第8章

第46話 とびらが おそいかかってきた!

 ドワーフの城の南西。

 大空洞の端に、その洞窟はあった。

 小型の帆船なら悠々入れそうな穴に、城門のように大きい扉がそびえている。


 辺りは不気味に静まっていた。

 気温は外よりも高いのに、背筋がゾクゾクしっぱなしだ。

 おそらくこの扉の向こうにある危険な雰囲気を、俺の本能が察しているのだろう。


 ミャアたちも緊張している。

 やはり何かあることは間違いない。


「ドリー。サラマンダーの気配はどうだい?」

『申し訳ありません。この向こうからは彼の気配は……』

『むしろ遠ざかったような気がするぞ』


 珍しくウィンドも会話に入ってくる。


 遠ざかった?

 どういうことだろうか。

 まあ、今はとにかく進むしかない。


「大魔王様……。開けるアルか?」


 メーリンは改めて尋ねた。


「開ける……。俺たちは進むしかない」

「いい返事アル」


 メーリンは族長から預かってきた封印の鍵を掲げた。

 鍵が光り出すと、同時に扉の方も反応する。

 お互い共鳴した後、ガコッと施錠が開くような音がした。


 しかし、一向に扉は開かない。


「あれ? おかしいアル? 封印は解いたのに。早く開くよろし」


 メーリンは目の前の大扉を蹴り上げる。

 だが、全くビクともしない。

 扉は全く無反応だった。


「どくみゃ、メーリン。お前の力じゃ、この扉は開けられないみゃ」


 代わって、ミャアが進み出る。

 軽く手首を回した後、腰を落とし低く構えた。

 どうやら、早速買ったばかりのナックルガードの威力を試す時が来たらしい。

 ミャアは大きく深呼吸し、呼吸を整える。

 ふっと腹に力を入れた瞬間、全身をしならせて、強烈な直突きを見舞った。


 大鐘を鳴らすような音がする。

 衝撃の凄まじさを奏でた。

 だが、それでも大扉は開かない。


「頑な扉みゃ。よーし。今度はスキルを使って――――」

「ミャア!! 逃げろ!!」


 俺は叫ぶ。


 大扉は開かなかった。

 けれど、変化がなかったわけじゃない。

 突如、扉に釣り上がった目、さらに鋭い牙を持った口が現れたのだ。


「あれは何みゃ? メーリン」

「わたしも知らないネ。一体退避ヨ」


 ミャアとメーリンは距離を取る。


 扉に目と口って、アサル〇ドアかよ。

 まさか即死系のスキルを使うじゃないだろうな。


 その俺の勘は当たる。

 アサ〇トドア改めアタックドアは、その目が大きく見開いた。

 邪眼系のスキルだ。


 経験上、邪眼系のスキルは即死、石化、魅了の三種類。

 どれも厄介な事この上ない。


「ルナ!!」

「はい!」


 以心伝心というヤツか。

 ルナは俺の指示を待つ前に、スキルを唱える準備をしていた。



 【聖域】



 ルナを中心として、光の壁が広がる。

 皆がその壁の内側に避難した時、アタックドアの邪眼は解き放たれた。

 どういう効果があるかは、当たってみないとわからない。

 だが、その効果は【結界】の上位互換【聖域】によって書き消えた。


 防御に加えて、敵の状態攻撃を防ぐ効果があるスキルだ。


 あっぶね~。

 ルナが【聖域】を覚えてくれてて助かった。

 即死系で、さらに全体攻撃だったら、こっちは全滅だ。

 即死のスキルを持つ魔獣なんて初めてだから、何の用意をしてこなかったが、ルナがいれば、とにかく安心だな。


 とはいえ、あの邪眼を止めないと、こっちも攻撃ができないんだが……。


 【聖域】の中で引きこもりながら、俺は次なる1手を考える。

 だが、先に焦れたのはアタックドアだった。

 1度邪眼を引っ込める。

 次に動いたのは、口だ。

 聞いたことのない言語で、呪文のようなものを唱え始める。


 続いて現れたのは、巨大な檻だった。

 アタックドアから俺たちがいるところまで、ぐるりと魔力で作られた壁ができあがる。

 天井も蓋をされ、逃げ場がなくなってしまった。


「まさか……」


 嫌な予感がした。

 前にはアタックドア。

 後ろには壁、両側も壁、天井も防がれ、逃げる場所はない。


「このシチュエーションみたことがあるぞ!」


 俺は思わず絶叫した。


 その時である。


 ガンッ!

