナが走っていきましたが」


 1度、俺は首を振る。


「見つけてはいない……」

「「「え??」」」

「けど、まだ探していないところを見つけた」


 ドワーフの始祖の像を見上げる。


「まさか、ご先祖様の像の中アルか?」

「でも、この像を壊すのは難しいみゃ」

「ミャアの言うとおりですよ、ダイチ様」

「うん。でも、あのルーンアクスなら」

「持ってきました、ダイチ様」


 ちょうどルナが成獣となったチッタに跨って、戻ってくる。

 その胸にルーンアクスを抱えていた。


「よし。ルナ、頼むよ」

「は、はい。お任せ下さい」


 ルナは振りかぶる。

 その魔力に反応したのか。

 ルーンアクスが光り輝き始めた。


 そして封印の洞窟でもそうであったように、渾身の力を込めて振り抜く。


「やああああああああああ!!」


 ルナの裂帛の気合いが、ドワーフの像を貫く。

 その瞬間、キィンと甲高い音を立てて、斬撃の光が横に閃いた。


 ガラリ……。


 最初に崩れたのは、ルーンアクスだった。

 刃がボロボロになると、そのまま砂のように崩れていく。

 ルーンアクスでも、像を壊すことはできなかったのか。

 そう思った直後、像に1本の線が閃いた。

 徐々に像が左にスライドしていく。

 やがて速度は増して、横に倒れた。

 ついに中身が現れる。


「やった!」

「やっっっったみゃああああ!!」

「やりましたね!」

「アイヤー! ご先祖様の像が……。でも、まあ仕方ないネ」


 俺たちは諸手を挙げて喜ぶ。

 そして俺はルナの頭を撫でた。

 横のチッタもペロペロと頬を舐める。

 ダブルで称賛だ。


「よくやったな、ルナ」

「ありがとうございます。それで、中身は……」


 瞬間、像から炎が立ち上る。

 辺りは一瞬にして紅蓮に染まった。

 俺たちはそれを見て、おののくしかない。


 すっかり忘れていた。


 ドリーも、ウィンドも封印されていて、自我を失っていた。

 火の精霊もそうなっていないとは言い切れない。


「みんな、気を付けて!」


 俺は戦闘準備を促す。

 だが――――。


「その必要はあらへんよ」


 どこからともなく関西訛の声が聞こえてきた。


 立ち上った炎の中から、ドラゴンに似た翼を生やした女性が現れる。

 炎でよく見えないけど、ドリーと同じく一糸も纏っていない。

 良かった……。

 ここにソンチョーがいなくて。


「ラリホー! 女子の裸である。皆のもの、胸の大きい女の裸が!!」


 ドワーフの族長、お前もか!

 お願いだから、誰か1人でもいいからまともな族長に会いたい。


 大騒ぎする族長の頭を、メーリンは手刀でかち割り退場させると、俺たちは火の精霊の方に向き直った。


「どういうこと?」

「どういうことも、こういうこともあらへん。うちは正気や。この像の中で眠らされてただけやさかい」

「眠らされてた?」

「せや」


 俺は火の精霊から詳しい話を聞いた。


 大昔――。

 次々と精霊や精霊王たちが封印される中、ドワーフたちは自分たちの技術の粋を集めて作ったこの像に、火の精霊を匿ったのだという。

 いつか火の精霊が出ても問題ない時が来たら、ルーンアクスを使って、ここから出す予定だったのだが……。


「封印の洞窟の仕掛けがあまりに強力すぎて、ドワーフではクリアできなくなったみたいやね。それから、うちの存在は忘れられていったちゅうことやろ」

「そういうことだったのか?」

「でも、助かったわ。いくら精霊やいうても、100年間ここに閉じこめられるんは、退屈やったさかいな。それで、あんた名前は?」

『サラマンダー、あまり慣れ慣れしいのはどうかと思いますよ。この方は、ダイチ様。この暗黒大陸を、元に戻そうとしている方です』


 声を上げたのは、ドリーだった。


「なんやドリアードやないの。この感じ……もしかして、ジンもおるん」

『ふん! 相変わらず緩いヤツだ。火の精霊が聞いて呆れる』

「ええやんか。ゆるふわ系の精霊がいても……」


 どうなんだろうか。

 ゆるふわ系にプラスして、関西弁って……。

 なかなかのキャラの盛り具合だぞ。


「なんか同窓会みたいで面白そうやわぁ。うちも協力させてもらいますよって」


 火の精霊サラマンダーは、屈託のない笑顔を浮かべるのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


火の精霊の能力開示は次回。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る