第47話 とびらから まものが とびだした

 ぐるるるるるる……。


 獰猛な声が響く。

 戦闘はまだ終わっていなかった。

 ステノの頭を撫でながら和んでいた俺は、前方を見る。


 半開きになったアタックドアの隙間から、異形の魔獣が登場する。


 獅子の頭に、蛇の尾を翻し、胴体は山羊。

 低くく喉を鳴らす度に、紅焔が口内で赤黒く明滅を繰り返していた。


 キメラだ。


 ファンタジーではお決まりの合成魔獣。

 それがアタックドアから出てくる。

 大きい、それに――――。


「もう1匹??」


 いや、2匹までなら良かった。

 さらに3、4匹と立て続けに現れる。

 結局8体のキメラが俺たちを取り囲んだ。


 いずれも大樹の切り株を思わせる大きな足には、鋭い爪が付いている。

 牙は鋭利な刃物のように光り、尻尾の蛇が常にガラガラと鳴いていた。


 キメラは上位魔獣だ。

 経験値ランクでもAランクに上げられる。

 1体ぐらいなら何も問題がない。

 だが、8体相手するのは、単純に戦力が少なすぎる。


 でも――――。


「やるしかないみゃ」

「私たちならやれる!」

『ガウッ!!』


 ミャア、ステノ、チッタが戦闘態勢に入る。


 魔獣が飛び出してくるところまで原作再現(?)されているのは、忌々しいことこの上ないのだけど、とにかく突破するしかない。

 戦力が足りないかもしれないが、1体ずつ倒す分には、みんな強いんだ。


 信じるしかない、ミャアたちを。


「ダイチ様!」


 ルナが悲鳴じみた声を上げた。

 指差す方向を見た時、俺は絶句する。


 1度開いたアタックドアの扉が、ゆっくりとだが閉じようとしていた。

 一旦気絶した魔獣の意識が、戻りつつあるのだろう。


 まずい……。


 扉が閉まったら、またあのプレス攻撃がやってくるぞ。

 キメラの相手をしながら対応するなんて、いくらミャアたちでも不可能だ。


「くっ……!!」


 突如走り出したのは、メーリンだった。

 閉じようとしている扉に向かって、一直線に向かっている。

 だが、そこに立ちはだかっていたのは、あのキメラだ。


 キメラは反応する。

 向かってくるメーリンに襲いかかった。


「何をするみゃ!」

「死ぬ気ですか?」


 フォローに入ったのは、ミャアとステノだ。

 同時に襲いかかってきたキメラに攻撃する。

 致命には至らなかったが、怯ませることには成功した。

 さらに殺到してきたキメラに対しては、チッタが【鉄壁】を使って守る。

 おかげで、メーリンは無事だ。


「メーリン! 無茶が過ぎるよ」

「無茶するの当たり前ネ。あの扉が閉まったら、ここに来た意味ないネ」


 いつものメーリンらしくなかった。

 いや、これが本来のメーリンなのかもしれない。

 斜に構えたような商人メーリンではなく、ドワーフ再興のために立ち上がり、魔族相手に1歩も引かなかった――改革者の姿こそ、本当のメーリンなのなんだろう。


魔法鉱石ミスリルで武器や道具を作れば、もう魔族に馬鹿にされないね。そして、言ってやるネ!」



 ドワーフの武器が、世界一!!



「――――てネ」

「メーリン……」

「この投資から絶対に引かないね。わたしの勘が言ってるヨ。ここで引いたら、一生ドワーフは世界一にならないヨ」


 熱を感じる。

 地下世界に漫然と立ちこめる熱気ではない。

 この地下世界を突き破りそうな熱意が、メーリンの背中から立ち上っていた。


「やろう……」


 俺はぽつりと呟く。

 無茶は承知だ。

 それは皆もわかっている。

 でも、俺の提案に反対するものはいなかった。


「ミャア、ステノ……。悪いけど、このキメラを抑えていて。まともに抗戦しちゃ駄目だ。こいつらを再度扉の中には侵入させないようにしてくれればいい」

「わかったみゃ」

「承りました、ダイチ様」


 ミャアとステノは頷く。


「チッタは扉の間に入って、少しでも扉が閉まるのを遅らせてくれ」

『ガウッ!!』


 了解とばかりに、チッタは尻尾を立てる。


「ルナ、メーリン、俺は扉の奥へ突入する。何が起こるかわからない。ルナ、君だけが頼りだ」

「はい」

「わたしも戦うよ。大魔王様よりは戦力になるね」


 メーリンは持ってきた槍を握りしめる。


「ああ。そうだな。頼むよ。じゃ――――」



 みんなに幸運を……。



 俺たちは走り出す。

 まずは扉の前に到着するのが肝心だ。

 先陣を切ったのは、やはりミャアだった。



 【三段突き】!!



 強力な能力アップバフが付いた3連撃。

 先頭のキメラを直撃すると、その巨体は他のキメラを巻き込んで吹っ飛ぶ。

 おかげで扉までの道ができあがった。

 そこに俺たちは迷わず突撃した。


「よし!!」


 無事、扉の前に来る。

 突破されたキメラたちは慌てて追いかけると、俺たちを取り囲んだ。

 そこに現れたのは、ミャアとステノだ。


「2人とも、絶対に無茶しちゃ駄目だからね」


 俺はそう忠告して、扉の中に飛び込んでいく。

 今にも閉まりそうになっていた扉の隙間に、チッタが滑り込んだ。

 防御系のスキルを使いながら、隙間を押しとどめる。


 その姿を目の端で見送ったミュアは、軽く身体をほぐした。

 昂ぶっているのか、耳も尻尾もピンと立たせている。

 一方、ステノの雰囲気も変わった。

 その瞳から光が失われると、目の前の魔獣に集中し始める。


「無茶しちゃ駄目っていわれると、無茶したくなるみゃ」

「ここは絶対に通しません。いえ――――。全員死んでもらいます」


 ミャアとステノは構える。

 吠え声を繰り返しながら、威嚇していたキメラだったが、ついに動く。

 扉の前に立つ、ミャアとステノに襲いかかるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


いつもお読みいただきありがとうございます。


本日拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズ最新話が、

ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカ他で配信されました。

本日は異世界ダークファンタジー感、満載のお話になっておりますので、

是非お読み下さい。

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