 ガンッ!

 ガンッ!


 何か金属を叩いたような音が鳴り響いた。

 みんなは何が起こっているか、まだ理解できていない。

 先に気づいたのは、俺だった。


「みんな、ドアが迫ってくるぞ!」

「ドアが?」

「ホントみゃ! あいつ、ミャアたちを押しつぶすつもりみゃ!!」

「アイヤー! ちょ! ミャア、どうにかするネ!!」


 メーリンは悲鳴を上げる。

 そうこうしているうちにも、アタックドアが迫ってくる。

 ア〇ルトドアだと思ったら、デモン〇ウォールの方かよ。


 俺の幼少期のトラウマを、随分と刺激してくれるじゃないか!


 しかし、このまま黙ってみているわけにはいかない。

 その気持ちは通じたのか、チッタが走る。

 アタックドアの前に踊り出ると、【鉄壁】を張った。

 スキルを使って、押し返すつもりなのだろう。


『ガウゥゥゥゥゥゥゥウウウゥゥウ!!』


 チッタは唸る。

 アタックドアの力はあまりに無慈悲すぎた。

 チッタの力を以てしても、押し返すことは難しいらしい。


「まずいアルよ! 押し返されているアルよ」


 もうおしまいだー、とばかりにメーリンは頭を抱えた。


 いや、まだおしまいじゃない。


「そうです」

「まだ手はあるみゃ!」


 構えたのは、ルナとミャアだった。


 ミャアは【精神統一】のスキルを使う。

 【ためる】の第二派生スキル。

 攻撃力を倍加させることに加えて、その間防御力も上がるという優れたスキルだ。


 そこにルナが【怪力】を使って底上げする。


 ミャアの力はすでに200をオーバーしている。

 そこに【精神統一】による3倍の力、【怪力】による倍加が加わった。


 つまり、今ミャアの攻撃力は単純計算1000を越えている。


「行けっ!! ミャア!!!!」



「みゃあああああああああああああああ!!」



 ミャアは気勢を吐きながら、跳び上がる。

 ぐるりと空中で捻転しながら息をつけると、迫り来るアタックドアに襲いかかった。


 ゴオオオオオオオオオオオオオンンンンンン!!


 爆発音に似た音が響く。

 アタックドアは逆走する電車のように後ろへと下がっていった。

 そのまま自ら作り上げた壁に叩きつけられる。

 口をパックリと開けて、白目を向いた。


 瞬間、ついに扉が小さく開く。


「やったみゃあああああああああ!!」


 ミャアはガッツポーズを取る。

 どんなもんだいという風に、メーリンの方に振り返った。

 その得意げな顔を見て、先ほどまで呆然と戦況を眺めていたメーリンだったが、すぐに髪と片眼鏡の金鎖を揺らして、明後日の方向を向いた。


「ふ、ふんアル。頭の悪い獣人にしてはよくやったアルな」

「みゃっ! 命の恩人に向かって、なんていう言い草みゃ!」


 また2人は喧嘩を始める。

 本当に犬猿の仲だな。

 でも、喧嘩するほど仲が良いともいうけどね。


「うう……。ダイチ様、すみません。あまり活躍できませんでした」


 しょんぼりしていたのは、ステノだった。

 俺はポンポンと頭を叩く。


「ステノが得意な戦場もいつかやってくるさ」


 慰めるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


パクリじゃなくて、オマージュだから!


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