第45話 しょうにんを なかまにした

ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪

ちゃんちゃんちゃんちゃんちゃんちゃん♪

ちゃららららららららららちゃ~~ら~~♪

(仲間になった時の音のつもり)


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 早速、封印の洞窟へと俺たちは向かうことにした。

 エヴノスたちがやってくるのは、1ヶ月後。

 武器の製作期間を考えると、あまり休んでもいられない。


「大魔王様、こっちアル」


 準備していた俺に声をかけたのは、チンさんだった。

 洞窟に入るための保護用の防具を貸してくれたチンさんは、俺に話があるらしい。


「何ですか、チンさん?」

「実は――――って、すごい顔ネ。大丈夫アルか?」

「まあ、色々ありまして……


 目の下が真っ黒になってる俺を見て、チンさんは心配する。


 気を取り直して――――。


「メーリンのことをよろしく頼むネ」

「え? もちろんだよ」


 封印の洞窟の案内役はメーリンとなった。

 同じ族長の娘でも、ミャアとは違ってメーリンには武力がない。

 力はそれなりに強いみたいだけど、普通の女の子よりも強いという程度だ。

 チンさんが心配するのもわかるけど……。


「メーリンはとてもお金にがめついけど、とても優しい子ヨ。あの子がいなかったら、ドワーフ族は滅んでいたかもしれないネ」

「そんなに……!」

「メーリンは族長の制止を振り切って、暗黒大陸から出てた定期船に隠れて、1人で魔族本土に行ったね。そこで魔族と、ドワーフが作る工芸品や武器を売ったアルよ」

「すごい……」


 メーリンのヤツ、たった1人で魔族の本土へ行って、商売をしていたのか。

 すごい度胸だ。

 おそらくドワーフって素性を隠して、商売をしていたんだろう。

 けど、1歩間違えれば命の危険を伴う行動だ。


「でも、魔族の武器の主流は魔法鉱石ミスリルヨ」


 そう。チンさんの言うとおりだ。

 魔族の武器の多くは、魔法鉱石ミスリル製のものばかりである。

 対して鉄製の武器は基本的に粗悪品として扱われる。


「だけど、メーリンは必死になってうちの武器を売ってくれたアル。魔法鉱石ミスリルよりも切れるってネ。実際、うちの鉄製の武器は、向こうのなまくらと比べたら、よく斬れるアル。それをメーリンは交渉して、商売に道筋を付けたアルよ」

「メーリンって、すごいヤツだったんだな」


 なんか映画になりそうな壮大な話だ。

 ちっさくて、俺よりも若いように見えているけど、きっと俺よりも遥かに苦労しているんだろう。


「『顧客にとって鉄貨1枚にしか見えない価値を、金貨100枚に変えるのが商人の仕事アル』とメーリンはよく言ってたアル」


 それって、俺がさっき言った言葉と似ているな。

 そうか。あの時のメーリンの反応って、これだったんだな。


「ほしいな」


 俺はふと呟いた。


「ん? メーリンアルか? それはいいアル。大魔王様とメーリンが結婚すれば、ドワーフ族は万々歳。一生安泰アル」

「いやいやいやいや、そういうことじゃなくて……」


 全くなんでみんなこう――俺にくっつけようとするんだろうか。


 でも、メーリンが欲しいのは素直な気持ちだ。

 きっとメーリンなら、理想の暗黒大陸を共有することができるだろう。

 いや、彼女ならより具体的なヴィジョンをみんなに提供できるかもしれない。


「まだアルか、大魔王様」


 チンさんの店を覗き込んだのは、噂のメーリンだった。

 後ろには出立の準備を整えたルナたちもいる。


「ちょうど良かった、メーリン」

「???」


 事情がわからないメーリンは、首を傾げる。

 片眼鏡からぶら下がった金の鎖が、しゃらりと揺れる。


 俺はメーリンの傾けた頭に手を置いた。


「ちょっと! いきなり何するアルね。触る時は触るというネ。あと、お触り1回20銀貨アルよ。後で小指を添えて払うよろし!」


 やめろ!

 その口調で「お触り」とかいうな。

 なんかリアルだから。リアルを感じるから。


 あと、小指を添えて?

 普通は耳を揃えてじゃないの?

