第49話 かいしんの いちげき

「でぇぇえぇえええぇえぇえい!!」


 ミャアの裂帛の気合いが地下空洞に響き渡る。

 強烈な【三段突き】を食らったキメラは吹き飛んだ。

 すかさずステノが走る。

 間髪入れずに、キメラの喉元にナイフを差し込む。


「ぐおおおおおおお!!」


 キメラは吠える。

 悶えながら血しぶきをまき散らし、その場に倒れ込んだ。


「これで――」

「あと、3体」


 ミャアとステノは背中合わせになる。

 そこに集まってきたのは、いまだ元気なキメラ3体だった。


 対するミャアとステノは、すでに満身創痍だ。

 致命傷こそないが、その柔肌は擦り傷だらけ。

 痛々しい打撲の痕も見受けられる。


 体力自慢のミャアも顎が開いてきた。

 あと、何回拳を振るえるかわからない。


 ダイチが封印の洞窟に入って、随分経った。

 本来の力を使えば、もっと戦果を上げることができたかもしれない。

 だが、今日は思ったより身体が重い。

 側にダイチがいないという精神的支柱の欠如も理由の1つだが、どうやら精霊の恩恵の範囲外になってしまったらしい。

 思ったように身体が動かないのだ。


「ダイチはまだかみゃ」

「ミャア、弱音を吐かない」

「弱音なんて吐いてないみゃあ!」

「ダイチ様は大丈夫。私たちの大魔王様なんだから」

「ふふ……」

「何かおかしいこと言った?」

「いや……。ステノの言うとおりだと思ったみゃ」


 ミャアはガチンと両拳に巻かれたナックルガードを叩く。

 ステノも、ナイフからキメラの血と脂を払い、構えた。


 その時だ。


『がううううううううううう!!』


 チッタだ。

 2人は反射的に振り返る。

 扉が閉じないように支えていたチッタが、今にも押しつぶされそうになっていた。


 見ると、アタックドアの意識が完全に回復している。

 アタックドアの口とも言うべき扉を、無理やり閉じようとしていた。


「チッタ!!」


 ステノが走り出す。

 背を向けたステノを見て、キメラが動いた。

 それを見て、ミャアも走る。


「ステノ! 危ないみゃ!!」


 キメラの凶爪がステノに迫る。

 ミャアは手を伸ばしたが、1歩遅い。

 このままでは、ステノがやられる。

 もしかして、チッタも――――。


 その時、さらにミャアの顔を絶望に歪める事態が襲いかかっていた。


 回復したアタックドアの邪眼が、こちらを向いていたのだ。

 さっきはルナの【結界】で回避できたから、難を逃れることができた。

 だが、今ルナの姿はない。


 完全に絶望的な状況。

 戦況として“詰み”と言わざる得ない。



 ごめん……。ダイチ…………。



 ミャアの目に珍しく涙が浮かんだ。


 その直後であった。




 シャアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンン!!!!




 見えたのは、細く長い閃光。

 聞こえたのは、耳をつんざくような斬撃の音だった。


 アタックドアが横薙ぎに切り裂かれる。

 そのまま細切りのように破砕され、霧散した。


 光に触れたキメラたちも、真っ二つに切り裂かれ、さらに肉片ごと吹き飛んでいった。


 残ったのは、わずかな異臭。

 魔物の血と、戦場の跡だけであった。


「何が――――」

「――――起こったんでしょうか?」


 ミャアとステノは、それぞれ固まったまま頭の上に「?」を並べた。


『ガウッ!』


 先ほどまでアタックドアの扉を支えていたチッタは、むくりと起き上がる。

 ふるふると首を振った後、洞窟の奥へと振り返った。

 機嫌良さそうに尻尾を振る。


 チッタが視線を向ける先にある闇から現れたのは、ダイチ、ルナ、そしてメーリンだった。


 ルナの手には斧が握られ、メーリンはダイチにおぶられている。

 そのメーリンの身体はボロボロで、トレードマークの片眼鏡のレンズには一部ヒビが入っていた。


「ダイチ!」

「ダイチ様!!」


 ミャアとステノが早速とばかりにダイチに飛びつく。

 その横で、チッタとルナも感動的な再会を果たしていた。


「ちょ! 2人とも押さないで。バランスが……」

「信じていたみゃ、ダイチ」

「よくご無事で、ダイチ様」


 2人とも目を腫らしながら、ダイチの無事を喜ぶ。


 ダイチは苦笑しながら、それぞれの2人の頭を撫でた。


「待たせてごめん。2人ともよく頑張ったね」

「ま、まあ……。ミャアにかかればこんなものみゃ」

「はい。ダイチ様のために頑張りました!」

「うん……。チッタも、ありがとう」

『キィッ!』


 精根尽き果てたのか。

 チッタは幼獣モードになっていた。

 それでも、勇ましく鳴き、ルナの頬を舐めて無事を祝う。


「メーリンもね」


 最後にダイチが労ったのは、背中に背負ったメーリンだった。


「死ぬかと思ったアルね。戦闘は2度とごめんヨ」


 うんざりした表情を、皆にさらす。


「それで、ダイチ……。火の精霊様は見つけたみゃ?」


 ミャアの質問にダイチは首を振った。


「いや、封印の洞窟の奥に火の精霊様はいなかった。あったのは、その斧だけだ」


 皆の視線が、ダイチからルナが持ったルーンアクスに注がれる。


「名前の通り、魔法武器あるネ。詳しくは城に帰らないとわからないけど、とても年代ものアルよ。売ったら高値で取引できるネ」

「売らないって! ――とはいえ、こんな威力のある武器はいらないんだけどなあ」

「ダイチ、もしかしてこの斧みゃ」

「さっきの光?」


 ミャアとステノがキョトンとする。


「うん。実はね」

「すごいみゃ! それでアタックドア、1発で壊れたみゃ」

「キメラも一瞬で消滅しました」


 興奮する。

 そんな2人を見て、ダイチは苦笑した。


「そう見たいだね。でも、さすがにこの武器は威力が強すぎるよ。……正直、ゴーレム騎士が消し飛びかねないし。あくまで試合なんだから、消滅させるのはちょっと……(これ以上、ルナを撲殺聖女にするわけにもいかないしね)」

「ダイチ様、何か仰られましたか?」

「い、いいいいいいいや! 何も言ってないよ、ルナ。気のせいじゃないかな」


 ダイチの反応に、ルナはキョトンとする。


「それよりも、火の精霊様がここにはいなかったってことが問題アル」

「だね。捜索はやり直しか。時間がないのに」


 ダイチは困った表情を浮かべる。

 すると、ダイチの中から声が聞こえた。


 精霊ドリーとウィンドだ。


『ダイチ様、1つ心当たりがあるのですが……』

「心当たり?」

『洞窟に入る時に行ったろ? 火の精霊の気配が遠ざかってるって』

「ああ……。それで?」

『私とウィンドは、ある結論に至りました。おそらくそこに火の精霊がいるかもしれません』

「よし。わかった。そこへ行ってみよう」


 ダイチたちは、精霊たちに誘われるまま、再び地下空洞を歩き始めたのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


高速ナブラというよりは、次元断だと思ってる。


面白い、そう思う、と思った人は、

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