 マナストリアではそういう表現になるだろうか。

 だったら、随分乱暴だ……。


「冗談。嘘アルよ」

「嘘なんだ……。良かった」

「で――そろそろこの手をどけて欲しいネ」

「ごめんごめん。ちょっと待ってね」



 【言霊ネイムド】――――メーリン。



 俺はメーリンに名前を付ける。

 そう言えば、メーリンって誰に付けてもらったんだろうか。


 すると、いつも通りステータスが現れた。



 名前   : メーリン

 レベル  : 1/90

    力 : 18

   魔力 : 23

   体力 : 24

  素早さ : 19

  耐久力 : 25


 ジョブ  : 商人


 スキル  : 値切るLV1



 お。ジョブ持ちだ。

 「商人」ってまた直球だな。

 レベルの上限からして、SRあるいは星4ってところかな。

 スキルの『値切る』は、割と平凡だけど、良いスキルだ。

 買い物をする際は、メーリンと一緒に行きたいものだね。


 ステータスは総合的に高いけど、突出した数値がないから、あまり特色を感じられない。

 実は魔王城にいた時にも商人のジョブを持つ魔族に会っている。


 商人は一見サポートキャラなんだけど、実は俺が知る限り、最強の全体攻撃のスキルを持っているのだ。


 俺は手早くメーリンを育てることにした。



 【言霊ネイムド】――――メタルストーン



 店の外に出て、いつも通りメタルストーンを呼び出す。

 堅牢な鉄籠に閉じ込めると、水をかけた。


「おお! 凄いアル!! メタルムが復活したアル!!」


 メーリンは目を輝かせる。

 手品を初めて見た子どもみたいに驚いていた。


 本来なら海水をかけて殺すんだけど、最近はこっちの方法で殺している。


「メーリン、この粉を籠の中にいるメタルムにかけて」

「これって……毒蛾虫の粉アルか?」


 さすがは商人、よく知っているな。


「それをメタルムに……。かける時は風上に立ってね。みんなも……」


 注意を促す。

 メーリンは俺に指示されるままメタルムに毒蛾虫の粉を掛ける。

 途端、檻の中で暴れ回っていたメタルムが急に大人しくなってしまった。

 時折、しゃっくりをするように身を震わせる。

 やがてペタッと広がり、死んでしまった。


「アイヤー! この音、何アルか?」


 おそらくレベルアップしたのだろう。



 名前   : メーリン

 レベル  : 15/90

    力 : 72

   魔力 : 63

   体力 : 95

  素早さ : 69

  耐久力 : 65


 ジョブ  : 商人


 スキル  : 値切るLV1 鑑定LV1

        人脈LV1  拾うLV1



 その後、数匹メタルムを倒してもらい、メーリンはLV15になった。

 うん。身体能力はなかなかまとまったな。

 商人はサポートキャラだから仕方がない。

 封印の洞窟では、ルナとミャアを主戦力にして活躍してもらおう。


 だが、ちょっと楽しみだな。


 ニヤリと笑う。

 俺が注目したのは、スキル【人脈】である。

 【人脈】は使用することによって、周りの人間を意のままに操るスキルだ。

 これだけでも結構恐ろしいスキルである。


 だが、おそろしいのはここからだ。

 第2派生の【商隊】、第3派生の【軍団】は名前の通り商隊や軍団を読んで、攻撃できるというものである。

 この商隊や軍団がどこから出てきたかは謎だ。

 一種の召喚魔法みたいなものだと、俺は解釈している。


 その威力は推して知るべし。

 特に【軍団】なら小国の軍隊なら、軽くひねり潰せるぐらいの戦力を有している。

 最強スキルの一角であることは、間違いなかった。


「メーリン、どうだ? 気分は?」

「力が湧いてくる。身体も軽いアル」

「そいつは良かった」

「しかしある」

「ん?」

「お金は払わないアルよ」


 相変わらずケチだなあ。


「心配しなくても、お金はいらないよ。ルナにも、ミャアにももらってないしネ」

「そうか……。じゃあ、さっきの銀貨20枚、とっとと頭を供えて払うアル」


 そっちは払うのかよ!

 てか、耳じゃないの。

 頭を供えてどうするつもりなんだよ。


 出発する前からヘトヘトだけど、時間は刻一刻と過ぎている。

 俺たちは早速、封印の洞窟へと向かうのだった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


いつもお読みいただきありがとうございます。

ついに4万PVを越えました。

引き続き更新して参りますので、よろしくお願いします。



【「ククク……」を読んで、そのままこちらの話を読んでいる読者の皆様へ】

日曜日に外伝投稿する予定をしてます!

お楽しみに!

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